動物園

安良巻祐介

 

 日曜日に一人で動物園に行って、起きている動物の疎らな、全体に森閑とした檻を眺めながら、なくなってしまった仕事や、消えてしまった人々の事をぼんやり考えていたら、いつの間にか突き当りの大きな檻の前に立っていた。

 その大きな檻は、本当にあまりにも大きくて、まったく、こんな中に入る動物がいるのかという気持ちがする。象とか熊とか、陸にいないけれど鯨とか、或いは大昔にいた恐竜とか、そういう名前を思い浮かべても、さっくり来ない。そういうものであっても、この檻は広すぎるだろうと。

 それに、大きな檻というのはそれ自体、何かしらが矛盾していて、いくら広くても、その空白の大きさこそが、生き物には耐えられないはずだ。

 けれども、それでも辛抱強くずっと見ていると、そこには確かに生活の気配がある。いや、生活というよりも、存在の気配である。

 ということは、何か根本的な部分が、象・熊・鯨・恐竜などと異なる種類の動物が、この檻の主に違いないと思われてくる。そうでなければ、耐えられるわけがない。

 そう考えて、檻の中を覗き込むと、広々としたその空間の奥には、立派な獣舎が据え付けられていて、扉が、真っ黒な口を開けていた。

 凄まじく大きな口だった。

 真昼なのに、全く中が見えない。倦んだ墨壺のような闇だった。

 そうして、園内アナウンスがされた。

「ここはお前の祖父の棲む場所だ」

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動物園 安良巻祐介 @aramaki88

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