第16話 合宿前、教室にて

 

 二日後、綺麗に腕も治ったミゼランが登校してきた。奴は教室内の視線も意に介さず、真っ直ぐ俺の席までやってくると一つ咳払いをして口を開いた。


「クロス=リーリウム。僕に何か言う事はあるか」


 ───……それは俺が聞きたいな


「別に、ない」


 俺はやり過ぎたと思えど殺そうとしてきた相手に謝罪をする程お人好しではない。


「なら一つ聞かせてくれ。最後、何で僕の水牢アクアリウムで無事だった?」


「簡単だ。お前が魔法を放つ直前に火魔法で水蒸気爆発を起こした。水球の崩壊が先だったからお前の魔法は発動しなかったんだ」


「……そうか。その爆発で無傷なのも不思議だが……僕は君を見誤っていた。次は誰であっても油断しない。お前も、あれが僕の全力だと勘違いしないでくれ」


「しないさ。でも俺は次も負けるつもりはない」


「相変わらず人をイラつかせる奴だな」


 しかしその言葉に怒りは感じない。その証拠にミゼランの口元には笑みが浮かんでいる。


 ミゼランは不意に顔を引き締め、セシルに向いて頭を下げた。


「国の恥となる事をしました。申し訳ありません」


「いいえ……僕も貴方達の戦いを見て己の愚かさを知りました。お互い、精進しなければなりませんね」


「はい」


「でもミゼラン、お前も凄かったぞ! 今の時点で二つの魔法をあんだけ使いこなすのは中々だ」


「……同意」


「そうね、嫌味なだけじゃないって事は分かったわ」


 後ろの三人がそう声を掛ける。


「……何か慰められてる気がするからそれ以上は結構です」


 そう口にするミゼランを他所に、取り巻き二人も後に続く。


「そうだよ! やっぱミゼラン君は凄いよ! 負けちゃったけど」

「うんうん。俺なんかまだ詠唱破棄は一つも出来ないんだぜ。感動したよ! 負けちゃったけど」


「何なんだお前ら!! 褒めるか貶すかどっちかにしろっ!」


 そのツッコミにクラス中が明るい笑いに包まれたのであった───





 ◆





 次の週、今日から本格的な授業が始まる。入学して最初となるビッグイベント、クラス対抗総当たり戦に向けての実戦訓練だ。


「それではまず簡単に説明をしましょう。クラス対抗総当たり戦とはACEGIクラスをグループ1、BDFHJクラスをグループ2とし、各グループ内で総当たり戦を行います。計4試合を戦い、最も勝利数の多いクラスがグループ代表として決勝に進みます。

 次に戦い方ですが、これは至ってシンプルです。まず各クラスの担任が魔法で城を創造します。あなた方は兵隊としてこの城を守りながら相手方の城を潰す、これだけです。城が潰されたら即試合終了となります。また、兵隊である皆さんは胴体の前と後ろに的を付けて頂きます。その的どちらかが破壊された場合、その兵隊は戦闘不能となります。兵を全滅させても城は落とさなければいけないので注意して下さいね。

 ここまでで質問はありますか?」


「はーい! 勝敗が同率一位だった場合はどうなるんですか?」


「その二クラスが戦った試合の勝者が一位通過となります」


「はい! 守り方や戦い方は何でもいーんですか?」


「いいえ、2つだけルールがあります。

 一つは守備も攻撃も固有武器の使用は禁止です。純粋に魔法のみでの勝負となります。ただし、魔法を使う際に媒体として用いる魔道具のみ使用が可能です。

 二つ目は隊分けが義務化されています。5人一組を一部隊とし、計6部隊を作って戦ってもらいます。隊の人数が二人以下になってしまった場合は壊滅とみなされ、その隊は戦線離脱して頂きます。なので隊の中ではもちろん、隊同士でも連携を取りながら戦う事が肝心になってきます」


 ───なるほど。自分勝手は許されないわけか。本当の軍事練習みたいだな


「因みに魔法で創った武器なら使用は可能です。部隊は残り一つになっても全滅するまで戦いは続きますので最後までしっかり戦い抜きましょう。

 それでは今から皆さんで話し合い、作戦と隊分けを決めて下さい。私はアドバイスはしますが決めるのは皆さんですからね。頑張って下さい」


 その言葉を受け、皆自然とセシルの方に体を向ける。隊長は決まりだ。


「あー……っと、それじゃあ作戦を決めていこうか。実戦はぶっつけ本番だからね、まず一戦目はスタンダードに攻めるのがいいと思うんだけどどうだろう」


 セシルがそう提案し、ルルが同意し案を出す。


「そうね。なら戦闘部隊を最前線に三つ、後ろに援護部隊を二つ、城の守りを一つでどうかしら」


 その案にミゼランが名乗りを上げる。


「なら僕が前線を務めるよ。弓の方が得意だけど風神矢の応用で槍を作れるから」


「そしたら私は防御魔法で援護するよ」

「僕は魔法で援護射撃かな」

「俺も援護射撃に回らせてくれ」


 他の生徒も次々と自分の得意分野が活かせる所属部隊へ立候補していく。


「なら前線に出る奴とそれを守る奴を一つの部隊にして、その後ろに援護射撃が出来る奴をまとめて置いたらいいんじゃないか?」


 そのゼルの言葉で作戦と部隊編成が決まった。


「それで行こう。じゃあ武器を持って前線に出る人とそれを守る人でバランスよく三部隊に、その後方から魔法で援護射撃を撃つ部隊を二つ編成してくれ。僕は一人で城を守る事に専念するから、他四人は攻撃重視で城を四方囲ってほしい」


 セシルの指示で配置が決まった。前線に出る三部隊のリーダーは俺、ゼル、ミゼランだ。この三部隊で相手を一掃しにかかる。その後に続く援護部隊は各々得意な遠距離魔法をひたすらブッ放し、隙あらば城を撃ち落とす役割を担う。こちらの城はセシルが結界を張り、その四方をルルとナナ達が囲う。


 作戦と配置が決まり、あとは初陣に向けて訓練あるのみだ。



「話し合いは終わったみたいですね。私が口を挟む必要がないくらい立派な戦術だと思います。それでは明日から実戦訓練です。私も担任としてしっかりアドバイスさせて頂きます。頑張りましょう」


「「「おー!!」」」


 皆初のイベントに気合いが入る。


「どうせなら優勝を目指そう。目標は高く、ね」


 隊長の言葉に更に大きな声が上がる。


 俺は初めての共闘に胸を踊らせつつ、優勝を目指して気合いを入れたのであった───



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