3.    


 ぼんやりと、夢を見ていた。


 幼い頃に、友達と外で遊んでいる夢。


 無邪気に、楽しそうに。


 鬼ごっこだろうか。走り回る自分の姿。


 さらりと砂のように。


 溶けて消えた。




 白い部屋。


 窓の外を眺めていた。


 翼を広げた鳥が、羽ばたいていく。


 青い空に描く軌跡を、ただ目で追った。


 清潔なベッドの上。ぴくりとも動かずに。


 動けずに。


 そっと瞳を閉じる。




 視界が青く染まる。


 たゆたう水色の世界。


 息は苦しくない。


 


 怖くはなかった。


 沈んでいく。自分の内側へと。


 深く、深く――




          †††




 ――しばらく、歩き続けたと思う。


 目の前に、鏡があった。


 何も映っていない、鏡。


 いや。


 目を凝らせば、見えてくる。


 浮かび上がってくる。



 黒い髪、黒い目。


 精緻な装飾を凝らした革鎧。


 羽根飾りのついた兜。


 腰にはひと振りのサーベルに、矢筒。


 そして左手には、朱塗りの、強弓。



「……俺だ」



 ぽつりと呟いた言葉は、確かに響いた。


 それと認識した瞬間、はっきりと形を成す。



 ケイ。



 かつて、自分が名付けた。


 そして、今までを共に生きてきた。



「……俺の、身体からだ



 ぐっと、拳に力を込めた。


 絶えず収縮する筋肉の躍動を。


 全身を駆け巡る血潮の流れを。


 末端まで広がる神経の瞬きを。


 強く、感じ取る。




 いつの間にか、目の前の鏡は消え去っていた。


 代わりに、真っ直ぐと道が伸びている。


 心なしか、自分の周囲がにぎやかに感じた。


 元気に駆け回る馬の姿や。


 羽衣をまとった少女の姿。


 まるで走馬灯のように。


 それらの影を、幻視した。




 行こう、と。


 誰に言うとでもなく、呟いて。


 その一歩を、踏み出した。

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