悪夢は甘美な物語を紡ぐ
ミスディレクション
気を失ったボインボインのミニスカサンタを加奈子ちゃんの部屋に運ぶと、トレーナーにミニスカート姿の麻也ちゃんが慌てて二階の自分の部屋から降りてきた。
「ねえ、ママどうしたの? 何かこっそりやってるみたいだから、あえて知らないふりしてたけど」
「いやまあ…… これ、いつ目を覚ますのかな?」
自分のベッドの上で安らかな寝息を立てる加奈子ちゃんから視線を外し、どう説明するべきか悩みながら後ろにいた
「さすが大賢者様ですね、私ではその目を欺く事は出来ないようです。どうか安心して下さい、彼女は一時間もしないうちに目覚めますし、自分で疲れて寝てしまったと誤認するでしょう。事前の調べで異世界や我々妖狐の情報を隠しているようでしたから、とっさにこうしましたが……」
また申し訳なさそうに頭をポリポリと掻く。
確かにあの魔術を見抜くのは難しいだろう。
無詠唱で素早く的確で、しかもミスディレクションを誘ってそれは行われていた。
わざと加奈子ちゃんの注意を自分の顔に向けさせ、俺が死角に入るよう自分を移動させながら催眠魔法を放っている。
まるでコインを隠す手品師が、わざと観客を右手に注目させて、左手で何か種になる動作を行うように。
大魔法を駆使して力押ししてくる魔術師は穴が多くて戦いやすいが、逆にこの手のタイプは魔力が小さくても侮れない奴が多かった。
ひょっとしたらこの人の好いちょっとボケた態度も、彼の演出なのかもしれない。
「えーっと、どちらさまでしたっけ?」
麻也ちゃんは
「初めましてかな? キミのお父さんの弟にあたる
「あっ、パパに似てるんだ!」
麻也ちゃんが驚きながら指を差した。
人に指を差すのは失礼だよと、注意しようか悩んだが、
「いやまあ、どうもそのようで」
嬉しそうにニコニコと笑う
何故かその言葉を、俺は胸の疼きと一緒に飲み込んだ。
× × × × ×
収納魔法の中に作った円卓に
今後のことも考えて、麻也ちゃんとクイーンと春香にも同席してもらった。
クイーンの話では
アンジェにも声を掛けようと思ったが、最近は傷も癒え、勇者の裏切りの後始末の作業などで異世界の教会や帝国とやり取りすることも多く、今日はこちらの世界にいなかった。
そう言えばモーリンに、
「皇帝陛下も会いたがってるしさあ、一度あっちに戻ってよ」
そんな事を言われたが……
例の皇帝陛下から受け取った『箱』の中身を見てから、異世界に帰り辛くなった。
以前なら皇帝陛下の想いをはぐらかしながら、アンジェやモーリンと共に教会や帝国の手伝いをしたかもしれないが…… 俺自身の心境の変化もあったし、さすがに正式な結婚の申し込みをうやむやには出来ない。
アンジェとモーリンには、
「考えがまとまったらこちらから会いに行く」
と、陛下に伝言を頼んだが……
しかし冷静になって考えると、陛下はこの世界と異世界がつながっていた事を知っていた節がある。やはり何かまだ俺が知らない秘密が隠されているようだ。
俺が悩みこんでいると、
「ご主人様、どうしたんですか?」
テーブルに人数分のお茶を並べ終えたメイド服姿の春香が、俺の顔を覗き込んできた。
「いや、大した事じゃない」
何とか苦笑いを返すと、
「やはりお邪魔でしたでしょうか?」
「いや別件と言うか、あまりにもこの世界と異世界の交友が盛んなので、不思議に思って」
「ではまずそこからお話しますが、そもそも我ら妖狐族の様な
「魔族には古くから神々が姿を隠し、人々が魔法を忘れ、己の手で文明を進めた異世界がある」
そんな言い伝えがあるそうだ。
そしてその世界で魔法を忘れなかった一部の種族たちは『歪み』を利用してこの世界に訪れることがあり、またその逆として、
「魔族がこの世界に移り住んだと言う伝承もあります」
俺が隣でお茶を飲んでいたクイーンを見ると、
「隣接世界の伝承だなー、あたいも耳にはしてたけど、確かにここがそうだって言われたら、納得できるかな」
すまし顔でそんな事を言う。
うーん、それ、初耳なんだが。
俺が首を捻っていると、
「サイトー様のケースはとてもレアでして、魔力を持たない者の転移は神々の取引…… つまりこの世界と異世界の神の間で何か契約が交わされた可能性が高いです」
そう言われると、何だか心当たりが無きにしも非ずだ。
「私は大戦中森が空襲され、あの稲荷の『要の岩』まで逃げ延びた際に転移しました」
温泉稲荷の要の岩は、俺が帰還した転移扉と同じで『不安定な歪み』のひとつらしく、第二次世界大戦の余波でたまたまそれが開き、瀕死の
そして異世界で
「戻れないと思っていたこの世界とつながる『安定した歪み』が出現したと知りまして」
前の世界が気がかりだった
そこまで話を聞いて、黙ってお茶を飲んでいた麻也ちゃんが心配になり、ふと視線を向けると、
「千代叔母さんから話は聞いたことがある。パパの
麻也ちゃんはパパが亡くなったのが子供の頃過ぎて、写真でしか顔を知らないと言ってたけど、少し懐かしそうに
きっと何か感じるところがあるのだろう。
しかし運命とはいつも理不尽で、世界とは奇跡に満ちたものだ。
もしも俺が
考えてみたが、ウエディングドレスを着た皇帝陛下が早速とばかりにニコニコと笑いながら俺をこき使う映像が頭に浮かぶぐらいで……
うん、やはり結婚そのものがあり得ないな。
――そんな結論に達した。
俺が腕を組んで首を捻っていたら、
「話が脱線してしまったようで、申し訳ないですね。では具体的な
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