第3話 魔法使いと寝だめの魔法
「あー...よく寝た!」
今日は珍しくグッスリと眠れた。
そして看板を出し、いつも通りの朝が始まる....
....と思いきや?
「すいませーん...今お店開いたんですか...?」
開店するや否や遠くから女性の声がした。
「はーい!ただいまお店やってますよー!!」
手を振り返すとゆっくりとこっちに歩いてきた。
「すみません...ここが魔法屋さんで合ってますか....?」
ひょっとして.....開店待ちの....お客さん?
夢じゃないよね!?
「はい!わざわざ来てくださったんですか!?」
「えーっと...私の友人の紹介で....」
と、その時。
「よう、お嬢ちゃん。久しぶりだな。」
後ろから聞き覚えのある声がした。
「あなたは...エルトさん!?」
この間私の魔法をたくさん買っていってくれた騎士の人!
「お、名前を覚えててくれたなんて嬉しいじゃねぇか。お前さんのおかげで助かったから礼がしたくてな。お前さんの力を必要としてるであろう奴を連れてきたってわけだ。.....にしても何だ?その看板。先着一名に欲しい魔法を作ります...か。」
「どうですか!?お客さんが来ないのでサービスしてみる事にしたんです!!」
「あのな。嬢ちゃん。お前さんは自分の力がどれだけ強大かを知った方がいいぜ。あんま無暗にそういうサービスはしない事だ。もしそれで強盗が透明になる魔法を作ってくれって頼んで嬢ちゃんが渡した薬で透明になって民家で悪事を働いたらどうする?」
「それは......」
そっか...考えてもみなかった。必ずしもいい人が魔法を使うとは限らないよね....名案だと思ったんだけどなぁ....
「まぁ嬢ちゃんに悪気がないのはもちろんわかってる。そのサービスだって立派な商法の一つだ。客足も伸びて無さそうだしな。てな訳でその欲しい魔法を作ってもらう権利、遠慮なく使わせていただこうじゃないか。」
お客さんを連れてきてくれたのは嬉しいですけど一言多いですよー!
「こんにちは....シャーロットといいます。」
「こう見えて俺と同じく騎士隊長なんだぜ?七色の魔導士って言われてるくらいすごい奴でな....」
「私の紹介はいいですよ!もう....」
「あははは....それで、どういった魔法をお探しなんですか?」
「えっと....私は生まれつきで大きな魔力を持っているのですが...実は少し特殊で..."睡眠時間に比例して魔法の威力が上がる"というおかしな体質を持ってるんです。少し前にエルトが帝国軍を退けたのがあって反撃すべく本腰を入れて近日中にも攻めてくるかもしれないと...それでいざ戦いが始まってしまうと指揮を取らなければいけなくて睡眠に使える時間なんてごくわずかな物なので...」
「なるほど...じゃあその体質を直してしまったら本来の力が出せなくなっちゃいますね...」
「はい...どうにか出来ますか?」
「少し待っててくださいね!」
うーんと....寝ないと強くならない体質...それで作戦の指揮をとらなきゃいけなくて忙しい....それに薬による魔法の効果は2時間.........よし、それじゃあこれとこれを....こうして......
....できた!!
「お待たせしました!」
「おぉ、なんていうか禍々しい色の小瓶が出てきたなこりゃ。」
「とりあえず全部袋に詰めておきますね!説明書も一緒に入れておきますので。あとよければ感想をここに書いて送ってください!あと回復の小瓶と色々オマケしておきます!お代は小瓶3つ分で結構ですよ!」
「いやいや、さすがにそういう訳にはいかないぜ。この店が潰れちまうぞ。代金は全部払うから。ほれ。」
「ありがとうございます....それで、一体どんな魔法を作ったのですか?」
「それは....見てからのお楽しみです!」
「嬢ちゃんの発明は有用だがなんだかいやな予感がしなくもないぜ...まぁいい。ありがとな!また来るよ。」
「はーい!ありがとうございましたー!!」
ふぅ!いい事すると気分がいいわ!これであの魔法使いさんも助かるはず!!
——————————————————————————————————————
そして一週間後。
サルト帝国の兵士達が攻め入ろうとしていた。
「お、いよいよそいつの出番か?」
「ええ....でも本当にうまく行くかしら....」
「大丈夫さ。あの嬢ちゃんを信じてやんな!」
やや不安が募る。エルトは嬢ちゃんを信じろ!って言ってるけど...
私宛に作ってもらった魔法はリボンの結ばれた3つの小瓶。
『グッスリ仮眠』 飲んでから魔法の効果が切れるまでグッスリ眠れる薬です!すぐに眠くなるので注意! 2時間経つとパッと目が覚めます!
『文殊の知恵』 飲むと自分の頭脳が2人出てきて寝ている間も自分の代わりに作戦の指揮を取ってくれます!本来は自分同士3人で考え事をするときに使う薬です!
『寝だめ』 飲むと睡眠効果が2倍になります!ただし寝すぎると頭が痛くなるので注意!休日の前日に!
.....これ本当に大丈夫かな.....
「エルト隊長!シャーロット隊長!そろそろ出撃の時間です!」
「おう!じゃあまた後でな。」
「あ、はい。」
さて、いよいよか....一応1時間は仮眠をとってきたから大丈夫....大丈夫なはず!
「総員!構え!そのまま前進!!」
それから3つの小瓶を一気に飲み干す。
まず最初に寝だめの小瓶。次に文殊の知恵の小瓶。そして最後に仮眠の小瓶を....
バタリ
「隊長?隊長!大丈夫ですか!!」
「Zzzzzz......」
「ちょっとシャーロット隊長!何で寝てるんですか!!」
「おい、起こすな。そのまま寝かせるんだ。」
「あなたは...エルト隊長!なぜここに?というかいつの間に!?」
「そいつの事を伝えにな。シャーロットは今眠ることによって魔力を増大させている。2時間たったら目が覚める。それまで敵を近づけるな。いいな?」
「あ、はい...」
「それとお前の隊に渡すものが....あった。これだこれ。こいつは回復魔法の小瓶だ。負傷したヤツに飲ませれば傷がふさがる。じゃ、急ぎ俺は自分の持ち場に戻る。頼んだぜ!」
「あ.....」
「ボーッとしないで!前方から敵!」
「あ、はい隊長!.....ん?隊長の声....?」
眠っているシャーロットの横に.....
「うわぁあああああ!脳みそだ!しかも2つ!隊長!何があったんですか!!」
「狼狽えない!ちょっと訳があってこうなってるの。それにしても....まさか文字通り"頭脳"だけをコピーするとは...せめて顔だけでも複製してほしかったわ....」
『私の本体は起きたら敵を一掃する為に今は眠っているの。この脳は魔法によって複製されたものだから攻撃されても私の本体に影響はないわ。』
「もう一つの脳も喋った....!!」
「ほら、あなたは私を持って前線へ!もう一人の私をそっちのあなた!持って行って。向こうの指揮は任せるわ!」
『ええ。そっちはお願いね。』
「脳が.....会話してる....というか...え?脳みそ持って歩くんですか?」
「つべこべ言わない!」
「は、はい!」
こうして脳みそを抱えた兵士が前線へ駆り出される。
「次!右方向から槍を持った兵士が8人!左に魔法使いが3人!」
「「「はい!」」」
『そこ!前方に5人騎兵!回り込んで一気に前進!負傷した者は後方に下がって交代!」
「「「はい!」」」
方や的確な指示を出し攻防一体の強さを誇る騎士。と脳みそ。
方や支援と治療の指示を出しバックアップをする騎士。と脳みそ。
「おーおー、派手にやってるなあの脳みそ。すげーや。」
後方からのんびりと見物する隊長が一人。
「あのー...私たちは後方待機なんですか?」
「ああ、シャーロットが起きるまで後方の防衛をするんだ。アイツが攻撃されないようにな。」
「というか...あの脳みそは何なんですか?」
「俺に聞くな」
「なんだあれ...脳が喋ってるのか...!?」
「悪夢だ...あの悪夢の再来だ....!百鬼夜行が始まる...!!」
「総員!後方へ下がれ!伝達しろ!向こうの指揮を取っているのはおかしな脳みそだ!あの脳みそを狙え!!」
そうして二時間。脳みその活躍により兵士たちはシャーロットを守り切った。
「ふわぁぁぁ......」
やがてぐっすり眠った悪魔が目を覚ます......!
「今は交戦中だった....急がなきゃ!疾風迅雷!!」
大急ぎで皆が戦っている前線へ向かう。
「みんな、大丈夫だった...って何あれ...脳!?」
「あ!遅い!!やっと来たわね私!!」
「え!?これが私.....!?」
「後は頼んだわよ!」
「あ、ちょっと!」
間髪入れずに脳みそは消滅した。....まさかあれが文殊の知恵の効果...?
「....って今は驚いてる場合じゃないわ。みんな正面を開けて!一気に決める!!」
「はい!総員退避ー!!」
眠った分だけ魔法の威力が上がる....力が湧いてくる!これなら.....!!
「行っけー!!巨人の一撃!!」
「.....あれ?ちょっと思ったより威力が大きい...?しまった!力が強すぎ」
ドカーン!!!!
眠った分だけ威力の増した強大な魔法は敵兵を退けると共に大地に大きなクレーターを作ったのであった。
それから数日後。店宛に手紙が届いた。
"お久しぶりです。あなたの魔法のおかげで無事に戦いは終わりました。本当にありがとうございます。しかし寝だめの効果が大きすぎて魔力の調節が出来なくなってしまい周囲の森林地帯を丸ごと吹き飛ばしてしまいました...その事と戦場で居眠りをした事の二つを報告書に書きまとめて怒られました.....でもあなたのおかげで助かったのは本当です。これからもいろんな人の役に立つ魔法を作ってください。いつかまた来ますね"
「あらら...今度は寝なくても睡眠ができるような魔法も作ってみようかしら。それにしてもまた一つ人の役に立てた!よし!もっともーっと頑張って繁盛するお店にしてみせるわ!!」
さらなる高みを目指しておかしな魔法作りは続く....
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