第5話 俺のコルクが火を噴くぜ

 xy


「最初はどこに行くんだ?」

「最初はね……射的をしよう」

「おっ、射的か。面白そうだな」

「でしょでしょ!」

 ケイリはテンションアゲアゲで、バキューン、とライフルを撃つ仕草をした。

 …………ケイリがライフル撃ったら反動でめっちゃぶっ飛びそうだな………………なんて言ったらまた『ぶつり かくとう いりょく130 めいちゅう90  はずすと じぶんが ダメージを うける』技がタイプ一致で飛んでくるだろうから、心にそっとしまっておくことにする。あと命中90は当たる。

「まあ、私なんかが実銃なんて撃ったら27m74.983261cm±3m81.229183cmぐらい吹っ飛ぶだろうけどね」

 あっそこ認めるんですか…………

 てかcmを更に小数第6位まで定めて尚且つ風向き云々の誤差までつけたのに、「ぐらい」って何なんだ?ケイリの誤差の範囲に収まらない場合って……?

「ちょっと、何考え込んでるの?早く行くよ!」

 ……これが普通の物語なら、確実に伏線張られるケイリの返答だが……すまんな、特に何もないんだ。


「よし、着いたね。テ・キ・ヤ!」

「いやそれだったら露店全部になるだろ。射的屋だ、しゃ・て・き・や」

「ああ、そっかぁ、エヘヘへへ~」

 ん?ケイリさんいつの間に酒入れてました?


 射的屋まではそんなに距離はなかったのだが……この混み具合のせいで意外と時間がかかったなぁ。

 この調子でちゃんと回れるんだろうかと不安になったが……まあもう面倒だから考えるのはやめよう。きっと作者がご都合主義でなんとかしてくれるって(ええ……:編集部)。

「じゃ、やろうよ」

「そうだな。1回500円で5発か。ぶっちゃけどうなんだ?あんまり射的はやらないから相場とかわかんないんだが」

「1発100円なら妥当なぐらいじゃない?私達が小学生だったら、1発60円だったんだけどね」

 …………まあケイリなら小学生って言ってもワンチャンバレなさそうだけどな。

「あっ、今『まあケイリなら小学生って言ってもワンチャンバレなさそうだけどな。』とか思ってたでしょ!サンバイザー飛ばすぞ!」

「いや何で分かんだよてかサンバイザーはもういいわどっから取り出してくるんだサンバイザー!!」

「まっ、私レベルのプロ身長いじられプレイヤーになるとね、もう相手が私の身長のこと言ってんだろうなー、みたいなことが分かってくるんだよ(ドヤァ)」

 サンバイザーはスルーですかそうですか。

 それよりもプロ身長いじられプレイヤーってなんなんだ……?お前そんなんでドヤっていいのか一応コンプレックスからできた特技だぞそれ。

 ……でもそれじゃあ、なんでさっきの銃のくだりにはそのスキルが発動しなかったんだ?

「それはね~、あんまり身長とは関係なかったからねぇ。条件としてはどちらかというと体重の方が文字通りウェイト重いし、まあ身長もそりゃ関係はあるんだけど、それって表面積の情報の中に含まれるからねぇ。重要度は高くないからさ、わかんないよねぇ」

「そんなもんか………………って、今回は身長のことに言及してなかったのになんで読めたんだよ!?」

「いや、『じゃあ、なんでさっきの―』とか言ってる時点で完全に身長馬鹿にしたニュアンスだったでしょ!露骨なんだよ!もうちょっと心のオブラート包め!」

「心にまで愛想出しとかなきゃいけないのかよ!?」

「……いやもうそれ言った時点で確信犯だよね?」

 …………サーセン。


「あの~、店主さん。やってもいいですか?」

「はいよ、5発でなるべく多くの景品を取ってくれよ」

 ケイリは500円を投げ渡して銃にコルクを詰める。

 ……慣れてんなぁ。

「なに狙おっかな、っと……………」

 ケイリはウキウキしながら景品を目で均等に舐めずった。

 結構景品があり、狙いを探すのも大変そうだが……30秒ほどで猛禽類ケイリは標的を見つけたようだ。

「おっ、いいのあんじゃん。あれにすりゅ……あれにする!」

 あっ言い直した。

 最後の1文字だっただけにどうしてもくれても決めたかったのだろうなぁ。


「それで、何にするんだ?」

「あの『Ni〇tendo Sw〇tch』にするよ」

「おっ、『〇wich』か。………………って、『〇wich』!?…………あの大物を狙うってのか?」

 射的の華形とも言えるゲーム機。

 それはいつの世でも、プレイヤーに大いなる希望と、それをも呑み込んでなお飽き足らない様子の絶望を与えてきた。

 ゲーム機の箱は幅が厚い。摩擦だってその分大きいので、底自体が支えのようになっている。更に、ゲーム機も決して軽くはない。昨今のゲーム機は軽量化を目指してミリグラム単位の調整がなされてはいるが、それでもあの樹皮弾程度に負ける横綱ではない。

 プレイヤーはこの化け物に挑み、「ん?今動いた?」を永久に繰り返して財をどんどん身軽にしていく。

 重量が減るのと比例して、プレイヤーの心の温もりも喪われていく。

 そして資金が尽きた時、遂にプレイヤーの心には虚無のみが宿る。

「なんで簡単なやつにしなかったんだろう」「こんな事ならやんなきゃよかった」……そんな事を考えた頃にはもうとっくに手遅れ。

 そんなありふれた絶望の終末を迎えさせるゲーム機VS数学界の現人神にしてついさっき型抜きを潰してきたケイリ。

 果たしてケイリは、あの巨人を打ち倒すことができるのだろうか。

「…………アクト君、『Swit〇h』の重さって知ってる?」

 ケイリは標的をジッと見つめたまま、そんな事を訊いてきた。


 なんで今そんなことを聞くのだろうか?

 俺は質問の意味をイマイチ測りかねていた。

 もしかして、もう取った時のことを考えてるのか?

 「重いんだったら持ち運び面倒だな~」みたいな。

 …………いや、それは違うな。俺はケイリを見て、自分の愚考を即否定する。


 ケイリの双眸が、ただただ真っ直ぐな鋭さを帯びている。

 真剣のように研ぎ澄まされた、業物の瞳。

 そんなケイリの佇まいは、熊と対峙する熟練狩人を思わせた。

 つまり、恐らく別の理由がある。

 しかし、それがわからない。重さ……重さ……重さ……

「……え、えっと……確か箱とか諸々合わせて……420g位だったはずだが……」

 俺は謎が解けないまま、この前偶然読んだ本にあった情報を脳内から咄嗟に掘り起こして、何とか答えた。

 我ながらよくこんなものを覚えていたなぁ。

 恐らくこれから先この情報を使う事は一生来ないぞ……。

「OK、ありがと。だったら……………………」

 ケイリは数秒獲物を見つめ、

「見えた!ここだ!!!!!!」


 パスン!


 ケイリの撃った1発のコルク弾は、『Nintend○ Swi○ch』の箱の上の長辺、丁度中点と思われる場所に上向きで当たり、俺が絶対に倒れないと思っていたあの怪物を、見事に討伐してみせた。

「やったぁ!『S○itch』ゲット!」

「………………まっ、マジでやりやがった……」

 なるほど、ようやくわかった。

 というか思い出した。

 ケイリの伝説の1つを。

 驚異的な空間把握能力。見ただけで距離、面積、体積が分かるというバグスキル。

 それに本人の化け物数学力が合わされば、重さという情報さえわかれば後は当てはめて計算するだけで、獲物を撃ち抜くなど造作もない。

 どんな測量機よりも正確な少女。伊能忠敬よりも異能ってか。

 にしても、仮にベストな位置が分かったとしても、そこにピッタリ当てるというのは常人に出来ることではないはずだ。空気の流れや弾の込め方、反動の様子まで理解して調整しなければいけないだろう。

 うん。やっぱこいつ、『バケモノ』だ。

「じゃあ、この『◯witch』はアクト君にあげよう!ありがたく受け取りたまえよ!」

「良いのか?結構な高級品だぞ?」

「良いって良いって。どうせ私が持ってたところで使うことはもう無いから」

 使うことは『もう』ないから……?使う事は『多分』ない、とかではなく?

 仮にゲームが嫌いでももう、なんて言うのか?

 天才は不思議な言葉遣いをするもんだなぁ。常人が理解するのは苦労するぜ。


「ささ、アクト君。折角だからアクト君もやろうよ!」

「えー、マジ?俺こういうの苦手なんだよなぁ。しかも高級品落とされた後だしさ」

「まあまあ、良いじゃん良いじゃん。残り4発全部やっちゃって良いからさ」

「それ店側はいいのか?プレイヤーが変わるって」

 そう言って店主を見ると、全身を痙攣させながら首を縦に振り続けていた。 

 そんなにトラウマかよケイリがプレイするのが。

 どんだけS◯itchに自信あったんだ?

「じゃあ、僭越ながら撃たせて頂きますっと」

 俺は弾を込め、レバーを引いた。カチャリ、と良い音が響く。

「おっ、アクト君。結構様になってるじゃん。正に狩人って感じじゃない?」

 いやお前ほどではないけどな絶対。

「何狙うの?」

「まあまずは小物から。ガムとかでも狙ってみようか」

 まあつまらない標的だろうが、初心者はまずこれぐらいから始めるもんだ。

 照準を、四角いガムの容器に合わせる。脇を締め、息を止める。

 そして心臓の鼓動を読んで……今!

 狙ったガムは……健在だった……

「ああ……外しちまった」

「いや、アクト君!当たってるよ!」

「は?」

 もう一度、よく目を凝らす。

 いや、確かに獲物は倒れてな……

「何寝ぼけてんの?アレだよアレ!」

「アレ?」

 ケイリが指差した方向を見る。

「あっ!」

倒れていた……確かに、倒れていた。俺の狙いのすぐ横に置いてあったガムが……4つも!?

「1度に4体も狙った獲物を撃ち抜くなんて、やるじゃん!」

「狙ったのあれじゃないんだけどなぁ……」

「どうだいキミ?私とアサシンを目指さないかい?」

「いや標的と微妙に違うやつを殺す暗殺者とか嫌すぎるだろ……」

 てか会話が物騒すぎやしませんかね……もう店主さんぶっ倒れそうになってるよ……

 別に俺達そんなんじゃないですからね?俺に関してはまぐれですからね?


「でも、アサシンって響きかっこいいよね!頑張れアクター!残りも片付けちまえ!」

「いや確かにアサシンそんな感じのコードネーム付けてるけど!」

 アクトでアクターは安直すぎでは?絶対身元バレるぞ……


 俺たちの祭は、全く殺伐としないテイストで進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日見た花火は残酷なまでに美しい真円だった rawi @RAWI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る