第18話 いざ、決戦!

 

「皆たんとお食べ! あら貴方、そんな少ないご飯じゃダメよ。倍はよそいなさい」


「そうよー。沢山食べなきゃ戦えないわよ! 腹が減っては戦はできぬ、てね」


 俺達は食堂で朝食をとっていた。トメさんとオチヨさんの二人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。昨夜の夕飯時もそうだったが家庭的な手料理をご馳走になった。今も俺の目の前には空けたはずの茶碗に三杯目のごはんが大盛りでよそわれ、死んだ魚のような目でそれを見つめていた。


 そんな俺をくすくす笑って見ている者がいる。


「ダメだよクロス。お米を残すと目が潰れちゃうんだって」


「どこの伝承だ……って、何一人で優雅に茶なんか啜ってるんだよ」


 見るとセシルの食器は綺麗に一纏めに重ねられ、何一つ残さず食べ終わっている。


「なぜだ……俺も二度食べ終わったはずなのに……」


「クロス、ここのお母さん達をナメちゃいけないよ。 皿を空けたら即片付ける! これ、鉄則だから」


 ───どんな鉄則だっ!?


 と、何かに気付いたセシルがテーブルの端を指差して笑い始めた。


「プッ……ふふ。見て、あそこ」


 言われてその方向に目を向ける。そこには横一列になって遠い目をしている三人の姿があった。


「あいつら……最初と皿の状態が何も変わってないな」


 双子に至っては白目を剥きそうになっている。よく見れば違うクラスの奴らも多大に好意を受けたのか同じように遠い目をしていた。


「これが一番の戦いだったか……」


「ははっ。でもあったかいご飯だよね。僕お味噌汁を初めて飲んだ時は感動したよ。こう、ホワ~っとなる感じ」


「まぁ、な。確かに旨いが……はぁ。よしっ」


 俺は気合いを入れて新たな米とおかずをかき込み始める。それを見て触発された周りの奴等も一気にかき込み始め、更にそれを見たチヨさん達が笑顔で米のおひつに手を伸ばし、それを阻止しようと皆慌てて皿を片すという攻防が繰り広げられたのだった。





 ◆





 俺達はしばしの休息を取り、グラウンドに集合していた。他のクラスも大方集まり、場は賑わっている。


「いよいよだな~。何かワクワクするぜ」


 ゼルが両腕を上げてストレッチをしながら話掛けてくる。


「そうだな。俺も少しワクワクしてる」


 他人と初めて共闘するのだ。命のやり取りをするわけじゃないからか、一種のゲームみたいで楽しみが勝っている。


「フン。どんな心持ちでも結構だけどな、同じ前線組で足だけは引っ張るなよ。ゼルディア君は問題ないだろうけど、僕はまだ君を認めてない」


「おいおい、ミゼラン。こいつの力はお前も分かってるだろ? まだ貴族だの庶民だの拘ってんのか?」


「違う。僕はこいつが嫌いなだけだ」


 キッとした目付きで睨まれた。


 ───おぉ。清々しいほど正直に開き直りやがった……


 そこにセシルがパンパンと手を叩いてやってくる。


「はいはい、無駄口はここまで。前線の君達がしっかりしてくれないと困るからね。ほら、そろそろ始まるよ」


 その言葉のすぐ後、グラウンド全体にアナウンスが響き渡る。


『只今よりクラス対抗総当たり戦を開始致します。グループ1、Cクラス対Gクラス、グループ2、Fクラス対Hクラスの対戦を始めます。両者、準備を始めて下さい』


 そのアナウンスと共に、俺達はグラウンドの中心へと向かって歩き出す。そこには既にグループ2のクラス担任全員が揃っていた。


「審判を担当します、Dクラス担任イザベラ=ベルドナートです。副審はB・Jクラスの担任が行います。今から皆さんにJBバトルと同様に防御魔法を施し、体の前後に的を付けて頂きます。的はどちらかが破壊されたら速やかに戦線を離脱して下さい」


 そして教員達は次々と生徒達に魔法を施していく。


「それじゃあ僕とエミリア先生は城の創造といきますか」


「ええ、そうしましょう」


 そう言ってFクラスの担任とエミリアは己の陣地後方に向けて魔法陣を組み立て始める。


「《それを創るは地の力、それを造るは土の物質、我が想像せし姿を創造せよ! ”具現創造クレアシオン“!》」


 瞬間、地面に描かれた巨大な魔法陣からゴゴゴォ……と地響きのような音と共にお城が現れる。三階建てぐらいだろうか? 白が基調のザ・城って感じだ。


 そして皆各々持ち場に向かって散っていく。


 イザベラは生徒達が配置に着き準備が整ったのを確認すると、喉に拡声魔法を掛け声高らかに開戦のアナウンスを行った。


『それでは正々堂々と……始めっ!!』






 開戦のゴングと同時、城の頂上でセシルが結界魔法を展開する。その結界を守るように双子を筆頭に四人の生徒が攻撃の構えをとった。


 その前では射撃部隊が一斉に遠距離魔法を放出する。


 前衛の俺達は各々武器を作成する。俺は自分の腕丸々一本を媒体として“暗黒物質ダークマター”を掛ける。闇が腕を覆い、正真正銘の片手剣が出来上がった。


「お前のその魔法はいったい何なんだよ……その魔法があれば何でも武器に出来んじゃねーか?」


 ゼルが呆れたように呟く。


「まぁ出来るっちゃ出来るが……この使い方はあまりしたくないんだよな……折れたら腕ごと粉砕しちゃうから」


「──っ!! バカなのか君は!?」


 風神矢を槍状に創り終わったミゼランが俺達の会話を聞いて驚愕する。


「あっはは、スゴい気合いの入れようだな! まぁ俺も似たようなもんだ」


 そう言ってゼルは両手に炎を宿すとそれを握り込むように拳をつくる。激しく燃え盛る炎が両手を覆い、さながら炎のグローブといった感じだ。


「うわっ!? ちょ、あっつっ!! ゼルディア君、そういった魔法を使うなら先に言ってくれ!」


 ───そうだな。可哀想に、後ろにいた奴前髪焦げてるぞ


「ん? ああ、悪い。俺には炎系の魔法が効かねーからたまに熱いって事忘れるんだよな」


「そんな当たり前の常識忘れないでくれ! ったく、君達といると疲れるな……」


「だーから悪かったって。 ほら、相手が来る前に突っ込むぞ! お前ら、援護を頼む!」


「「おーー!!」」という掛け声と共にゼルの部隊が一足先に先陣を切る。


「俺らも行くぞ。自分の身は自分で守れよ」


「あいつに遅れを取るな! 僕達も突っ込むぞ!」


 ゼルに続いて俺達二つの部隊も競うように敵陣へ向けて走り出したのであった───



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