なんて卑怯な魔法なんだ!

 結局麻也ちゃんも春香と同じメイド服になってもらう。


 やはり俺の青春は帰ってこないようだが……


 春香より背が高いせいかスカートがより短く感じるし、胸も大きいからエプロンドレスに包まれた胸元が凄いことになっている。


 見ようによってはセーラー服よりエロいが、

「まあ、前よりましね」


 ボインボインのエロメイドさんはそうおっしゃった。


「とにかく急ごう」

 俺が麻也ちゃんの揺れる胸元から何とか目をそらし、


『明るい都市計画』

 と書かれたプレートの前に立つ。


 それがリュウキの勤め先だが……


 会社のマスコットか何かだろうか? どう見てもアレにしか思えないキャラクターが下品に笑うイラストが扉に描かれていた。


 ――リュウキはいったい何処に向かっているのだろう。


 色々と突っ込みたい衝動を抑えて扉をそっと開けると、異世界で嗅ぎなれた匂いが鼻を衝く。後ろにいた春香の目元が鋭くなり、麻也ちゃんも眉根を寄せた。


「二人はそのまま待機してくれ、まずは俺が様子を見る」


 姿勢を屈め扉の隙間から体を滑り込ませると、小さなうめき声と血の臭いが充満していた。受付カウンターの下には倒れ込んだまま、浅い呼吸を繰り返す巫女服の少女がひとり。


 サーチ魔法を展開しても敵の気配が感じられないので、俺は光魔法で部屋を照らしながら少女に近付く。


「麻也ちゃん、春香! 手伝ってくれ」


 室内にはスーツ姿の会社員が十数名、巫女服の女の子が数名倒れ込んでいた。


「そんな!」

「ちっ、逃げた後ですか」


「まだ全員息がある! 転移魔法を開くから応急処置が済み次第、怪我人を『温泉稲荷』へ送ってくれ」


 俺の指示に麻也ちゃんと春香が部屋の中へ走り込む。


 怪我の具合がひどい人間を麻也ちゃんが回復魔法で癒し、軽い症状の人間には春香が拘束魔法を応用した止血処理などを行って、順に転移を始める。


 特に指示は出さなかったが、二人のコンビネーションは的確でスピーディーだった。


 俺も苦手な回復魔法を使いながら怪我人を搬送する。

 スーツ姿の人間は見覚えのある爪や牙に引き裂かれたような跡があり、巫女服の少女たちには銃弾の後があった。


 二人が怪我人の搬送を終えると、部屋に残ったのは三人の巫女服美少女。


「ご主人様、この娘たちは……」

 春香が少女たちを悲痛な面持ちで眺めた。


「お前と同じ自爆術式が仕込んである、俺が解除したらすぐ稲荷へ転移してくれ」

「敵ですが」

「美少女は問答無用で助けるのが俺の主義だ」


 春香は嬉しそうに微笑み、麻也ちゃんはあきれたようにため息をつく。


 麻也ちゃんがもう応急処置を終わらせていたようだから、順番に巫女服に仕込まれていた自爆術式を解除していったが……


 ひとり、春香と同じように心臓の上にも自爆術式が仕掛けられている少女がいた。


「この娘レイナって言って、鬼族とのハーフなんです」

 春香と麻也ちゃんが俺の横に来る。


 その少女には栗色の美しいロングヘアで隠すように、小さな角が二本あった。


「俺の声が聞こえるか」


 抱きかかえると大きなブラウンのツリ目を開き、コクリと頷く。

 その瞬間、カチリと音がして胸元の魔力が向上した。


 巫女服の少女は何かに気付いたのか、小さく震えたが、


「動かないで、キミに仕掛けられた自爆術式をこれから解除する」


 俺の目を見て、

「お、お願い、た、助けて」

 途切れ途切れに言葉をもらした。


「もちろんだ、安心しろ。このまま視線を外すな、そこから術式を読み込んで心臓に仕掛けられた爆破魔術を外す」


 右手を心臓の上に乗せたが、巫女服が邪魔をして式まで手が届かない。

 どうやらこの服は術の解除を妨げる仕様にもなっているようだ。


 俺は悩んだ末、衿からそっと心臓の上に向かって手を伸ばす。

 ダイレクトにブラジャーに触れてしまったが、なんとかひとつひとつ解読して指を動かすと……


「んっ、んっ」「あっ…… はぁん!」


 春香より大きくて弾力に富んだ胸は、俺の作業をより難解なものにした。

 途中、ポヨンとかプニッとかの感覚や、妙に色っぽい美少女の悶える顔が集中を妨げる……


 ――くそ、相変わらずなんて卑怯な魔法なんだ!


 俺は心の中で、色々な意味で悪態をついた。


「もう少しの辛抱だ」

 最後の爆発コアまで手が届き、俺がそれを指先でつまんで引き抜くと、


「あっんん!」


 鬼娘が大きく身体を震わせる。

 どうやら今回もギリギリのところで解呪に成功したようだ。


「あ、ありがとう」


 少女が俺の首に手をまわしてしがみ付き、何度も小さなけいれんを繰り返す。

 顔つきは春香や麻也ちゃんと同じぐらい幼かったが、体つきはポンキューポンのダイナマイト仕様で、ムニュムニュといろんなものが当たって居たたまれない。


「後はお稲荷さんで治療を受けて。そんなのにしがみ付いてたら、もっと変な呪いに掛かっちゃうから」


 麻也ちゃんが俺たちを強引に引き離すと、鬼娘はせつなげな表情で手を伸ばしてきたが、


「良かったね、レイナ! 後は心配しないで」

 その手を横から春香が握りしめ、二人で転移魔法の入り口へ連行して行った。


「なあ春香、うち鬼族の血も入っとるからここまで回復したら普通に動ける。もうちょと余韻を、せめてあのイケメンと仲ようなれるチャンスを……」


 そんなせつない声が聞こえてきたが、春香も麻也ちゃんも悩まず転移魔法に鬼娘を放り込んだ。


 俺は手に残る素敵な感覚を何とか振り払い、

「下神の奴ら、やはり許せん!」

 決意を新たにしたが……



 二人は何故か、冷めたジト目で俺を眺めた。

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