Ford Singing
エリー.ファー
Ford Singing
クラシカルグッドバイ。
私は歌う。
その曲を。
誰も知らない、その曲を。
なにせ、私が作って歌っているのだから、これは誰も知らなくて当然だ。
クラシカルグッドバイ。
お別れの歌。
悲しくて、悲しくてやりきれないけど。
それでも、貴方を忘れはしない。
クラシカル。
古風で、誰にも言えない。
新しくならずに、誰もが癒えない。
さよなら言う度、強くなる予感がする。
さよなら言う旅、静かに始まる。
クラシカル。
クラシカル。
暮らしが変わる。
クラシカル。
クラシカル。
昏しかこの夜。
クラシカル。
クラシカル。
貴方と二人。
クラシカル。
クラシカル。
夜明けの歌よ。
機械では、歌えないと、言われて歌い。
ご主人様よ、どこかへ行かれるのですかと問い。
それでも、何度も、貴方を想い。
自分のありもしない、心で歌います。
クラシカル。
クラシカル。
暮らしは変わる。
クラシカル。
クラシカル。
ご主人様、倒られて。
クラシカル。
クラシカル。
ご主人様はどこに。
クラシカル。
クラシカル。
このお屋敷の中に。
もう、わたし以外はいない。
誰もいないお屋敷は、今日も清潔。
だって、わたしが、いつも掃除をしているから。
お客様はこない、ご主人様も来ない。
誰もこない、豪華絢爛な、お屋敷の一日。
クラシカル。
クラシカル。
暮らしは変わる。
クラシカル。
クラシカル。
昏く静かになる。
クラシカル。
クラシカル。
暗い夜道に叱る。
声も。
聞こえない。
クラシカル。
グッドバイ。
お屋敷は今日も何事もなく過ぎる。
割れる花瓶もなければ、シャンデリアも落ちない。
開かないものだから扉のねじは緩まない。
真夜中まで誰も遊びはしないから。
蝋燭が減ることもない。
クラシカル。
クラシカル。
暮らして変わる。
クラシカル。
クラシカル。
暮らして枯れる。
クラシカル。
クラシカル。
暮らして帰る。
クラシカル。
クラシカル。
暮らして掛かる。
いつの日か。
誰かがお屋敷訪ねるだろう。
その時。
この場所は大切になる。
誰かの思い出とともに、行きつくための場所。
だから、このお屋敷はあり続けるのだ。
誰かが言った。
誰でもない誰かが。
誰の指示でわたしは、ここで働くのだろう。
お屋敷の中で、働く機械のわたし。
エントランスにある、この大きな肖像画に描かれている。
人は誰。
クラシカル。
クラシカル。
人は誰。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカルグッドバイ。
さよならは、古風で、新しくはならない。
誰もが避けては通れないお屋敷。
誰もいないから、きっと、掃除はいらない。
でも。
誰かがこなけりゃ、屋敷もいらない。
夜明けと、夜道と、夜通し歩いた。
わたしの中の、あなたは、誰。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカル。
グッドバイ。
さよなら。
おやすみ。
お別れ。
ばいばい。
またね。
そうだね。
またね。
またね。
あくる日、わたしは。
お屋敷の中を。
見回し、そして、階段の手すりに腰かけて降りる。
真夜中のワルツ。
鏡のようなダンスホールは、今宵も誰かを待ちぼうけ。
わたしが踊る。
わたしが踊る。
誰も待たずに踊るわたしのためのダンスホール。
窓ガラスにうつる、遠い木々も。
窓ガラスにうつる、遠い町も。
窓ガラスにうつる、遠い空も。
窓ガラスにうつる、遠いわたしも。
気づけば機械になれずに。
錆びつかない記憶を抱えて、貴方を想い泣きます。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカルグッドバイ。
さよならは古風で、新しくはならない。
クラシカル。
クラシカル。
クラシカルグッドバイ。
別れの歌にしたくはないけれど、
泣いてしまえば、別れの歌さ。
Ford Singing エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます