第13話 後日談

 三津木はまいっていた。

 ロケに行った連中が、重永真利子を除いて、全員番組スタッフをやめると言ってきたのだ。

「あんなに怖い、命の危険にさらされるようなことは二度とごめんです! 他へ配置換えしてもらえないなら、会社を辞めさせてもらいます!」

 と、丹羽はもちろん、数年間いっしょにやってきたベテランカメラマンまで、今度ばかりは愛想が尽きたと、若手と一緒になってボイコットに参加した。

 彼らが本気で怒るのも道理で、その時はどうってことないように思ったが、翌日になったら全員首をひどいむち打ちにやられていて、全員コルセットのお世話になっていた。

 三津木もさすがにこいつはやり過ぎたかなと反省した。

 なんとか留まってくれるよう頼んだが、全員決心は固いようで、しょうがなく上に配置換えを掛け合ってくれるよう、プロデューサーに頼んだ。

 プロデューサーにも、またか? と、さんざんにお説教された。

 けっきょく、今後番組制作は、スタジオの収録だけ局内の制作チームでやり、VTR等のコンテンツは全て外部の制作会社でまかなうことになった。

 三津木は、

「君は俺の秘書に昇格な」

 と、一人残った重永に言い渡した。

「俺が局を首にならないうちは君の契約も必ず継続するからさ、ま、今後ともよろしく頼むよ」

「はい。よろしくお願いします!」

 重永はこんなお化けばっかり追いかけている危ないおじさんに雇われて、元気に挨拶した。

 彼女もなかなか好き者らしく、ロケで亡者相手に格闘する芙蓉のかっこいい姿にすっかり惚れてしまったらしい。

 三津木の下に残るのは、こんな変な人間ばかりだ。


 スタッフがみんな途中の仕事も放り出してやめてしまい、三津木は自らVTRのチェックをしなければならなくなった。

 例のトンネルの後半のテープだが。

 画面は真っ黒でどうにもならなかったが、音声の方は、調整してやると聞けるようになった。

 1分間の録音を、10倍、15倍に引き延ばしてやると、ひどい音だったが、普通に彼らの恐慌の様子が聞けた。

 彼らが体験したのはまぎれもなく本当に起こったことで、テープはそれを記録していたのだ。

「お宝お宝」

 三津木は不気味にほくそ笑んだ。

 これを放送すれば頭の固い科学万能主義者があれこれいちゃもんを付けてくるのは目に見えているが、どうでもいい。

 どうせ誰もお化けなんて本気で信じちゃいないのだから。

 視聴者は面白怖いエンターテイメントとして楽しんでくれればいい。しかし、

 本当の真実は、直感的に分かるものだ。

「たーっぷり、怖がらせてやるぞおー」

 三津木は久しぶりの手ずからの編集作業を楽しんだ。



 芙蓉は自分が紅倉の助手を続けていいものか、まだ不安に思っていた。

「えー? 美貴ちゃん、あれだけ活躍しておいて、まだ自信ないの?」

 紅倉は呆れたが、真面目な顔になると、ちょっと残念そうに言った。

「確かにね、わたしなんかと一緒にいるとろくなことにならないわね。美貴ちゃんが不安に思うんだったら、やめた方がいいでしょうね」

「そう言われると、嫌ですよ」

 芙蓉も意固地になって言った。

「わたしはどう先生のお役に立てるか考えているだけです。捨てられたってストーカーしてつきまといますから、わたしから逃げられるなんて思わないでください?」

「警察に訴えるわよお?」

「そういう生意気な口は自分の家の中で迷子にならないようになってからきくんですね」

 紅倉は都内の閑静な高級住宅街にでーんと敷地を占有した広壮なお屋敷に住んでいて、現在芙蓉も下宿させてもらっている。紅倉がものすごい大富豪のお嬢様なのかと言うと、それには裏の事情があって、それはまた別の機会に。

 広い屋敷の中で、紅倉は本当によく迷子になる。

 芙蓉にやり返された紅倉はぶーと唇を尖らせた。

「美貴ちゃんのイケズ」

「大丈夫ですよ、ちゃんと探しに行ってあげますから」

 芙蓉に保母さんのように優しく言われて紅倉は安心したように笑顔を見せた。

 芙蓉に出て行かれて困るのはどうやら紅倉の方のようだ。



 終


 2014年 6月作品

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霊能力者紅倉美姫3 異界トンネル 岳石祭人 @take-stone

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