第4話 王都出店計画と空間転移の魔法?

朝。

いつもより少し遅く目が覚める。

「.....うーん.....そういえば昨日お客さんを増やす方法を思いついたんだった...なんだったっけ....」


なんだっけ....確か......

............そうだ!!


「そうよ、今日はこんな辺鄙へんぴな所にお店があるからお客さんが来ないのならこのお店ごと王都に移動させてしまいましょ!ってなったんだったわ!」


逆転の発想ね!さすが私!!

こうしてはいられない。そそくさと朝食を済ませたら早速魔法の調合に取り掛かる。


「まずは....そうね、お店ごと移動させる方法を考えましょう。」


どうしようかしら。

お店に車輪を付けるのは....移動に時間がかかりそうね。

じゃあお店に羽根を付ける......これは早く移動するとお店の中が滅茶苦茶になるわね。うーん....じゃあお店に重力魔法をかけて動かなくしてから羽根を付けて移動させる....これがいいかしら。 あれ?それだと重くて飛ばないわね....

......もっと簡単な方法があったわ!

「お店を王都までワープさせてしまえばよかった話ね!」


―――自分の力を知らない天才というのはなんとも発想がぶっ飛んでいて怖いものだ。


その後どうやってワープの魔法を開発するか悩むこと(おやつの時間を含む)約4時間後。


「よし、これで完成ね!!」


出来上がったのは...空間転送の魔法!名前は...後で決めましょ!


「ふっふーん。今回のは自信作だわ!」

飲むとたちまち空間と空間をつなげる門のようなものを出すことが出来るわ!これで王都までひとっとびよ!


「次に問題なのはこれじゃあお店を物理的に移動させる方法を考えなきゃいけないわね....よし、ここは「蟷螂とうろうの斧」を使って私が持ち上げればいいわね!」


蟷螂の斧.....自分よりも強い物に対抗する事ができるようになる魔法!(強いの定義は単に戦闘面での強さだけではない)


そこからさらに準備をし....


「ふぅ、すっかり真夜中になっちゃったわね。よし、それじゃ出発しましょ!」


まず空間転移の魔法で王都まで穴をあけて....蟷螂の斧の力でお店を持ち上げ...


持ち...上げ.....


「.....持ち上がらない....!?」


おかしいわ。この魔法は自分よりも強い物に対抗できるだけの力が発揮されるはず!

....もしかして私が得た対抗できる力は単純に腕力とかそういう物じゃない?

比較対象がお店だから......?

「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬ......!!!」


いやいやいや!何かこう...何か力が手に入っているはずよ!持ち上がるはず持ち上がるはず...!


「ぬぬぬぬぬぅ~!!」


持ち上がらない.....! こうなったら大人しく腕力が100倍近くになる魔法でも作っておけば.....


「よいしょっと!?」


スピューン!


いきなり店はひょいと持ち上がった。が、いきなり持ち上がったことによってお店の中の小瓶が倒れてきて中が悲惨な事に....

そんなことも知らずに急に魔法の効果が発揮されたとぬか喜びの店主である。


「よーし!やっと持ち上がったわね。このまま一気に門を潜り抜けるわ!それーっ!」


店を持ち上げたまま一気に王都の中心に躍り出る。

幸いなことに夜中だったので人もいなくこの歩く店の存在を見たものはほとんどいなかった。


「お、ここがいいわね。周りに何もないから置きやすいわね。よいしょっと!」


ドゴーン!!


「何の音だ?」


「強盗か!?」


ガヤガヤ......

せっかく人目に付かずに店を運んだものの馬鹿力のまま店を地面に置いて台無しである。


「さて、なんとかお店も移動できたし今日はもう寝....って何よこれ!お店の中がぐちゃぐちゃじゃない!!」


ここでようやく店の惨事に気づいたようである。




翌朝。


ガヤガヤ.....


「うーん...うるさいわね.....」


朝から外が騒がしくて眠れない。

......ん?


「あれ?こんなお店いつの間にあったっけ?」


「でもここってこの数年ずーっと空き地だったわよね?」


「なになに....魔法屋......?」


民衆は当然突如出没した謎の店に目が行く。


「これは.....お店の前に人だかりが...!」


さすが王都ね!人がたくさん集まっているわ!!こうしちゃいられない。早速開店よー!


「はーい、いらっしゃいませ!小瓶のひとときです!」


こうしていつにもなく珍しい繁盛した一日が始まった。

このお店では魔法を小瓶に詰めて販売していること。生まれつき魔法の使えない人や魔力の小さい人でも使えること。一つの小瓶は飲んでから二時間まで効果が発揮されること。色々説明をして.....

なんと昼間にはいつもほこりをかぶっていた小瓶の半分がなくなろうとしていた。


「ふぅー...疲れたわ。少し休憩....」


こんなに賑わったのは初めてだわ。少し疲れちゃったから休みましょ。

と、その時。


「あのー.....」


「あ、はーい!」

....休憩はもう少し先みたいね。


「こんにちは。私、王国騎士団所属のハインと言います。今朝からなにやら謎の魔法屋なる物が魔法を詰めた小瓶を販売しているとの情報を耳にしたので来た次第です。」


王国の騎士の人が2人。

このハインさんともう一人...


「俺はルイスだ。先に言っとくがハイン様は騎士団の隊長だ。くれぐれも失礼のないようにしろよ。」


「ルイス。お店の人が困っていますよ。そのような言い方はよしなさい。」


「失礼いたしました。」


なんだろう。怖いな....特にルイスって人。


「それで、私が来た理由はあなたがいつからここで商売を始めたかをお聞きしに来ました。王都ではまず出店をする為に店舗の登録の後に許可証の発行を義務付けており許可なく商売した場合には撤去もしくは罰金が科せられます。ここはどうやら空き地だったはずですがあなたは手続きなどは済ませましたか?」


「手続き....?今日ここにお店を持ってきたのでわからないです....」


手続き.....それに許可証の発行....?王都でお店を出すのって何か特別な許可が必要だったの....!?知らなかった...もっとちゃんと調べておくべきだったわ。


「お店を持ってきたと仰いますと?」


「そのまんまです。お店はもともと辺境の方にあるのでそれをそのまま持ち上げて来ました。」


「ハハハハ!田舎から来たってのか。どうやら田舎者はおかしな冗談が上手だな。オイ、この店はどう見たってお前のような小娘が持ち上げられるような代物じゃないだろ!デタラメを言うな!」


「で、でたらめじゃないですよー!」

こ、怖い...この人怖い!隊長さんの方は優しそうだけどもう一人の方は怖い!


「ルイス。あまりお店の人に暴言を吐かないようにして下さい。....部下が失礼しました。話を戻しますね。ここに店を持ってきたと言う事は当然許可証もお持ちでないと」


「はい....」


「困りました....それではここでの営業はできません。直ちにお店を撤去していただけますか?」


「わかりました。すみません....」


「いえいえ。知らなかったのでしたら結構です。それで、撤去に何日ほど掛かりますか?場合によっては私の隊から何人か人手を出すことも可能ですが....」


「大丈夫です。今すぐにでも元々居た場所に帰りますので....」


「今すぐに?どうやって帰るんだ?」


「あ、えーっと....お店を持ち上げてそのまま空間転移させて帰ります。」


「空間転移?持ち上げる??何言ってんだ??」


「私の魔法です。私は魔法を作って小瓶に詰めることが出来るので...腕力を上げる魔法と空間を繋げる魔法でお店を持ち上げてそのまま帰るだけです。」


「そんな事出来るわけないだろ。お前さっきからいい加減な事ばっか言って、本当は俺らが帰った後にコソコソその自称魔法が使えるようになる小瓶を売りさばいて儲けようとしてるんじゃないのか?」


「ち、違いますよ!」


「じゃあ何だってんだよ。いいか?魔法ってのは誰しもが使えるわけじゃねえ。それに、今まで王国にいた魔法使いに"魔法を使えるようにする媒体"なんて大層な物を作れる奴なんざいなかった。お前のようにこれを使えば魔法が使えるようになる、なんて謳い文句で捕まった詐欺師が何人いたことか!隊長、やっぱこの娘詐欺を働こうとしてるんですよ。全く。逃げ出す前に早い所捕まえてしまいましょう。」


「え、えぇぇぇええ!?」


そんな!嘘なんて付いてないのに!


「ほら。とりあえず詰所に行って、そこでゆっくりと話を聞いてやろうじゃねーか。」


ど、どうしよう...このままじゃ.......



「あ、いた!あの娘か!?」


「ああ。やっぱりな。なーにやってんだこんな所で。」


遠くから突然声がした。

あれは騎士の人たち.....とエルトさん!?


「突然魔法を売り出すって店が現れたって聞いたから来てみたら嬢ちゃん今度は何やらかしたんだ? というかこんな所にどうやって店なんか....って聞くだけ無駄か。嬢ちゃんの考えてることはちょっとすごすぎて理解できねぇからな。」


「すごいだなんてそんなぁ....」


「褒めてないぞ」


「エルト隊長!お知り合いなんですか?」


「まぁな。とりあえずコイツを捕まえるって話は無しにしてもらえるか?この嬢ちゃんの魔法が使えるようになる小瓶の効果は本物だ。二度ばかし助けてもらったことがあるから俺が保証する。言っとくが嬢ちゃんの力なしじゃ正直帝国の連中を追い払えなかったかもしれないんだぞ?」


「エルト隊長がそう言うなら....」


「ふぅ....よかった.....!」


何とか連行は避けられた......

―がしかし。


「あ、あれか!希代の天才魔法使いってのは!」


「そこの君!すごい魔法が使えるって聞いたよ!ぜひ騎士団に入らないか!?」


「隊長から話を聞く限り君ほどの力量なら出世間違いなしだよ!」


さあ さあ さあ!

エルトの魔法屋に行ったという話を聞いた騎士たちは今日の騒動でその才能を見込んでスカウトにそろそろと集まってきたのだった。


「あわ....あわわ.......」


さあ さあ! さあ!!


あわわわわ......!

「すみません帰りますほんとすみませんでしたー!!」


急いで小瓶を飲み干し.....

ドコン!


そのまま空間を繋げて....

「それではまたいつかー!!!」


スタスタ.....

光のごとき速さで消えていった。


「はぁ....はぁ....こんな事になるなら王都にお店をだそうだなんて考えない方が.....なんだか疲れて......」


バタリ。


...........。


.................。








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「はっ!」


ふと気がつくと朝になっていた。

ふかふかのベッドで目覚めた彼女はふと違和感を抱く。


確か昨日は帰ってくるなりベッドに辿り着く前に疲れ果てて眠ったはず.....


........夢?

あれ?でも私確かお店を王都に出店しようとして魔法を作って.....

一階に降りるといつものホコリを被った小瓶がずらり。

そして机の上には「正夢の魔法(試作品)」と描かれた小瓶が。


「あーー!!思い出した!いい夢を見られる魔法の研究をしていたんだったわ!」


しっかり目が覚めて全てを思い出した。3日前の事。子供が怖い夢を見てうなされると相談しにきた母の為に夢をある程度コントロールできるようにする魔法を作りそれを自分で試していたのだった。


「という事は....お店を王都に出そうとしたら.......いや、考えるのはやめておきましょ」




その後2日かけて催眠魔法+楽しかった思い出を思い出させる魔法を合わせて楽しい夢が見られる小瓶を完成させたのであった。



「やっぱり千里の道も一歩からって言うわね!楽しようとせずに頑張らなきゃ!というわけで細かいこと考えても仕方ないからおやつにしましょ!」


......あれ?じゃああの夢に出来たハインさんとルイスさんは実在しないのかしら...?











「ハクシュン!」


「あれ、ハイン隊長。風邪ですか?」


「そうかもしれないね。でも風邪に負けてはいられないよ。さて、午後の仕事も頑張らなくては!」





魔法師のおかしな魔法作りは続く。





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魔法師のおかしな魔法屋 メル @Mell_

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