魔法師のおかしな魔法屋
メル
第1話 王国騎士と変化の魔法
ここは巨大な中央大陸の東にある王国、ラルス。この大陸の辺境にぽつんと佇む小さな魔法屋があった.....
「ふわ~ぁ.....よく寝た......」
もう朝だ。起きなくちゃ。
カーテンを開け、大きくのびる。パジャマを着替え、「小瓶のひととき」と書かれた看板を外に出し、魔法師ノアの一日は始まる。
といっても.....
「今日もお客が来ないわ.....」
相変わらず客はほとんど来ないのであった。
母が2年前にいなくなり、母が残した全ての魔法が載っている魔法図鑑と貯金でなんとかやりくりする毎日である。私の使える魔法は「全ての魔法を使うことができる」といういたって特殊な魔法。その為この魔法図鑑から覚えた魔法を調合し、出来上がった魔法の効能を小瓶に詰めて売るという商売をしている。ちなみに、作り方はカンタン。「魔法の調合をする魔法」で混ぜたい魔法を調合し、「魔法の効果を小瓶に詰める」という魔法で出来上がった魔法と同等の効果が発揮できる飲み薬を作る。効果は一つにつき二時間。とってもすごいビジネスだと思ったんだけどなぁ....一体何がいけないんだろう。
「考えてもしょうがないし...とりあえずお茶にしよう!」
そしてのんびりお茶でも入れようかと思った頃....
ガラガラガラ....
トビラを開く音がした。
「いらっしゃいませー!」
「えーっと...ここは...何屋なんだ....?」
入ってきたのは王国の騎士だった。仕事で来たという感じではなさそうだけど....
「ここは魔法屋です」
「魔法屋....?そりゃあ一体どういう意味だい?」
「私が作った魔法を小瓶に入れて売っていて、小瓶を飲むと二時間の間だけ瓶に込められた魔法が使えるようになりますよ!飲むと効果が出るので薬のようですけど普通のお薬とは違って効果は魔法なので薬局ではなく魔法屋というわけです。」
「へぇー、そりゃあすごいじゃないか。飲むだけで魔法が使えるねぇ....下手すりゃ国がひっくり返るほどの代物だな。しかし今までそんな物を売ってる店なんて聞いたことなかったぞ。で、どんな魔法を置いてるんだ?」
「色々です。たとえば....ありました!これは『八方美人』といって飲むと文字通り顔が八つになる魔法で、こっちは『孫の手』といって飲むと背中に手を回したときに手が伸びてかゆい所に手が届くようになる魔法です。そしてこっちは.....」
「ああー、わかった。そこら辺は遠慮しておくよ。なんとなくここの知名度が低い訳が分かったような気がするな.....まぁいい、とりあえず上位の回復魔法の役割をこなせる魔法の薬とかはないのか?」
「もちろんありますよ!回復魔法の小瓶や酔い止めの小瓶などたくさんあります。」
「ほほう、ありがたい。ここの所は西のサルト帝国との戦いが続いていて何度も駆り出されて怪我をする兵士も多くてな。とりあえず回復や解毒、止血とかの効果がある魔法をたーんと売ってくれるか?」
「かしこまりました!!少々お時間いただいてもよろしいですか?」
「ああ、構わんよ。」
久しぶりの来客にテンションが上がっちゃう。そうだ、折角だし私自慢のオリジナル魔法もおまけで付けてあげよう!
全部で80個程の小瓶を大きな袋につめ、騎士に渡した。
「ありがとな、嬢ちゃん。機会があったらまた来るぜ。じゃあな!」
「ありがとうございました!」
笑顔で騎士の後姿を見送った。さて、これからもっとお客が来るように頑張らなくちゃ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから三日後のこと。
「おいエルト、そりゃなんだ?」
「ああこれか?これはちょっと辺境の地に行ったときに偶然買った代物でな、なんでも飲むと二時間この瓶に詰まってる魔法の効果を自由に使えるようになるらしいんだ。すごいよな。」
「なんだそりゃ?飲んだだけで魔法が使えるなんて聞いたことないぜ。面白いじゃねぇか。とりあえず一本くれ。」
「わかった、ほれ。回復魔法の効果が詰められた小瓶をたくさん買ってきたからな、交戦中に負傷しても基地まで撤退せずにそのまま戦闘を維持できるだろう。あと、他のヤツにもそれぞれ渡しておくか」
こうして一人につき一本小瓶を渡しておいた。これなら問題ないだろう。
あいにくの夜戦で周りが良く見えない。慎重に行動せねば。
「隊長、そろそろ出撃時間です。」
「よし、わかった。各隊ごとに陣形を組んで三手に分かれて進め!!」
それから暗闇を歩くこと20分。
「...敵発見!畳み掛けろ!!」
ついに敵との交戦に入った。相手は重装備の騎士が6人と軽装の兵士が20人といったところか。小規模の戦闘とはいえ油断すれば一瞬で殺られるだろう。
「総員陣形を崩すな!一気に進め!!」
一斉に斬りかかる。相手も同じく斬り返す。その最中で10人程負傷し後ろへ下がった。
「負傷者は早く渡した小瓶を飲め!そいつで怪我を治せるはずだ!!」
下がらせた兵士たちは一斉に小瓶のふたを開け飲み干す.......
が.....
「な、なんだアレは!?化け物だ!!」
「く、来るなぁぁ!!!」
敵兵が一斉に逃げ始める。これは一体どういうことだ?....恐る恐る後ろを振り向くと.....
「な、な....なんだお前らはァ!?」
「たたたたたたた隊長!ししししししし視界が8分割されてますすすすすすすす!!」
「○#!$*◎※□◇#△!!!」
「なんか手がすごい長くなってんだけど!?!?」
目の前には頭が八つの化け物兵士2人と手が2メートルほどの怪物が1人と奇声を上げる異形が2人。恐ろしい形相で敵へ向かって走っていった。
「これは...あのおかしな魔法じゃないか....だがなぜ!?」
「おいエルト、こりゃ一体どういうこった?お前さん買うもん間違えたんじゃないのか!?」
小瓶の入っていた袋にはちゃんと見ていなかったが何やら紙が一緒に入っていた。
どれどれ.....
「店主のおすすめセット」.....
どうやら余計な魔法までオマケでついてきていたらしい。
『八方美人』 飲むと頭が八つになります!面倒くさい人たちに多方向から話しかけられたときに!
『孫の手』 飲むと背中に手を回したときに手が伸びます!かゆい所に!
『高音発生剤』 飲むと声が超高音になります!友人へのサプライズに!
『むかでブースト』 飲むと足が100本になります!!でも足の速さは変わりません!
『半分身』 飲むと自分の上半身と下半身の分身が一つずつ出て一緒に作業をサポートしてくれます!!
....なんだこれは。全部意味不明のゴミじゃないか。 しかし待てよ?この中で見た効果は少なくとも三種類だな。となるとまさか....
「隊長!各地で怪物の目撃情報が多数報告されてます!!百本足の兵士に半身の騎士それから.....」
「構わん!この機を逃すな!進め!進めぇ!!」
「めめめめめめめ目がまわるぅぅぅ....ままままままままま前三方向から敵ですすすすすすうぅ!」
「手がからまってほどけないんだけど!?」
「○$☆♭#▲※%!!!」
「やかましい!ここは動物園か!!ええい止まるなぁーッ!!!」
こうして魑魅魍魎の活躍により帝国兵を退け、この夜の出来事は後に帝国で恐怖の百鬼夜行と恐れられたのであった.......
それから一週間後、店宛に一通の手紙が届いた。
"お嬢ちゃんへ。お前さんの魔法はとっても役に立ったのでお礼を言おうと思って手紙を書くことにしたよ。たくさんの回復魔法の中にお前さんの作ったナゾの魔法が紛れ込んでたのに俺はまったく気づかなかった。ちょうど魔法を使う機会があったのが夜戦時でな。暗くてよく見えなかったもんでとりあえず持っていた小瓶を仲間たちに分けて渡したのが運よく戦場で頭八つの怪物と背中のあたりから手が異様に伸びる化け物とが集団になって襲い掛かったもんだから向こうさんも悲鳴を上げて一目散に退散してったよ。今度お礼にツレとまた魔法を買いに行くことにするよ。エルト・アルコス"
やった、やっぱり自分の作った魔法は役にたったみたい!
「よーし、みんなの為にもっともっといろんな魔法を作るぞ!!」
魔法師のおかしな魔法作りは続く。
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