第4話 GWから始まるポンコツ物語 Ⅳ
凝り固まった戦場のルールの中で、ポンコツの日本代表は、ドラゴン相手に金メダル争いを継続中。
最もこの状況において金メダルとは何を指すのかと言えば、言ってしまえば自分の中での最良の結果という自己満足だ。
では最良の結果とは、ドラゴンを追い払うもしくは討伐を成功させ、スラッタの街を救うことに他ならないのだが、ここに来て難易度が跳ね上がった。
エルテミナ帝国約一万の軍勢の接近である。
幸か不幸か嵐の報告では、のろまな魔導騎兵は進行を遅らせるというデメリットを持つために投入されていないと言っていたが、状況から考えてみれば、魔導騎兵の能力からして逆に足を引っ張ってくれる分いてくれた方が良かったと楓は嘆いた。
「まあ人間相手に一万の軍勢でも何とかできそうだが、問題はアレだよな」
ドラゴンという存在は未だ健在で、AJを駆る楓の方が披露していた。
どう考えても不利な状況であり、ドラゴンを何とかしない限り勝利はない。かと言ってカザフゲートからの増援は未だこないので、楓一人でこの状況をどうにかするしかないのが現実だった。
「悪く思うなよ」
急速旋回や急制動が出来ないドラゴンのデメリットを利用した、少しばかりあくどい方法を思いついた楓は、レーダーが捉えた生体反応の光点に向けて機体を加速させる。
同時にセレナは遠目に見える何かがこちらに向かっていることに気づく。
それはまるで嫌な予感を彷彿させる得体の知れない違和感。
「何でドラゴンがここにいる! 街への襲撃はどうなっているんだ!」
「恐らくですが道中で敵性と思われる何かがいたのかもしれません。そういう調教を施しているので」
副官のフックが困惑気味に答える中、空を飛ぶドラゴンが徐々にこちらへ左右に蛇行するように近づいていた。
実に不自然な動きなのだが、その理由は簡単だった。
一機の魔導騎兵が陸上を高速で移動し、急制動急旋回でドラゴンの攻撃を避けながら、ドラゴンをこっちに誘導しているのである。
ありえない!
王国のみならず他国でもあんなスピードであんな動きが出来る高機動な魔導騎兵の開発が行われているなど聞いたことはない。
セレナははっきりとそう叫んだばかりか、それが徐々に近づいてきたことで更に絶句する。
通常の魔導騎兵は騎士甲冑を巨大化させた人形のようなフォルムで、全長8メートルほどしかない。
それの倍を行く巨大な人型兵器が、鈍重というイメージを盛大にぶっ壊す動きでドラゴンと渡り合っているのだ。
最もセレナには知る由もないのだが、日本国兵士のAJ乗りが第四世代機の陸戦特化型で同じことをしてみろと言われても、機体の特性と操縦技術の観点から、誰もが無理だという。
それは、この出来事の後に、この戦闘データと映像を見た兵士達が、戦闘データを元に造られたシミュレーションに挑戦し、誰もがクリア出来なかったことで立証されている。
そして兵士達はその戦闘を元に口にした言葉。
「うわああああああ」「来るなあああああああああああああ」
上空からの急速スピードによる襲撃を、エルテミナ帝国を兵士を低空飛行による衝撃波に巻き込みながら
戦闘機のエンジンが騒音被害をもたらした実例と同じように、AJのブースター機動が間近でもたらす騒音と突風は、それだけでエルテミナ帝国兵士を無力化していった。
騎馬から落馬して馬の下敷きになったり、耳や目をやられ行動不能に陥るものや、突風で吹き飛ばされ味方に激突したりする者。
それだけではない。
その地面に隕石の如く落下してくるドラゴンの直撃の衝撃と余波に巻き込まれ、一万の軍勢のうち、あっという間に第一陣と第二陣の半数が混乱と同時に壊滅し、
「全員一塊になるな! ちれええええええええええええええ」
一番の冷静な判断力を持つセレナの判断の速さを奪っていた。
一番の攻撃手段が自分達に牙を剥いてくるとは最悪の場合として想定していたが、その想像とは遠くかけ離れた結果が起こっているせいで、セレナはどう対処していいかわからなかった。
何せ制御は奪われていない。
誘導されているだけなのだ。
だが問題は更にある。誘導だけならドラゴンの攻撃を止めさせればいいだけの話だが、明かにドラゴンの機嫌の悪さと苛立ちが最高潮に達していて、ほぼ暴走状態に陥っているのである。
こうなってしまえば魔導具による制御を受け付けないばかりか、こちらに明確な敵意をもって暴れ出すのは間違いない。
「くそ! 敵はドラゴンを用いた手段の弱点をついてきたか!」
それはセレナの買いかぶり過ぎである。
ドラゴンへの有効な手段が思いつかないまま、ドラゴンをおちょくる様に逃げ回った結果が引き起こした、それは実に偶然による産物であり、楓の意図したことではない。
最早戦場のセオリーはまるで幻想だったかのようにエルテミナ帝国兵を追い詰め、兵士達は散り散りに逃げ始める。
『よく持ちこたえたな楓。援護する』
まるでタイミングを見計らったかのように登場したのは、音速で飛翔する嵯峨重工製の戦闘機。
蜘蛛の子を散らして逃げ出すエルテミナ帝国兵を相手に面制圧を仕掛け始めた。
《こちらエリザベス1 ナパームによる援護を開始する》
発射された投下されたナパーム弾が瞬く間に平原に直撃すると、蜘蛛の子を散らして逃げていた帝国兵は、ナパーム炎によって焼かれていった。
「な、なんなんだあれはああああああああああああ」
魔法と魔導具による技術しか知らない者にとって、この科学によって生み出された軍事兵器の猛攻は、セレナのような帝国軍人でも恐怖にしか思えなかった。
そして戦闘機が放ったミサイルがドラゴンに直撃するが、幾重にも重なった一枚数百キロの鱗の前では多少のダメージにしかなっていない。
《なんなんだこいつは! ミサイルすら防ぎきるのかよ》
ミサイルが通じないとわかるとエリザベス1が早々にその場から離脱していく。
「まあそうなるよな」
邪魔者がいなくなったところで続きが始められるとばかりに、ドラゴンが喉を鳴らして爬虫類っぽい瞳をぎょろりと向けて来た。
「でも良かったぜ」
楓はフォーカスアップされたドラゴンの被弾箇所を確認し、自分の中にあった疑問を少しずつ解消していく。
一枚数百キロという鱗の頑丈さにも関わらず、物理法則を無視した高速機動が出来るのか?
情報解析班が昔の交戦記録を引っ張りだした情報が間違っているとか、古い情報とかそういう類の話ではない。
この世界には俺達の知らないルールが存在するのだ。
楓はそう結論付け思考しながらドラゴンの攻撃を巧みにかわし、同時進行でドラゴン討伐の道筋を組み立てる。
こいつは以前交戦したドラゴンと同種。
それが楓にとって幸運とも言えた。過去のデータを元に数値を割り出し、科学では説明付かない部分を消去法であぶり出していく。
謎に包まれたヴェールを一枚一枚剥がしていくように、楓はドラゴンの正体を丸裸にする。
鱗は元から重いのか?
最初からタングステンすら超える強度なのか?
ドラゴンは物理法則を無視した存在なのか?
それらの疑問が解消された瞬間、楓はコックピットの中で、円筒形の筒の中のグリップを強く握り、固定解除を行って筒からグリップを手前にスライドさせる。
ブースターの加減速調整をペダルに完全移行させた楓は、360度にグリップを倒す形の操作へ切り替えると、アサルトライフルをAJに構えさせた。
『こちら司令室。直ちに撤退せよ。無理に戦う必要はない。今からAJ部隊を投入する!』
「いや。こいつは俺との決着を望んでいる。俺にはわかる」
ドラゴンは再び上空へと舞い上がり急降下の体勢へと移る。
『ドラゴンに核兵器すら通用しないんだぞ! アサルトライフルの弾丸で勝てるものか! 先ほどのミサイルでも無理だったのは見ているだろ!』
司令室で指揮をとる九里坂の言葉に熱が帯び始めるが、それ以上にドラゴンと楓にも熱が込められていた。
ここでどちらかが倒れない限り終わらないと。
そんな生物の枠組みを超えた共通の意思が交錯し、戦いは再開される。
急降下してきたドラゴンに向け、楓のAJは左アームでトリガーを握る指を隠すように覆い支えると、至近距離で発砲。
同時にペダルを踏みこんで激突寸前で機体を大きく旋回させて回避。
この戦いを辛うじて生き残っていたセレナが驚愕の瞳を浮べて見ていた。
「な・・・・・・なんだと・・・・・・」
如何なる戦術魔法にも耐えきってきたドラゴンの頑強な守りの神話が、たった今目の前で打ち砕かれていた。
肩を覆っていた鱗がアサルトライフルの弾丸に撃ち抜かれ、その左腕を大量の出血と共にだらりと肩から下げていたのである。
「誤差修正。次は額を狙う」
速やかにキーボードを叩き数値を入力した楓は、先ほどと同じように機体にアサルトライフルを構えさせた。
『こっちは終わったぞ!やっちまえ相棒!』
回線から聞こえた嵐の応援を耳にしながら、楓は今一度深呼吸する。
「お前は強固な守りをはじめから持っていたわけじゃない。その驚異的な動体視力で衝突寸前にバリアで体を覆っていた。あれだけの質量やエネルギーの衝突を防ぐバリアだ。長時間張っていればエネルギーなんてあっという間に枯渇する。だからなるべく限界ギリギリで張る必要があった」
楓が最初に気づいたのは高速熱源体接近の知らせだった。
まるでミサイルでも飛んできたような熱源反応だったが、サーモセンサーで確認した時、その熱源は体中に広がっていることがデータに現れていた。
だがそれがドラゴンという生物の体温なのだと楓は誤認してしまった。
だが先ほどミサイルが直撃した後、暫くしてその傷口を解析しようとセンサーを起動させた時、ドラゴンの温度が最初と全く違うことが確認されたのだ。
あれだけの動きをして体温が下がっている状況に、最初に見たサーモセンサーのデータが体温でないことに気づいたのだ。
「衝突直後にバリアを展開していた。本来であればお前は今頃悠々自適に餌を見繕っているところだったが、悉く攻撃がかわされていることに焦った。何せこれまでそんなこと一度も無かったからな。俺を侮ってしまったばっかりに、初撃の予備動作からバリアを展開しヒントを残してしまったことが致命的となった」
楓がAJにトリガー部分を隠させたのは、発射のタイミングを見せない為であった。
バリアの張るタイミングなどを考える知能を有するくらいだ。
ちょっとした動作から学習されることを楓は察知し、それをされない為の最良の結果であった。
だがドラゴンは劣勢的状況を悟っても、攻撃を続ける意思を示して見せた。
恐らくこれが最後になるだろう。
それでも今まで絶対的王者として君臨した誇りが、この場で逃げることを許さなかった。
魔導具によって人間に従わされるという屈辱の中で、ドラゴンは今まさに己の誇りを取り戻そうと翼を広げ空へと舞う。
目の前の敵は、自分の死を辱めるのではなく栄光に変えてくれるだろう。
どうせこのまま無様に生き続けるくらいなら、強敵の手で倒され眠りにつきたい。
そして、ここで一つの歴史に幕が開降りたのだった。
※
様々な歴史において独裁政治が長続きしたことはない。
最もそれが生物界の中の食物連鎖で言えることかどうかは兎も角として、複雑なシステムで築かれた社会の中では確実に言えることだ。
セレナ=マクスウェルは己が知っていた常識が、既に過去のものであると思い知らされた。
フックと共に生き残った僅か数名の部下を引き連れ、砦にいる部下共々本国へ撤退することを決め、ようやく命からがら逃げ返った先で待ち受けていたものを目にするまでは。
「随分と待たせてくれたものだ。君達が生き残りであることは既に知っている。初めましてエルテミナ帝国の諸君」
まるで悪魔のような真っ黒な長い髪の女は、漆黒のスーツを纏い、その口に煙草を咥え、自分達が逃げ返ってくるのを待っていたかのように椅子に座っていた。
「私は嵯峨財閥当主補佐の
そう言って紅麗が人差し指を下に向けた瞬間、
「土にという意味だがね」
四方八方から乾いた音が響き渡り、セレナ以外の帝国兵は皆その場に倒れた。
「うわあああああああああああ」
その場にしりもちをついて後ずさるセレナは、後ろに立っていた漆黒の装備に身を包んだ兵士に、後頭部を掴まれ地面に前のめりに倒された。
「ではこんな血なまぐさい場所でのティータイムは味気ない。折角我が弟が生かしたお客人だ。ぜひ丁重におもてなしさせて頂くよ。お気に召すかどうか兎も角としてね。連れていけ」
ヘリのティルトローター音が宵闇に響き渡る中、エルテミナ帝国の兵士達の死体だけが砦に残されるのだった。
※
エルテミナ帝国がスラッタ砦を落したという報告を受け、王都の防備を騎士団に固めさせていた国王は、王の間で異国の客人を迎えていた。
本来であれば有事であり客を受け入れている暇など無いのだが、ルバナ=バーデンがその客人を連れて帰還したので半ば強制的に受け入れざるを得なかった。
「ヴぇ、ヴェロニカ=ヴァレンタイン嬢と九里坂殿、これは一体」
「エルテミナ帝国は我が日本国が迎撃し、ドラゴンは我が軍の兵士が討伐しました。その証拠映像です」
九里坂は一緒にきたヴェロニカに促すと、ヴェロニカがホログラム式映像装置を起動させ、戦闘映像の一部をその場の皆に見せた。
「な、なんだこれは! それにこの映像は幻覚の類ではないのかね! ドラゴンを討伐したという世迷言を!」
そう叫んだのはこの場に列席することを許可された聖霊協会王都支部のニコライ=ルーベンス司教だった。
だがそんないちゃもんが出ることなどわかり切っていた九里坂は、待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。
すると王の間に慌てて飛び込んできた騎士の言葉によって、その場が再び騒然となった。
「お、王都の広場にて運び込まれたドラゴンの死骸を確認しました・・・・・・・」
そこで言葉を失ったニコライは忙しなく視線を彷徨わせ始める。
「私は嘘や方便で友好関係を結んだ国を安易に陥れるようなことはしない。そんなことをする必要などないからな。ルーベンス司教、エルテミナ帝国のセレナ=マクスウェルを拘束し尋問しました。その意味がお分かりかな?」
「な、なんのことだ?」
「それは貴方が一番お分かりの筈だ。エルテミナ帝国に今回の侵攻作戦を促したのは貴方でしょう?」
「ふ、ふざけるな! よりにもよって聖霊協会を侮辱するとは貴様ただではすまさんぞ!」
世界的宗教と呼ばれる聖霊教。その宗教組織の巨大さはこの世界で知らない者がいないほどだ。
だが九里坂にとってそんなことはどうでも良かった。
一方、ニコライが裏で暗躍していることを知らされながらも、さすがに世界的宗教組織の人間を弾劾するには、いささか証拠能力が弱いということもあり、国王フェルドはこの場の判断をどうすべきか迷っていた。
何せニコライの暗躍には聖霊協会が関わっているのは明白で、その理由も十分理解していた。
聖霊資質を持つ聖女候補の異世界への留学。
それは聖霊資質を持つ人材の流出ばかりか、日本のような解析技術を持つ国に渡ったとなれば、その聖霊資質が利用される可能性が存在する。
そうなれば聖霊協会の既得権益の一つである聖女の管理や、その聖霊資質の制御等も異世界の国にお株を奪われ、遠からず聖霊協会を脅かすことになることも予想された。
だが王国はそんな聖霊教会からの意向を無視して聖女を留学生として送った。
周辺諸国が集めているドラゴンという核兵器並みの脅威に対抗する為に。
最もそれは表向きの理由である。
何せ聖女の聖霊資質がそう簡単に解析できるのかなんて、国王にもましてや日本の研究機関でもわかっていない。
科学技術が発達している国とは言え、未知の現象を解き明かすことは容易ではないのだ。
そしてそれは聖霊協会も同じ。
聖霊資質の制御法なんてものは実際のところ確率されていない。
この世界の神のような存在である聖霊から賜った神秘の力を、人間如きがそう簡単に解き明かせるのならば、それは最早神秘でもなんでもないただの超常現象だ。
聖霊協会が行っているのは投薬と暗示を使った半ば洗脳的な非人道行為であり、国王フェルドはそれに気づいた。
そして留学という形で聖女を送り出した真の理由。
「侮辱ねえ。お前達こそ同じ人間でありながら、一体何人もの聖女候補の少女達の人生を潰してきた? 100か? 200か? いいや、歴史から察するにそんなものではきかないだろう。聖女と持てはやしながら投薬や暗示で洗脳して、自分達の権威を広げる為に多くの貴族や王族の餌にしてきた。それは聖霊に対する侮辱ではないのか?」
「きさまああああああああ! 言うにことかいて! フェルド国王よ! いつまでこのような輩の無礼を許すのだ! この期に及んでまだ聖霊協会の意向を無視するのか! そうなれば本国が黙っておらんぞ!」
「黙れ愚か者! 貴様こそいい加減にしろ! 我が王国の民である聖女候補の少女達を、気づかなかったとはいえ貴様らの外道な行いの犠牲にしてきたことは儂にとって最大の愚行じゃった! こやつと聖霊教会にいる者達を全員捕縛しろ!」
「貴様! こんなことをしてタダで済むと思うなよ! 放せ! 私は司教だぞ!」
連行されていくニコライが王の間から姿を消した後、九里坂はやれやれとばかりに肩を竦めた。
「さて、我が国は友好国としての務めは果たしたつもりです。聖女や聖女候補の少女達の安全が確認されたら、彼女はもう留学という名目での保護が必要なくなるわけですが、どうします?」
九里坂の質問にフェルド国王は皺の寄った目をヴェロニカに向ける。
「お主はどうしたい?」
「私は───」
※
青々とした空が広がる大平原の下、楓と嵐は回収したカーゴ付きトレーラーに乗り込んでいた。
既に日本政府が派遣した部隊が敵部隊の残党確認等を終わらせて撤収した後で、後は楓は九里坂からの報告を待って帰るだけである。
「散々な課題だった。つうか、話しによれば、あの聖女様は本国に戻ることになるんだろ?」
運転席の背もたれに背を預け、ハンドルに足を乗せていた嵐の言葉に楓は盛大にため息をつく。
「はぁ。機体に無茶させすぎたぁ! もうこれ完全にオーバーホールだろ!」
「よりによってそっちの心配かよ」
「あのなぁ、他所の御家事情に首ツッコんでもしょうがねえだろ。彼女は本来であれば屋敷で家族と一緒に過ごす筈だったんだ。それがトンデモ宗教の暗躍で見知らぬ世界へお引越し。随分と寂しい思いをしたはずだ。彼女が故郷に戻れるならめでたいじゃないか」
「へえ。意外だな。ちなみにお前が救ったあの街に彼女の家があるらしいぞ。つまりはお前は彼女の生まれ育った故郷を守ったヒーローなわけだ」
冷やかすように告げる嵐の言葉に、楓は小さくため息をついて窓の外を見やる。
「そうか。遊びにこれない距離ではないな。課題も終わったことだし残りのGWは観光としゃれ込もうか」
「軍で貸し出している車両を任務外で使用すれば処罰されるわよ」
突如聞こえた後ろからの声に振り返る二人。
「おいおい。家に帰るんじゃないのかよ」
「帰るわ。里帰りだけど。だから街まで送っていってくれるかしら」
「任務外になるんじゃねえの?」
「九里坂先生から伝言よ」
彼女は無表情で無感情な声音を一生懸命崩すように、笑みを浮かべ声を弾ませる。
「聖女様の里帰りに同行して来い。
ライフリング・ゼロ @kaede1123
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