第19話 順調な滑り出し
一戦目は圧勝だった。相手も俺達と同じ作戦だったため前衛部隊に力の差があったのが一番の勝因だ。何よりゼルの暴れっぷりが凄かった───
俺達の守備隊は攻撃部隊に身体強化のバフを掛け、敵の放出系魔法はバリアで弾き、相手の攻撃部隊へ妨害魔法で邪魔をした。それにより俺達攻撃部隊は全力で攻撃だけに集中できるようになる。
俺とミゼランは相手の的を的確に一つ一つ破壊していった。しかしゼルは……
「火拳! “豪炎弾”っ!」
走ったままの勢いで片手を引き絞り思い切り前に突き出すと、ドゥッという衝撃波と共にゴゥッと特大の火球が相手へと飛んでいく。その威力は凄まじく、相手が張ったバリアもろとも後方へと吹き飛ばし爆発した。この一撃で一部隊壊滅である。
次に射撃部隊が放つ魔法をこの“豪炎弾”で一掃し、一瞬で相手の懐に潜り込むと的に向けて拳を打ち込む。腹に入った拳は的を粉砕し、背中から出る火柱は後ろの的をも破壊する。
次々に射撃部隊を沈め、あらかた敵を片付け終わると城に向かって走り出した。
「ミゼラン、俺を風で高く飛ばしてくれ! 城を潰す!」
「ったく、君のお陰で僕の出番これだけだよ」
ミゼランの“エアロ”がゼルを天高く舞い上げ、上空から城に向けて魔法を練り始める。炎を纏い、ギラッとした目を覗かせ、うっすらと笑うその姿はまさに悪魔の様相そのものだ。
「行くぜ……火拳!」
「「ちょっ、ちょーー!! 待ってぇぇ!!」」
結界を張っていた相手チームが危機を感じて一目散に逃げ出す。
「 “
ヴォンッと空気を震わせ、放たれた紅黒い炎の魔弾は敵チームの一部隊、五人で張られていた結界をいとも簡単に突き破る。その魔弾が城に落ちると盛大な爆発音と共に消し飛んでいった。
「……容赦ないな」
「ああ。……僕、ゼルディア君には喧嘩売らないでおくよ。彼は間違いなく
地面に降り立ち振り向いたゼルの顔は、それはもう晴れやかなものだった。
こうして総当たり戦の一戦目はゼルの無双で無事勝利を上げたのである。
◆
日付が変わって二日目、俺達のクラスは午前と午後合わせて2試合行われる。午前の対戦相手はJクラス。昨日観戦した限りでは近接ではなく遠距離魔法を得意としている印象のクラスだ。
俺達は前日と戦術をガラリと変え、相手チームとの打ち合い合戦をする事にした。こっちのクラスも実は過半数が放出系魔法を得意としており、中でも一人、とても希少な魔法を扱える者がいたのだ。
彼女の名はネア=サリーシャ。緑色の髪をおさげにし、丸渕の眼鏡をかけた見るからに気弱そうな少女だ。医師プリメラ=サリーシャの年の離れた妹らしい。
彼女には固有魔法、“
そしてもう一つ、彼女にはぴったりの魔法があった。己の魔力を他者に譲渡する“
今回の作戦はそんな彼女を中心に組み立てられた。
セシルは前回と同じように城の守りを担当し、そして彼の部隊に属する他四人はネアの魔法で魔力供給を行う。他部隊は全て攻撃へと回り、相手チームの魔力が切れるまでひたすら打ち合うといった持久戦術だ。
相手チームが力尽きた所でルルとナナの出番である。ネアからの魔力譲渡を受け、特大の魔法を一発お見舞いしてやるとの事だった。
そして試合が始まる───
予想通り、相手チームは魔法の一斉射撃で攻めてきた。こちらも一斉に魔法を放ち、迎撃する。
今回、俺とミゼランは魔力供給のメンバーだ。と言ってもネアの後ろにただ立っているだけで何かをする訳ではない。
そんな棒立ちの俺達にネアが声を掛けてきた。
「魔力が少なくなってきた人達に譲渡を始めます。皆さん、よろしくお願いします。少し我慢して下さいね」
何をお願いされて何を我慢するのか分からないまま、ネアが魔法を施行する。
「オールドレイン!」
魔法を発するとネアの足元に魔法陣が現れる。そこから樹のツルのような物が伸び、ネアの両腕と下半身にどんどん巻き付いていった。まるで樹に捕らわれた少女だ。
そして俺達の足元にも魔法陣が現れる。すると今度はそこから緑色のウネウネした長っ細い物が何本も伸び、身体に絡み付いてきた。
───……っ。何かヌルヌル動いて気持ち悪いな……
そう思っているとお仲間の三人から悲鳴が漏れる。
「うわっ!! ちょっ、何で服の中に入るんだ!」
「そ、そこはやめてーっ!!」
「あー何か嫌いじゃないかも……」
と、俺以外は全員悶絶していた。二人は女子でTシャツにキュロットと肌の露出が多いから仕方ない。ミゼランは何故かとりわけ服の中をまさぐられている。
「ご、ごめんね。吸収しやすいように肌を求めて動いちゃうんだ」
───なるほど。それでなるべく薄着になるよう言われたのか
「じゃあ、えっと……ごめんね」
「何が?」と思うと同時、ネアが「発動!」と声を上げた。次の瞬間、さすがの俺も「ひっ!?」っと悲鳴が漏れた。
ゾワワ……と背筋に何とも言えない感覚が走る。女子は「はうんっ」とか「あぅっ」と妙な声が漏れている。ミゼランは「……っ!?」と声になっていない。
こうしてネアが俺達の魔力を吸い上げ、それを攻撃部隊に渡していくという行為が約30分ほど続いた。
「……そろそろ頃合いね。ナナ、やるわよ」
「分かった」
相手の攻撃が弱まったのを確認して双子が先頭に躍り出る。
「えっと……譲渡はどっちにすればいいかな?」
「……どっちでも大丈夫。ルルと私は二人で一つだから」
「? じゃあナナちゃんに。“ギブ・ザ・フォース”!」
その魔力を受けて向き合った二人が呪文を唱え始める。
「《月の光は闇を照らし、その光は優しく包む》」
ルルとナナの左手が重なる。
「《闇は月を輝かせ、その闇は全てを隠す》」
ルルとナナの右手が重なる。
「「《光と闇は表と裏 その力は表裏一体》」」
二人は互いに額を合わせる。
「「《光が包み 闇は集まる》」」
瞬間、二人の周囲に暴風が巻き起こり、その風は白と黒の粒子を伴い巻き上がる。
二人は顔を上げ、片手を繋いだまま前を向くと、片手を突き出し言葉を発した。
「“
暴風が集まり、二人の手の前に白い光のリングを纏った黒い球体が現れた。字の如く、正に月が太陽を隠す日蝕だ。
ピタリと風が収まり、しかし次の瞬間、爆風を起こしてそれが放たれる。後ろにいた味方も前にいた敵も全て吹き飛ばし、大地を抉りながら結界を破壊して城へとぶつかった。
その球体は城を粉砕しながら全てを飲み込み、みるみる小さくなっていく。最後にプツンと消え去ると同時、凄まじい衝撃波が一帯を襲った。近くにいた敵チームはせっかく立ち上がったのにその衝撃波をもろに受け全員気を失って地面に倒れる。
「はい、終わり」
「うん。上出来」
ハイタッチをしながら微笑み合う二人。
俺達は皆黙り混み、その光景を唖然として眺めていた。
触手から解放されたミゼランがボソっと
「あれは……破壊神だ……」
と呟いていたが、俺は心の中でそれを肯定したのであった───
ディスティニーブレイカー 夏蜜柑 @natsu-umi
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