23. 言語


 翌朝。


 隊商は再び、予定よりも少し遅れて出発した。


 原因は言わずもがな、ピエールの馬車だ。村の鍛冶屋に手を借りて入念に修理した結果、普通に速度を出しても問題ないレベルまで直ったものの、代わりにかなり時間を食ってしまったのだ。


 何かあったら今度は置いていくぞ――というのは、隊商のシェフたるホランドの言葉である。



 ガラガラガラと、車輪の転がる音。



 サスケの背に揺られるケイは、何の因果か、ピエールの馬車の横にいた。


「いやぁ、ケイ君が居てくれると心強いなぁ」


 馬車の手綱を握りながら、ニコニコと笑顔を向けるピエール。彼は二十代後半ほどの痩せの男で、見習いから叩き上げで馬車を持った若手の行商人だ。が、商売を始めたばかりで資金力がないせいか、はたまたその貧相な体格のせいか、ホランドや他の商人たちと比べると、どうにもみみっちい印象を受ける。


「また何かあったら、その時はお願いするね! 頼りにしてるよケイ君」

「……そいつはどうも」


 ピエールの言葉に生返事をして、ケイは気取られない程度に小さく溜息をつく。


 要は、配置転換であった。


 昨日、ピエールはケイの腕力にいたく感動したようで、いざという時のフォローの為に、ケイを傍に置いてもらえるようホランドに頼んでいたらしい。そして特に断る理由を持たなかったホランドは、あっさりとそれを承認してしまったのだ。


 そもそもケイとアイリーンは、元は必要とされていなかった人員、この隊商における余剰戦力だ。本来ならばただの旅人として参加するところを、コーンウェル商会のコネによって、給金を受け取れる『護衛』の立場にねじ込んでもらったに過ぎない。


 つまるところホランドからすれば、ケイの配置は、割とどうでもいいのだ。それが中央であろうとも、後方であろうとも。


(――まあ、それはいいんだが、)


 むぅ、とケイは難しい顔をした。じっとりとした目で見やる、数十メートル先。



 スズカに跨るアイリーン――と、その横をついて歩く金髪の青年。



(……アイツが前に行かなくていいだろ!)


 言うまでもない、アレクセイだ。


 旅人として隊商に参加する彼は、戦士ではあるが護衛ではなく、従って給料を受け取らぬ代わりに特別な義務も発生しない。せいぜい隊商が襲撃を受けた際に助太刀をするくらいのもので、後は皆に迷惑をかけぬ限り、何をしていてもいいのだ。


 今は能天気に頭の後ろで手を組んで、大股で歩きながら、楽しげにアイリーンに話しかけている。


「И так, ты знаете?」

「Что?」

「Когда он был маленьким ...」


 風に流されてくる、楽しげな二人の会話。ロシア語なので何を話しているのかはさっぱりだが、朝からずっとこの調子だった。


「…………」


 なんとも――、落ち着かない気分。「アイリーンが誰かとロシア語で話している」、言葉にしてしまえばただそれだけのこと。しかしその"それだけ"が、気にかかって仕方がない。会話の内容が分からないからか、アレクセイが妙に馴れ馴れしいからか、もしくは――。


 もしくは……。


「……ふぅ」


 小さく溜息をつく。


 もやもやと胸の奥底から湧き上がる、この釈然としない感情を、どう処理したものか。孤独な馬上でケイは、ひとり頭を悩ませていた。


 あるいは、ケイが二人の様子をよく観察していれば。


 会話の大部分をアレクセイが占めており、アイリーンは質問を挟みつつも、基本的に相槌を打っているだけ、ということに気付けたのかもしれないが――。




「どうしたんだい、ケイ君。元気がないように見えるけど」


 ぼんやりとしていると、横から声をかけられる。


 見れば右手、心配げにこちらを覗き込むピエールの顔。


「……いや、」


 一瞬、「お前のせいだよ!」と言いたい衝動に駆られたが、頭を振ったケイは手をひらひらとさせて誤魔化した。


「そんなことはない。いつも通り元気さ」

「そうかい?」

「ああ」


 そこでふと、昨夜のアレクセイの言葉を思い出す。


 "ピエールの旦那とは個人的な知り合いでな"


「……なあ、ピエール、ひとつ聞きたいんだが」

「ん? なんだい? 僕が知ってることなら、何でも聞いておくれよ」


 人懐っこい笑みを浮かべるピエールに、悪い奴じゃないんだがなぁ、と苦笑しつつ、


「昨夜、アレクセイが言ってたんだが、あなたは彼と個人的な知り合いなんだろう? どんな風に知り合ったんだ?」

「ああ、アレクセイか。彼はね、僕の命の恩人なんだよ」

「命の恩人?」


 思わぬ言葉が飛び出てきた。興味深げなケイをよそに、ぴょるん、とした控え目なカイゼル髭を撫でつけながら、ピエールはどこか遠い目をする。


「二年前のことだったかなぁ。僕がまだ見習いだったときの話さ。師匠の馬車に乗って、モルラ川より東で行商をしてたんだけどね、街道からちょっと外れたあたりで、盗賊に襲われてさ」

「ほうほう」

「後方から、弓矢の奇襲だったかな。それで運悪く、二人いた護衛の片方が即死、もう片方も怪我しちゃってね。……一応、ほら、僕ら商人も戦うからさ」


 ひょい、と御者台の傍らに置いていたショートボウを、持ち上げて見せるピエール。


「師匠と、怪我した護衛と、僕ら見習いが何人か……。全員戦う覚悟は出来てたんだけど、いかんせん相手が多くてね。七、八人はいたと思う、しかもけっこう強そうでさぁソイツら。こりゃもうダメかな、と諦めかけた、まさにその時!」


 手綱を放り出して、ピエールは大袈裟に天を仰ぐ。


「道の向こう側から、地を這うように、放たれた矢のように、猛然と駆けてくる少年が一人ッ! ……それが彼さ。あの時は、今より背も低かったし子供っぽかったけど、本ッ当に強かったなぁ。こう、バッタバッタと……あっという間に五人を討ち取っていったよ。残りの賊は、こりゃ敵わないと尻尾捲いて逃げていった」

「ほう、それは……やるな」


 ケイの口から漏れ出たのは、紛れもなく本心からの言葉。現在、アレクセイは十八歳ほどに見える。それが二年前の話となると、当時の彼は十六にも満たない、子供といってもいい年頃だろう。話を聞く限りでは機先を制したようだが、それでも大の大人を五人も殺害するのは、容易なことではない。


 なかなかに侮れぬ――と、そう思うケイの目は鋭い。


「あの光景は目に焼き付いて離れないよ。本当に強かった……それから近くの村によって、師匠がお礼とばかりに宴会をして。僕は、見習いだったから、特に何もできなかったけど。次に会った時は、何かお礼をしたいなと考えていたんだよ」


 そして、つい先日、サティナの街で偶然アレクセイと再会した――というわけだ。


「なるほど、な……。しかし、すごい偶然だな。街道のはずれで、彼のような強者に出会い、その助太刀で九死に一生を得るとは……」

「だねえ、僕もそう思わずにはいられないよ」

「しかし、奴は雪原の民だろう? なんだってこんな辺鄙な場所に、しかも一人で?」


 ケイの疑問に、ピエールはしたり顔で頷きながら、


「何でも、成人の儀を兼ねた武者修行の旅らしいよ。話によると彼は、優秀な戦士にのみ許される、『紋章』をその身に刻んでいるらしい」

「……ほう」


 相槌を打つケイの声が、真剣味を増した。



 『紋章』は、少なくとも【DEMONDAL】のゲーム内においては、雪原の民が編み出したとされる秘術であった。いわゆる一種の魔術で、精霊の力を借り、野獣の魂をその身に封じて肉体を強化する業。


 プレイヤーがそれを獲得するには、雪原の民の居住地を訪れ、長老より課せられる厳しい試練――課金アイテムにより難易度の軽減が可能――に打ち勝つことが必要であった。おそらく、術の形態や試練の内容は、この世界においても同じだろう、とケイは予想する。


 それが余所者に開放されているかは謎だが――。


 ともあれ、課金と廃プレイの併せ技により、ケイは現在『視力強化』『身体強化』『筋力強化』の三つの紋章をその身に刻んでいる。


 対人戦闘において、紋章の有無は大きな能力差を生む。年端もいかぬアレクセイが、複数の盗賊相手に大立ち回りできたのも、それに依るところが大きいだろう。おそらく、『筋力強化』か『身体強化』か――運動能力を底上げする紋章を、その身に刻んでいると見て間違いない。



「紋章を得た雪原の民の戦士は、二年ほど各地を放浪して、武勇を磨かなければならないらしい。二年前に僕らと別れた後、一人で鉱山都市ガロンまで向かって、東の辺境で魔物や未開の部族と戦ってたんだって。……あ、あと、」


 思い出した、と言わんばかりに、ピエールはニッコリと笑みを浮かべた。


「アレクセイの場合、新しい血を入れるために、お嫁さん探しも兼ねてるんだってさ」

「……ほーう」


 相槌を打つケイの声が、僅かにその温度を下げた。


「へっへっへ、どうしたケイ」


 ピエールを挟んで反対側。馬上で黙って話を聞いていたダグマルが、ケイの顔を見て笑い声を上げる。


「そんなに気になるのか? お前の嫁さんが」


 面白おかしげな顔で、ダグマルは前方に、ちらりと意味ありげな視線を送った。


 目を瞬かせること数秒、「your wifeお前の嫁さん」が、アイリーンを指し示していることに気付き、


「別にっ、そういうわけではない」


 ぶんぶんと手を振りながら、早口なケイの否定に、「本当か?」と笑みを濃くするダグマル。その笑顔にムッとしながら――なぜ自分がムッとしているのか疑問に思いつつ――ケイは、自分を落ちつけるように大きく咳払いをした。


「――別に、彼女は俺の妻じゃないし、恋人でもない。そもそも俺たちは関係じゃないんだ」

「へっ?」


 ケイの言葉に、ダグマルが気の抜けたような声を出す。


「……つってもお前、あの娘と一緒のテントで寝てるだろ」

「まぁ、それは、そうだが……」


 返す刀のダグマルの指摘に、渋い顔をする羽目になったのはケイだ。



 昨夜、ケイとアイリーンは、同じテントの中で眠った。



 夜番の関係でケイが先に眠りについたこともあり、揃ってテントにINしたという感覚は薄いが、添い寝に近い至近距離で一緒に寝ていたのは事実だ。

 一人より二人の方が色々な面で安全だから――ケイ以外に知り合いがいないから――持てる荷物の量に限りがあってテントが一つしかないから――理由は色々とあるが、少なくとも、『別々に寝る必要性を感じなかった』のは、これもまた事実といえるだろう。今まで散々、宿屋で同じ部屋を取っておいて、何を今更という話ではあるのだが。


「一緒のテントで寝てはいるが……、その……、接触とか、そういうのはないぞ」

「……マジで言ってんのか?」

「ああ」


 重々しく頷くケイに、「理解不能」といった表情で、顔を見合わせるダグマルとピエール。やがて、ダグマルは何かを察したように、


「そうか……お前、男色だったのか。今度からケイじゃなくてゲイって呼ぶわ」

「違うッ、そういうわけでもないッ!」


 サスケの上からずり落ちそうになりながら、思わず声を荒げる。


「いや、だって。……なあ?」


 ダグマルに同意を求めるような目を向けられ、うんうんと頷いたピエールは、


「あんな美人と一緒で、何もないってのもねえ、変な話じゃないか。僕はてっきり、彼女とは恋仲なのかと思っていたけど」

「……親しい友人ではあるが、恋人ではない」

「だけどよケイ、お前あんな娘と一緒に寝て、何とも思わねえのかよ?」


 信じらんねえ、という顔のままでダグマルがぐいと体を乗り出した。


「普通、あれだけの美人が無防備にしてりゃ、突っ込むだろ? 男なら」


 左手で輪っかを作り、右手の指を差し込むジェスチャー。


「いや、それは……」


 僅かに顔を赤らめて、ごにょごにょとケイの返事は、要領を得ない。



 正直なところ。


 ケイも男だ。


 アイリーンのような美少女を前にして、何も思わないわけがない。


 そしてこれは、目下のところ、ケイが直面している最大の問題でもあった。



 アイリーンとアレクセイ。二人が話しているのを見ていると、胸の内にもやもやとした感覚が湧き上がってくる。


 疎外感、危機感、不安感。


 これらを表現するに足る言葉は、頭の中にいくつも浮かびあがる。だが、その中で最もシンプルで、かつ強力なのは、やはり『嫉妬』ではないかとケイは思う。


 ――では、何故こうも、嫉妬してしまうのか?


 アレクセイに対するライバル意識だ、と。己の胸に手を当てて、「これが、恋……?」と自問するのは容易い。

 しかし、アイリーンに対して抱いているある種の執着が、果たして純粋に恋慕の情によるものなのか。


 それが、ケイには分からない。疑っている、と言ってもよかった。


 ――あるいは、アイリーンに欲情しているのを、『恋』に昇華することで正当化しようとしているだけではないか、と。


 そう思えて、仕方がない。単純に、性欲に振り回されているだけなのではないか。そのはけ口を求めるため、アイリーンを好きだと思おうとしているのではないか。


 だとすれば、それは――彼女に対して失礼だと、ケイは思う。


 元々、『こちら』に来る前のケイは、それほど性欲が強いタイプではなかった。


 ピークは、おそらく十代半ばだろう。その後も人並にはあったのだが、末期症状の進行で生殖器にも影響が出始め、二十を過ぎたあたりから急激に醒めていった。転移直前のケイは、興味はあるがムラムラはせず、毎日が殆ど賢者タイムと言ってもいいような有り様だった。


 しかし、この世界で新たな肉体を得て、十日と少しが経過しようとしている。


 健全過ぎる肉体は、日に日にその欲求を増しているようにすら感じられた。サティナに滞在していたときは、人知れず自分で処理する方向で何とかしていたが、隊商には基本的にプライバシーがない。これは、非常に厳しい状況だった。


 それでも、何とか耐えようとしていた理性は、アレクセイの登場により崩壊しようとしている。アレクセイとアイリーンの間に割って入りたい。自分だけを見ていて欲しい。もっとアイリーンと話していたい。そんな衝動的な欲求に、身を任せたくなる。だがその直後に、こうも思ってしまうのだ。


(俺は本当に、アイリーンが『好き』なんだろうか)


 アイリーン、もといアンドレイとは、二年前からの付き合いになる。お互いに廃人で、仮想空間の中とはいえ、多くの時間を楽しく過ごしてきた。


 しかし、それはあくまで『友人』としてだ。親密ではあるが、良くも悪くも、それだけの関係。ケイは、アンドレイのことを、ずっと男だと思っていた。


 それが、『こちら』に来て、女の子だと分かって――。


 だからといって、十日と経たずに、急に『好き』になるのは如何なものか。


(……結局、それは、身体目当てなんじゃないか……)



 突き詰めていくと、そういう結論に、辿り着かざるを得ない。



「う~ん……」


 眉間にしわを寄せて、急に難しい顔で考え始めるケイ。


「…………」


 ダグマルとピエールは再び顔を見合わせて、小さく肩をすくめた。




          †††




 日が、とっぷりと沈むころ。


 夕暮れまでに次の村に辿り着けなかった隊商は、街道の路肩に馬車を寄せて、野営の準備を進めていた。


「この辺りは木々の密度も薄いし、それほど危険な獣もいない。が、だからこそ人間に関しては分からんからな……」

「夜番は、気合を入れていこう。皆を三組に分けて、ローテーションで三か所に一人ずつでいいと思うが」


 ホランドやダグマルなど、主だった者が集まり、今夜の番について話し合っている。横目でそれを見ながら、ハンマーを片手に、ケイは粛々とテントの設営を行っていた。


「さて、今日はオレも流石に番をするのかな?」


 ケイがロープを結ぶ間、反対側から布地を支えながら、心なしかワクワクしたような顔でアイリーンが言う。

 昨晩は村の中で野営をしたので、比較的安全だということで、夜の番は少人数で行われた。ケイは運悪くそれに当たってしまった一人だが、アイリーンは朝までたっぷりと睡眠を取れたようだ。しかし、それはそれで、本人としては不満足だったらしい、夜番があるかも、と期待する無邪気な表情は、まるでキャンプに来た子供のようにも見える。

 アイリーンは変わらないな、と和んだケイは、穏やかな笑みを浮かべて首肯した。


「旦那らの話を聞く限りだと、今晩は増員するみたいだからな。ま、昨日グースカ寝てた分、キツいのを回されるんじゃないか?」

「ゲエー。そいつは勘弁!」


 朗らかに笑いながら、テントを張り終える。ぱんぱん、とマントの裾をはたいて立ち上がったケイは、


「さて、と……。んじゃあそろそろ飯かな。マリーの婆様は――」

「ヘイ、アイリーン!!」


 威勢のいい呼びかけに、ケイの言葉は上書きされた。


 やはり来たか……とうんざりした様子で振り返るケイ。その隣で、「オイヨイヨイ……」と一瞬天を仰ぐアイリーン。


「то ты будешь делать сегодня вечером?」


 良い笑顔でテンション高めにやってきたのは、案の定アレクセイだった。


「Ничего делать ...」

「Серьезно? В противном случае, в первую очередь мы будем есть вместе――」


 楽しげなアレクセイに、それに合わせて笑顔のアイリーン。そしてそれを前に憮然とするケイと、三人を遠巻きに見守る隊商の面々と。


「――それじゃあまあ、ローテーションはこんなところか」

「そうだな。盗賊は恐ろしい、用心するに越したことはない……」


 相変わらず、夜番について話し合うホランドたち。その会話を聞き流しつつ、そっぽを向いて焚き火の炎を眺めていたケイであったが、ゆらゆらと揺れる影を見ているうちに、ちょっとしたアイデアと、ささやかな悪戯心が芽生えた。


「…………」


 にやり、と意地の悪い笑みを浮かべて、アイリーンに向き直る。


『なあ、アイリーン。話し込んでるところを済まないが、ちょっといいか』

「うぇっ?」


 アレクセイに構わず、強引に話に割り込んできたケイに、アイリーンはぱちぱちと目を瞬かせた。


『もちろんいい、けど……』


 困惑の表情、


『……でも、なんで精霊語エスペラント?』


 自分もエスペラント語で返しながら、アイリーンが首を傾げる。前にもこんなやり取りあったな、と苦笑いしつつ、ケイは腕を組んだ。


『うむ。というのも、魔術の話題だから、他人にはあまり聞かれたくなくてな』

『ああ、そういうこと。あっ、そういえばエッダに魔法見せてあげるんだった……』


 完全に忘れてたぜ、と言わんばかりに、ペシッと額を叩くアイリーン。視界の端、唐突に始まった異言語の応酬に、目を白黒させているアレクセイが、ケイの瞳には小気味よく映った。


『まあ後でいいや。それで?』

『そうだな、エッダの話にも関連するが、お前の魔術に関してだ』


 表情を真面目なものに切り替えて、ケイは話を切り出す。思い付きではあるが、ただのアレクセイに対する意趣返し、というわけでもないのだ。


『なあ、アイリーン。お前のケルスティンで、夜番の代わりというか、警戒用のセンサーみたいな術って使えると思うか?』

『……ふむ』


 ケイの問いかけに、指先で唇を撫でながら、しばし考え込むアイリーン。


『……ゲーム内なら「NO」だったが……この世界だと分からない。できるかも知れない、とは思うな』

『うーむ、やはりそうか。俺も同意見だ』

『何か、こっちに来てから、精霊が賢くなった気がするんだよなー。ケルスティンの思考の柔軟性が上がったというか』

『だな、俺のシーヴも、心なしか素直になった気がする』


 うんうん、と二人で頷き合う。



 【DEMONDAL】の魔術は、他ゲーに比べると少々異質だ。日本人にとっては、"魔術"と言うよりもむしろ、"召喚術"と呼んだ方がしっくりくるかも知れない。術を行使する主体がプレイヤーにではなく、契約精霊にあるのがその特徴だ。


 ゲーム内においては、まず"精霊"と呼ばれるNPCが存在し、プレイヤーは特定の条件をクリアすることで精霊と契約できるようになる。契約を交わした暁には、魔力や触媒を捧げることで、精霊に力を『行使してもらえる』ようになる、というのが基本的なシステムだ。


 ゲーム内では、この仕様はよく、『職人』と『客』の関係に例えられていた。『職人』が"精霊"で、『客』が"プレイヤー"、『客』が支払う『代金』が"魔力"だ。


 例えば、ここにお菓子職人がいたとする。客は「これこれこういったお菓子が欲しい」と注文し、代金を支払う。金が多すぎれば職人はお釣りを返し、注文されたお菓子を客に渡す――これが、【DEMONDAL】における魔術の、入力から出力までの一連の流れだ。


 ここでお金だけでなく、小麦粉やバターなども一緒に持って行って、「これを上げるから少し安くしてくださいな」と交渉するのが、魔術でいうところの"触媒"にあたる。職人は、それが欲しければ受け取って割引するし、いらなければ受け取らず無慈悲に代金を徴収する。代金がマイナスになれば、内臓を売り飛ばされてそのまま死んでしまうが、これが魔力切れによる"枯死"だ。


 ちなみに、お菓子職人のところに、板きれを持って行って「お金も払うから、これで家を建ててくれ」と交渉することもできる。受けるか受けないかはその職人次第、仮に受けたところで代金をボッタくられるかもしれないし、そもそも完成しないかもしれない。完成したところで専門外なので、その品質は保証できない。ただし、似たような分野のことであれば――洋菓子職人に和菓子を頼んでみる、など――案外、なんとかなる、かもしれない。


 これらのプロセスを全て精霊語エスペラントでこなさなければならないのが、【DEMONDAL】の魔術の難しいところだ。精霊はエスペラント語しか解さず、他に指示の出しようがないため、プレイヤーの語彙と文法力が術の複雑性・柔軟性に直結する。


 その上、精霊のAIは意図的にアホの子に設計されていたので、精霊への指示は分かりやすく、かつ簡潔でなければならなかった。これがなかなかの曲者で、出来の悪い翻訳ソフトに上手く訳文を作らせるような、そんなコツと慣れが要求されることも多々あった。



『だけど、今はそんなことはない。なんつーか、うまく意志疎通を図れるというか、明らかにケルスティンの物分かりが良くなった気がする』


 そう言うアイリーンに、ケイは重々しく頷いた。


『ああ。だから、警戒アラームみたいな高度な術も、抽象的な指示でこなせるんじゃないかと思ってな……』


 仮に、ゲーム内でケイたちが望むような術を構築するならば、敵味方の判別方法や細かい範囲、持続時間など各種パラメータを考える必要性があり、プログラミングのような高度かつ繊細な『呪文』が要求されるはずだ。


 だが、精霊がアホの子AIではなく、柔軟な思考が可能になった今ならば――。


『なるほど……幸い、触媒は腐るほどある。試してみる価値はありそうだな』


 にやりと笑って、アイリーンは胸元から、水晶の欠片の入った巾着袋を取り出した。


「よーし、じゃ、やってみるか!」

「ああ。ただその前に、とりあえずホランドに相談しておくか……」

「おう、だな!」


 二人は意気揚々と、ホランドのところへ向かっていく。


「…………」


 あとには、ポカンとした表情の、アレクセイ一人が残された。




 結果として。




 ホランドは魔術の使用を快諾し、それに応えたアイリーンは、わずか【顕現】一回分の水晶を代償に術の構築に成功した。

 具体的には、隊商の馬車群を中心に半径五十メートルの範囲で、獣や部外者が侵入すればケルスティンが影の文字で教えてくれる、という術だ。明日の朝日が差すまで有効らしいが、奇襲を受けるリスクを大幅に減らせることを考えると、素晴らしいコストパフォーマンスといえた。


 とぷんと影に呑まれる水晶や、影絵のようにダンスを披露するケルスティンの姿を見て、エッダは飛んだり跳ねたりの大喜びだった。そんな娘の喜びようもあってか、今後この術式を使う際、消費される触媒代はホランドがもつらしい。水晶のストックに余裕はあるとはいえ、願ってもない申し出だ。


 また、この術で夜番の労力が大幅に削減されたので、功労者のアイリーンはローテーションから外され、昨日遅めに番をこなしたケイも今日の夜番は免除となった。


 夕食後、興奮気味のアレクセイが凄い勢いでアイリーンに話しかけていたので、何とも鬱陶しかったが、それほど腹は立たなかった。


 比較的、穏やかな気持ちのまま、ケイは眠りに落ちていくのだった―― 




          †††




 パチッ、パチッと音を立てて、焚き火の小枝が爆ぜる。


「~♪」


 横倒しにした丸太にリラックスした様子で腰かけ、鼻歌を歌いながら、火の中に小枝を投げ込む金髪の青年。


「~♪ ~~♪」


 ぽきぽきと小枝を手折りながら、自身が醸し出す陽気な雰囲気の割に、鼻歌のメロディはどこか物悲しく、哀愁に満ちている。


「~~♪」


 手元に、小枝がなくなった。手持無沙汰になった青年は、傍らに置いた砂時計の残量を確認し、ふっと視線を上げる。


「…………」


 焚き火を挟んで反対側に、腰かける老婆と、褐色の肌の少女。


「……お嬢ちゃん」


 にやり、と野性的な笑みを浮かべた青年――アレクセイは、語りかけた。


「そろそろ寝なくっていいのか?」

「……まだ、眠くないの」


 褐色肌の少女――エッダは、後ろから自分をかき抱くハイデマリーの手を握りながら、はっきりと返した。

 強がっている風、ではない。そのきらきらとした目は、馬車の幌に映し出された影に固定されている。


 まるで影絵のように、くるくると踊る、ドレスで着飾った人型の影。


「これ、すげえよなぁ。暇つぶしにはぴったりだ」


 口の端を釣り上げて、子供のように純粋な笑顔で、アレクセイは頷いた。ちらり、と見やるは、一つのテント。寝静まった、物音ひとつ立てないテント――。


「しかしまさか、アイツまで魔術師だったとはね……」

「…………」


 アレクセイの呟きには、誰も答えなかった。


「……~♪」


 退屈した様子のアレクセイは、踊る影を見ながら、再び鼻歌を歌い始める。


「アレクセイ。ひとついいかの」


 アレクセイの鼻歌が一周したあたりで、ハイデマリーがおもむろに口を開いた。


「ん、なんだい、婆さん」

「その歌、よい旋律じゃ……なんという名の曲なのかね」

「これか。『GreenSleeves』って曲だよ」

「……ほう? 雪原の言葉の歌じゃないのかえ」

「ああ。平原の言葉の曲さ」


 薄く笑みを浮かべ、姿勢を正したアレクセイは、すっと軽く息を吸い込んだ。



「Alas, my love, you do me wrong,


 To cast me off discourteously.


 For I have loved you for so long,


 Delighting in your company.


 Greensleeves was all my joy


 Greensleeves was my delight,


 Greensleeves was my heart of gold,


 And who but my lady greensleeves...」



 哀愁と、情熱と、かすかなほろ苦さ。


 深みのあるテナーの歌声が、静かに響き渡る。


 宵闇にまどろむ者たちを、起こさぬよう、優しく、穏やかに。



「……すごーい」


 ぺちぺちぺち、と控え目な拍手をするエッダ。ハイデマリーもそれに続き、何度も何度も頷いていた。


「まことに、良い曲、じゃ。……しかし、一度も聴いたことがない。平原の民の歌、なんじゃろう?」

「う~ん、平原の言語の歌だけど、雪原の民に伝わる歌だ。……遥かな昔、霧の彼方より現れた異邦人エトランジェが、我が一族に遺していったと聞く」

「……霧の彼方?」

「……エトランジェ?」

「ああ。一口に『北の大地』と言っても、色々あるんだよ」


 興味津々な二人に気を良くしたのか、得意げな顔をしたアレクセイは、焚き火から燃えさしの枝を取って、地面に地図を描き始めた。


「北の大地――って呼ばれてるけど、公国から見て北、って意味だからな。北の大地も東西南北で分けられるのさ。北は、延々と果てしなく雪原の続く、白色平野。夏でも雪は溶けず、その果てまで辿り着いたものはいないと言う。南、というか中央は、いろんな部族が集まってる。冬は寒いが、まあ悪くない土地だ。西は、海に近くて、かなり住み易い。塩もあるし、魚も獲れるし、交易だってできる。雪原の民同士で取り合いが起きるくらい、いいところさ。そして、東――」


 簡単な地図の東側を、さっと丸く囲った。アレクセイは声をひそめ、


「ここは、魔の森と呼ばれている……年がら年中、いつ行っても、霧が立ち込めている不気味な森なんだ……」


 今までの陽気な調子とは打って変わって、おどろおどろしい声色の語りに、エッダがはっと息を呑んだ。


「賢者の隠れ家……悪魔の棲む森……いろんな呼び名があるけどな。一つ確かなのは、ここが本当に、ヤバい場所だってことだ……」

「……どう、どうヤバいの?」


 恐れ慄くようなエッダに、難しい顔をしたアレクセイは、しばし呼吸を溜めてから話し始める。


「……これは、俺のじい様から聞いた話だがな」


 まるで寒さを堪えるように、二の腕をさすりながら、


「じい様が若かったとき……、やっぱりほら、男だからよ。自分の勇敢さとか、そういうのを証明したくなったらしい。十歩入れば気が狂う、とまで言われる霧の中にどれだけ入っていけるか、試してみようとしたらしいのよ。

 だが、じい様は、魔の森のヤバい噂は色々と聴いててな。やれ、方向感覚を失わせる火の玉だとか……やれ、人間の声を真似て道を誤らせようとする化け物だとか……そういうのに対抗するために、せめて道にだけは迷わないようにって、ロープを持っていくことにしたんだと」


 アレクセイは、ひも状の何かを腰に巻きつける動作をして見せた。


「こうやって腰にロープを巻いてさ。もう片方は、森の入口の木に、がっしり縛り付けておく。そうすれば、ロープの長さの分は、中に入って戻ってこれるって寸法よ。念には念を入れて、何重にも木の幹に片方のロープを巻き付けて、準備は万端、じい様は霧の中に入っていった……」


 祈るように手を組んで、アレクセイはしばし黙り込む。


「だが……それは、入ってすぐのことだった」


 ごくり……とエッダが生唾を飲み込んだ。


「なんと俺のじい様は……入ってすぐだってのに、小便がしたくなっちまったらしい」

「……えっ?」

「だから、小便。漏れるほどじゃあねえが、何だか気になる。って、そんな感じだったらしい。でもよ、泣く子も黙る魔の森で、立ち小便するほど俺のじい様は馬鹿じゃねえや。入ってすぐだったってこともあるし、とりあえずロープを辿って入口まで戻ることにしたのよ。それで、何の問題もなく、霧の外まで出て、さあ小便を……ってところで……、じい様は気付いちまった……」


 すっと、薄青の瞳が、エッダを見据える。


「あれだけ……念には念を入れて、硬い結び目で何重にも括りつけてたロープがよ……ほどけてたんだと。まるで、手品みたいにな……」

「…………」

「もちろんじい様は一人だった……十歩も行かず、入って、戻っただけだぜ? 周りには自分以外、一人いやしねえ……それだけでもチビりそうだったのに、じい様は、さらに妙なモノに気付いちまったんだ……」

「……なに……?」

「なんだかよ。結ったばかりの新品のロープが、ひどく黒く薄汚れて見えたんだと。それで手にとって、よく見てみたら……」


 アレクセイは、指の隙間を三センチほど開けて見せた。


「こんぐらいの大きさの……手形が、びっしり……まるで手の汚ねぇ小人が、それで遊んでたみたいにな……」

「……!」

「しかもその手形……結びつけてた部分だけじゃなかった……よくよく見れば、ほどけた先から、辿って……辿って……自分が腰につけてる方まで、びっしり……それでじい様は、『まさか!』と思って、腰のロープを急いでほどいたんだ。すると……」

「……、すると……?」

「案の定……、腰んとこまで、手形は辿り着いてやがった……。急に、恐ろしくなったじい様は、もう死に物狂いで、着てた革鎧を脱ぎ棄てた……そしたらよ、」


 アレクセイの瞳は、まるで死んでいるようだった。


「鎧の。背中一面。手形がびっしり。ぺたぺたぺたぺた、ぺたぺたぺたぺた……」

「…………」

「じい様は言ってたよ。あの時もし、小便に戻ってなかったら……全身に手形をつけられてたら、自分はどうなってたんだろう、って……」

「…………」



 ぱちっ、と焚き火の小枝が、爆ぜた。



「……それ、ほんとなの……」


 消え入りそうな声で、エッダが尋ねる。アレクセイは真顔で、「ああ」と頷いた。


「これに関しては、与太話でも何でもねぇ。少なくとも『手形』は本当にあった話だ。なんで断言できるかっつーと、俺も現物を見たからだ。俺のじい様は、勇敢にも、そのロープと革鎧を家まで持って帰ってきたんだよ」

「えっ」

「気味が悪過ぎて何度も捨てようかと迷ったらしいが、これがないことには証拠にならねえから、と気合で家まで運んだらしい。途中で恐ろしい目にもあったらしいがな……まあ、それはまた今度にしておくとして」

「もっ、もういい! もういいよ!」


 泣きそうな顔で、ぷるぷると首を振るエッダ。


「まあ……そういうわけで、魔の森はマジでヤバい。踏み入った者の半分は、帰ってこねえ。帰ってきたとしても、大抵のヤツは頭がおかしくなっちまってる。霧の中は、化け物や、この世ならざるものが、ウヨウヨしてんのさ……」


 アレクセイはぶるりと体を震わせた。


「だから俺も、霧の中にだけは、絶対に立ち入らねえ。この世ならざるものなんて……どうやって太刀打ちすりゃいいんだか……恐ろしい。……っつーわけで。ってか、なんでこんな話になったんだっけ」

「霧の……エトランジェの話じゃなかったかの?」

「あっ、そうだそうだ、そうだった!」


 ハイデマリーの指摘に、ぱんっと膝を打ってアレクセイ。今までの空気を払拭するように、つとめて明るい声を出す。


「まーそれで、魔の森な。あれの唯一の良いところは、中の化け物どもが外に出て来ねえってとこだ。裏を返せば、霧の中から出て来る奴は、化け物じゃあない、多分。言い伝えによると、『入ってないのに出てくる異邦人』ってのがいるらしい。どこか、遠いところから、霧の中に紛れ込んじまった奴ってのがな……」

「それが、例の歌を遺していったのかえ」

「そうさ。まあ、かなり昔のことらしいから、本当かどうかは分からねえけどな……」


 俺は現物を見ないと信じないタイプでね、とアレクセイは肩をすくめた。


「……ま、そーいうわけで。お嬢ちゃん、そろそろ寝た方がいいんじゃねえか」


 すっかり大人しくなってしまったエッダに、苦笑いしながらそう尋ねる。


「……おばあちゃん」


 心細げな表情で、ハイデマリーを見やるエッダ。ちょいちょい、と何かを求めるように、ローブの袖を引っ張っている。


「はいはい。一緒に寝ようかね」

「うん……」

「ハッハッハ、良い子はおやすみ。ま、霧の化け物は、魔の森から出てこられねえ。お嬢ちゃんには害はないから、安心しな」

「うん……。お兄ちゃん、おやすみ……」


 しょんぼりとした表情のまま、ハイデマリーにしがみついて、エッダは荷馬車に用意された寝床へと入っていった。


「……さて、暇だ」


 砂時計の砂は、まだ余っている。一人きりになって、改めて時間を持て余したアレクセイは、とりあえず暇潰しの為に馬車の幌へと目をやった。


「ん、あれ? いねえ」


 が、先ほどまで踊っていたはずの影絵の貴婦人は、どこにも見当たらなくなっていた。






「それじゃあエッダ、おやすみ」

「おやすみ、おばあちゃん……」


 馬車の中、ハイデマリーと隣り合わせで、エッダは頭から布団をかぶっていた。


「…………」


 隣に感じる、ハイデマリーの温かさが心強い。が、今日聞いた話は、幼いエッダには、少々強烈過ぎた。


 もし、布団の外側に、『手形』が来てたらどうしよう――。


 そんな、根拠のない恐怖に駆られ、なかなか顔を出すことができない。


 しかし、季節は初夏の、それほど寒くはない夜。頭を出さずに布団の中に潜り込んでいると、当然のように、暑くなる。


(……大丈夫だよね、お兄ちゃん、お化けは森の外に出れないって行ってたし……)


 暑さには代えられず。どうにか自分を励まし、勇気を奮い立たせたエッダは、ぎゅっと目を瞑ったまま布団から顔を出した。


 頬を撫でる、ひんやりと心地の良い夜気。くふぅ、と息を吐き出し、蒸れていない新鮮な空気を楽しむ。


「…………」


 徐々に、眠気が襲ってきた。そうだ、今日は魔法のせいで、少し夜更かししていたんだと。そんなことを考えつつ、うつらうつらしていたエッダであったが――。



 ふと、何かの気配を感じ。



 半覚醒状態のまま、目を開いた。



 視界に飛び込んできたのは――黒。



 馬車の幌をびっしりと埋め尽くす、黒く小さな手形――



「――きッ!」


 くわっ、と顔を強張らせたエッダは、そのまま目をぐるりと裏返させて、気絶した。


「……んっ。……エッダや。何か言ったかえ」

「…………」

「……寝言かえ……」

「…………」





 あとには、悪戯を終えてくるくると踊る、影絵の精霊だけが残った。

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