第17話 クラス対抗総当たり戦、その前に
「いよいよ明日からだな」
「うん。だいぶ連携も取れるようになったし、いい感じに仕上がったと思うよ」
「あとは実戦……あるのみ」
「そうね、楽しみだわ」
俺達は合宿の前日、例のカフェに集まっていた。休日の昼過ぎだからか客も少なく、店内はのどかな時間が流れている。
「そういえばクロスはちゃんと部活に入ったのかい?」
皆そういえばそうだという顔で俺を見る。
「ああ、心配ない。しっかり見学もしたし、入部届けも出してきた。お前らも出したんだろ?」
「ええ、私達は魔導学術研究部にしたわ。新しい魔法の研究や魔法陣の創造を目的とした部活よ。この研究が進めば私達の生活ももっと豊かになるわ」
「俺は前に言った通り騎馬部だ。馬に乗りながら魔法と武器を扱う訓練をするんだが戦う大会もあるんだぜ。優勝すりゃ魔法騎士に一歩近付けるからな、頑張るぜ」
「僕は知っての通り生徒会だよ。で、君は結局どこにしたんだい?」
「俺は……
「「「「……え?」」」」
「だから聖騎……」
「そうじゃなくて!! え、何でそこにしたんだい?」
「黒魔法使いのお前がおかしいだろ!」
「……ビックリ」
「ほんとそうね……」
「そうか? ゼルの騎馬部程じゃないが騎士の訓練も出来るし、苦手な聖魔法も学べるしいいと思ったんだが……」
「聖魔法を使えるの!?」
ルルが目を見開いて驚いている。
「いいや、使えない」
「何なのよっ!」
「……意味不明」
「だから、使えないから使えたらいいなと思ってそこにしたんだ」
その俺の答えに全員が唖然としている。
「……えっと、クロスは聖魔法がどういうものか知ってるかい?」
「ああ。白魔法の最上位魔法だ。白魔法使いでもなかなか扱える者はいないらしいな」
「そうよ。白魔法使いでもさらに洗礼された力の持ち主、または天に祝福された者しか使えない聖なる魔法なのよ! 黒魔法使いの貴方が扱えるわけないじゃない!」
その言葉に俺はムッとして反論する。
「何でそう言い切れる」
「あのな、絵の具で考えてみろ。白に黒をほんの一滴、それだけで白い絵の具は灰色になっちまう。逆に黒に白を一滴落としても黒い絵の具は黒いままだ」
「そうだな」
「聖魔法を扱える奴ってのはこの白の領域なんだ。お前は黒。黒い絵の具にいくら白を足しても濁りは消えない。消せるとしたら……それは幾重にも白を足す作業が必要だ。途方もない年月がかかるだろうさ」
「実際、黒魔法使いの力量は一定のレベルに達すると見た目で判断出来ないでしょ? 黒は何色でもすぐに黒へ変えてしまうからよ。白魔法使いの見た目が力量と比例するのはそれだけ白くするのも白でいるのも難しいからなの」
「……なるほどな。だから俺は白になれないから聖魔法は使えないって事か」
「そういう事になるわね」
「それは誰が決めたんだ?」
俺の言葉に「え……」っと皆絶句している。
───俺は曲がりなりにもセラフィナイトの人間だ。兄とだって血は繋がっている。黒に塗り潰されていたとしても、その中には純粋な白が混ざっているはずなんだ
「黒魔法使いの俺でも白魔法は使えるんだ。セシルやルルだって何かしら黒魔法、使えるだろ? それは不思議じゃないのに黒魔法使いが聖魔法を使うのは絶対に無理だと思われてる」
「それは……だって……」
「絶対に無理だと
「……そうだね。思い込みや固定概念に縛られるのはダメだった。この間学んだばかりなのに」
「それとこれとはちょっと違う気がするけど……」
「まぁ向上心を持つのはいい事だと思うぜ。こいつが本当に聖魔法を扱える日が来たらセシル達だってすげぇ闇魔法を扱える日がくるかもな」
「なら……研究部に来ればいいのに」
「俺はカノン=エクセシアみたいな魔法騎士を目指してるんだ。騎士の中でも先鋭部隊とされる聖騎士所属だからな、その実態に興味があるんだよ」
「そう。まぁ貴方が目指すのは
「ふふっ、それじゃあ皆心置きなく戦いに専念出来るね。頑張ろう!」
そのセシルの言葉に皆で力強く頷き、俺達はお茶の続きを
しんだのであった───
◆
合宿初日、まずはこの学院がある街の観光だ。3~4つのクラスに分かれて各所を回る。
ここは兄が治めるアークエデンのふもとに位置するフルールシティと言う街だ。セラフィナイトの領地であるが治めてる者は違うらしい。
「花で溢れるこの綺麗な街はセラフィナイト領の中でも取り分け観光向きです。花をモチーフにした様々なお土産や飲食店も沢山あるので休みの日に個別で見て回っても楽しいですよ」
俺達はエミリアに説明を受けながら街中を見て回る。すると街の中心に建てられた一際大きな大聖堂が目に入る。
「この大聖堂は女神を奉る神聖な場所です。年に一回フリティラリア様も礼拝に訪れ、お言葉を下さいます。街内外から沢山の人が訪れるのでその日は盛大なお祭りも催されるんですよ。皆さんも是非一度は参加してみて下さい」
カノンから話だけは聞いた事がある。夢のように楽しく、幻のように寂しいものだと説明された。
それを思い出し、俺はいつか必ず訪れてみようと決意したのだ。
その後は街のレストランで昼食をとり、魔導列車なる物で目的地まで移動する事になった。
「こんな便利な乗り物があるんだな」
「列車は初めてかい? 大きい国以外では馬車が普通だからね。熱エネルギーを動力に変えて動くんだ」
「馬車で二時間かかる所も列車なら30分よ。私も乗るのは久し振りだわ」
俺達はそんな会話をしつつ流れる景色を楽しんでいるとあっという間に目的地に到着した。学院が所有する施設以外は何も無い広大な草原地帯だ。
「皆さんここから15分程歩いて施設に向かいます。それでは行きましょう」
エミリアの後に続いて草原を歩いていくと、丘を越えた先に場にそぐわない立派な施設が建ち並んでいた。
「寄宿舎が手前の建物でその奥が体育館、横に馬術練習場と馬屋があって、一番奥に建ってる大きい円形の建物が闘技場だよ。あとはグラウンドが二つ」
歩きながらセシルが細かく教えてくれる。
「随分詳しいな」
「ああ。入試前に見学会をやっていてね、そこに参加したから一度ここに来てるんだ。ここを管理してるお母さん達が食事も用意してくれるんだけど、お袋の味って感じで美味しかったなぁ」
思い出してるのか目を瞑ってホワンとしている。
「あ、ほら! 寄宿舎の前で出迎えてくれてる方達がそうだよ」
セシルが指す方を見ると、そこには50~60代ぐらいの女性が何人も立っていた。その中から二人の初老女性がこっちに向かって歩いてくる。
「皆さんお疲れ様。エミリア先生もお久し振りね。私達はHクラスをお世話するトメとオチヨです。さ、皆さんまずは部屋に荷物を置きに行きましょう。男子は私に、女子はオチヨに付いてきて下さい」
「お二人ともお久し振りです。皆さん、このお二人が合宿最終日までお世話をして下さいます。ちゃんとご挨拶して下さいね」
俺達は「よろしくお願いします」と皆で挨拶をし、二人に続いて部屋へと向かう。
着いた先、そこは畳の大広間だった。
「ここが寝泊まりしてもらう部屋よ。全員分の布団は押し入れに入ってるから自分達で敷いてね。シーツは毎日新しいのを用意するわ。トイレは部屋の外、お風呂は大浴場よ。それじゃあ荷物を置いて作戦室に行きましょう」
ぞろぞろと作戦室へ向かい、全員が揃うとそこでエミリアから戦いの説明がされる。
「さて皆さん、いよいよ明日から戦いが始まります。場所は二つのグラウンドを使って各グループ同時に行われ、皆さんの一戦目は午前の一試合目、Fクラスです。明後日は午前と午後に一試合ずつ、B・Jクラスと戦います。空いてる時間は敵の戦いを見てしっかり作戦立てを行って下さいね。でも大切なのはまず一戦目。しっかり準備して、勝ちますよ!!」
その喝に皆気合いが
俺達は明日の勝利に向け、作戦の最終確認を行ったのであった。
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