第2話 少年と幻術の魔法

「ふわぁ~、まだ眠いなぁ....」


魔法師の朝は早....くもないが遅くもない。昨日はまた新しい魔法を作ろうと考えていたらついつい寝る時間が遅くなってしまった。


「さーて、今日も頑張るぞ!!」

相変わらず客の来ない魔法屋の看板が出され、一日が始まる....


そして.....



「うーん...やっぱりお客さん来ないなぁ....」

やはり客足は伸びず。やっぱり何がダメなのかわからない。


「どうしてだろう、この間は王国の騎士の人にすっごーく褒めてもらったのになぁ....手紙だけど。」


どうして客が来ないのか、ではなくどうしたら客が来るのかを考えてみよう。

そしておやつを食べながら考えること50分。

「よし!!いい事思いついたわ!こうしてはいられない!!」


店の外に大きく看板を出す。


"魔法売ってますよ!今なら先着一人限定であなたの欲しい魔法をできる範囲でお作りします!!"


よし、これならきっと来るはず!


............。


.....................................。




一時間経過。




二時間経過....



誰も来ないまま.....



ついには夕方になった!


すると.....?


「ねぇねぇそこのお姉さん。面白い看板だね。魔法?作れるの??」


ふと一人の少年がやって来た。魔道具の回転車輪椅子に座っている。という事は下半身が動かないのだろう。


「えーっと、作ったの効果は二時間しかないけど....いいかな?」


「.....もしかして、お姉さん足が動くようになる魔法を作って欲しいと今思ったのかな?」


「ギク」

図星を指されてやや焦る。


「い...いや...そそそんな事は....ないヨ?」


「やっぱり。でも見た目ですぐ決め付けちゃダメだよ。半分は合ってるけど。」


「半分は合ってる....?」


「僕は魔法の学校に通っているんだけど....数日前に魔法を使う授業で魔力暴発を起こしたのが原因で体の魔力が抜けちゃって数週間は足が動かないんだ。ところが実技演習のテストがすぐ数日後に迫っちゃって。その一時間だけ僕があだかも足を動かせてるように見せかける魔法みたいなのを作ることはできないかな?」


「なーるほど、魔法のテストでね....とても大事なことじゃない!それならお安い御用よ。ちょっと待っていてね!」

久しぶりに私のスーパーパワーを発揮する時ね!ただの幻覚だけじゃないわ、もっとすごーい魔法を合わせてプレゼントしてあげましょう!

えーっと....あったあった。

これと....あとこれと......

よし!できた!!

「はい、ここに必要な魔法の小瓶と使い方を書いておいたからね!お代はいらないから、魔法のテスト頑張って!」


「お姉さんは随分と気前がいいんだね。でもきちんとお金は取るようにした方がいいよ。見た感じ多分あんまり売り上げはよくないと思うんだよね。そこの棚においてある小瓶もみんなホコリを被ってるみたいだし」


「うぐぐぐ!」

どうもこの少年は鋭い観察眼をお持ちのようで!


「はいこれ。じゃあまたね、お姉さん!」

少年は棚の回復魔法の小瓶5本分のお金を渡してそそくさと帰っていった。まさかこんな子供に商売の指摘をされる日がくるなんて!でもいい事聞けたわ。小瓶のホコリをきちんと払っておけばお客は増えるかもしれないわね!


「よーし、そうと決まればお掃除開始よ!!」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


少しズレている店主はさておき四日後。

「さて、今日テスト当日だな....」

前に立ち寄った不思議なお店で買った小瓶の入った袋を開ける。中には即興で書いたであろう説明書が付いていた。

『半分身・足』

自分の下半身の分身が出てくれます!実体化するし触れるよ!そのかわり一度出すと効果が切れるまで消えないよ!

『幻覚ミセール』

周りの人に見せたい幻覚を見せることができるよ!でも自分には見えないので注意!

『同調ポーション』

そのまんまの通り自分の何かを他の何かとつなげ合わせることができる万能魔法だよ!

なるほど。これら全てを飲めば僕の足を擬似的に動かすことができるってわけか。あのお姉さんちょっと変人だけど見かけによらずけっこうすごい人だったのかもしれないな.....


いよいよテスト直前。


まず分身の魔法を使う。次に同調で分身の足に自分の足の感覚をつなげて最後に幻覚の魔法で動かない足を見えなくするようにと.....


「なるほど。これはすごいじゃないか!」


「おいどうした?そんな大きな声出して。」


「ああ。聞いてくれよ、この前ちょっと変な店に行った時に魔法が使える薬とかいうのを買ったんだよ。そしたら見てくれよこれ、魔力が足りなくて動かなかった足が擬似的に動かせるんだ。これなら今日のテストもバッチリだよ!」


「あ、ああ...うん。すごいな。よし.、じゃあそろそろ俺も準備しないと....」


「????」



そして........


「出席番号13番。ロイ・ヒュード!」

「はい!」

ついに僕の番が来た。テストは簡単。特設闘技場内の的を走りながら炎魔法で射る。その際の命中精度が今回の評価対象だ。

闘技場へと足を踏み入れる......が。

「おい、見ろよ。なんだありゃ?」

「新手のファッションか?ガハハハ!」

「自分からハードル上げにかかってるのかアイツ?」


.....なんか色々と注目を浴びている。まさか本当は分身の足が動いてる事がバレたとか....?いやいや。いけない、集中集中。


「それでは始めてください。」

合図と共に走り出す。うん、順調だ!普段どおり足は動く。


「これじゃまるで闘牛だな!」

「あはは、おっかしーのー!」

「あらヤダ.....ス・テ・キ。芸術品みたい!」


しかし外野からはなぜだか随分とおかしな声が聞こえてくる。一体周りには僕の姿がどう映っているんだ?


その後、彼はテストで上出来な成績を残したようだが....?



それからしばらく経ったある日....



「あ、手紙!しかもこれはこの間の彼からの返事だ!」

よーし、作戦成功!!前回は騎士の人が手紙をくれたから今回は自分から感想を聞くべく手紙にお店の宛先を書いて魔法の効果の感想を聞いてみた!!

「えーと、なになに.....?」


"お姉さんへ。あなたが作った魔法の効果はなんとも偉大なものでした。下半身の分身に僕の足の感覚を同調させる事で普段どおりに足が動かせて実技もバッチリでした。あなたもしかして天才ですか?....でも一つだけ問題がありました。幻覚の魔法はどうやら幻覚を『見せる』事に特化していて本来あるものを『隠す』のには使えないみたいですよ。しかも使用者にはどんな幻覚を相手に見せるかは分からないというのもなかなかタチが悪いですね......僕は下半身の分身を自分の下半身に被せて動かない本来の足を『違和感』がなくなるようにと魔法を使ったところ元々の足が見えなくなるどころか動かないはずの足が動いてるように幻覚を見せたせいで終始四本足で走り回ってるように見えたらしくそれから数日は「ケンタウロス」とか「闘牛」とかあだ名を付けられるハメになりましたよ。まあでも効果がすごいのは確かでした。また来るときがあったらその時はもっと繁盛している店になっているといいですね。それでは"


やだ.....天才....だって....!?

「ついに私の才能を理解できる子供が現れる時代が来た...!こうしてはいられないわ、私の素晴らしさをわかってくれた彼の為にも、今度は下半身まるごと見えなくできる魔法を作ってあげましょ!えーとそれからそれから......」




またしてもおかしな魔法師の魔法作りは続く。

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