第15話 予想外の称賛


 視線が痛い───



 授業の終わった生徒達は皆先に教室へ戻っていた。席に着いて担任の話を聞いている所に俺は一人遅れてやってきたわけだが……扉を開けた瞬間、全員が俺に振り返る。


 ───やっぱ腕を切り飛ばしたのはマズかったよな……


 反射的にやってしまったとは言え、そもそもその前に勝負は着いていたのだ。やり過ぎた事に違いはない。

 俺は若干の気まずさを感じながら席に着いた。


「さて、全員揃った所でホームルームを始めます。今日はこれで授業は終わりますが、一時間後に大講堂にて生徒総会があります。生徒会や風紀委員の役員挨拶等がありますので必ず参加して下さいね。以上です」


 エミリアが教室を出ていった後、いつもならすぐに喧騒が訪れるのだが今日は違う。皆座ったまま黙り込んでいる。


 ───えっと……これは気にせず出ていってもいいのだろうか


 俺がそう図りかねていると沈黙を破ってゼルが話し掛けてきた。


「お前、やったなぁ!! すげぇじゃねーか!」


 口火が切られるとあちらこちらから次々と賛辞の声が上がる。


「ほんと、まさかスイウォール君を倒しちゃうなんて!」

「最初は逃げ回ってるだけだと思ってたのに、凄かったよ!」

「僕も頑張らないと!」

「何が起こったのかさっぱり分からなかったけどそれがまた凄かったわ!」


 と拍手まで起こっている。


「あ、ありがとう……」


 俺は引かれているとばっかり思っていたので思いがけない展開にどうしていいのか分からなくなる。


 助け船を出してくれたのはセシルだ。


「ふふっ。皆予想外すぎて興奮してるんだよ。君がいなくなった後の事を教えてあげるから場所を移そうか。例のカフェに移動しよう」


 そう提案され、俺は拍手に送られながら教室を出たのであった。





 ◆





「いやー面白かったな! 圧勝じゃねーか!」


「ほんと、心配して損したわ」


「心配……してたんだ……」


「……ナナ、殴るわよ」


 俺達はお茶をしながら和やかに談笑していた。


「俺は……てっきり白い目で見られんのかと思ってたけどな。やり過ぎた自覚はあったから」


「実はあの後、そういう生徒もいたはいたんだ。でもガルム先生の話を聞いて、誰も君の戦い方を批判する人はいなくなった」


「どういう話だ?」


「実は───」


 あの戦いを見た後、生徒達の反応は様々だったそうだ。三分の一ぐらいの生徒はやはり俺が躊躇いもなく腕を切り落とした事にショックを受けていたらしい。


「そこでガルム先生が言ったんだ。“こんぐらいで引いてるようじゃ魔法使いウィザードになるのは無理だぞ”って」


「上級生や先生同士のJBバトルなんて半端じゃないらしいわよ。四肢切断や身体真っ二つなんて事もあるって話だったわ」


「教師もJBバトルが出来るのか!? 本気でやり合ったら死人が出そうだ……」


 ───でも少し見てみたい……と思うのはきっと俺だけじゃないだろう


「意見の相違を取りまとめる方法だからね。生徒と先生が戦った事もあるみたいだよ」


「そりゃまた物騒だな~」


「三年時にカノン様が差別の酷い教師に約定を突き付けたって話よね。カノン様が勝って、相手の教師は退職したみたいだけど。色々と逸話が多い方だわ」


 ───あいつ血の気が多いからな……


「そんな感じで、お前らの戦いは可愛いもんだってなったんだよ」


「最後にガルム先生がね、言ったんだ。“この学院で戦闘をする際、命は限りなく守られている。だが緊急時はもちろん、一歩外へ出れば命を掛けた戦いが至る所であるんだ。そんな時に戦い方や手段なんか選んでられない。油断なんてもっての他だ。今日クロスが勝つと思った奴は何人いる? 庶民は貴族より劣っている。そういう思い込みが油断を招き、その油断で命を落とす。それが今日学べて良かったな!” って」


「ほんと、ごもっとも過ぎて言葉も出なかったわ」


「僕らも皆そうだったんだ。すまなかった」


 そして四人とも俺に向かって頭を下げてくる。


「別に何とも思っていない。だからそんな事しなくていい」


「でも……」


「なら、俺も謝るか。貴族のお前らを強いだろうと思い込んでいるからな。警戒のし過ぎは動きを鈍らせる」


「……言ってくれるじゃない」


「ああ、その思い込みはそのまましといた方がいいと思うぜ」


「謝罪拒否」


「ほんとに君は……面白いね」


「ならこの話はこれで終わりだな。さてそろそろ行こう。もう時間になる」


「ヤベッ。 急ごうぜ!」


 そして俺達は急いでお茶を飲み干し、大講堂へと向かったのだった。





 ◆





『皆さん静粛に。只今より生徒総会を始めます。司会進行は私、生徒会委員で書記を務めますライカ=サンダースです。宜しくお願いします』


 会場から拍手が起こる。


『ではまず校内の規律を取り締まります、風紀委員のメンバーを紹介します』


 そうアナウンスされると壇上に20人の生徒が現れる。


 真ん中には一際体躯の大きい精悍な男がいる。深緑の髪をオールバックにし、鋭い目には赤い瞳が力強く輝き、浅黒い肌は体を覆う筋肉のシルエットを美しく際立たせている。

 その男がマイクを手に取った。


『俺は委員長のイグナス=ドラコーンだ。風紀を乱す者は俺達が容赦なく叩き潰す。喧嘩の平定も俺達の仕事だ。他所からの侵入者を見つけたり自分で対処出来ない事が起こった時も俺達が対処する。速やかに連絡してくれ。よろしくな』


 続いて残りの19人が自己紹介をし、壇上を下りていった。


『次は生徒会委員の紹介です』


 その声に続いて今度は14人の生徒が壇上に現れる。


『生徒会長のラフィカ=アンバーだ。私達生徒会は皆の代表としてより良い環境作りとその維持に励んでいる。何か意見、要望があれば生徒会が対処するので気兼ねなく申し出てくれ。緊急時は生徒会主導で指示を出す。その際は速やかに指示に従うように。以上だ』


 薄茶色のショートヘアに薄茶色の瞳、切れ長の目に尖った耳が特徴的だ。一般的な男子よりも背が高いのか端正な顔立ちも相まって凛々しさがすごい。女性なのに“カッコイイ”という言葉がぴったりな人物だ。


 次に副会長を始め、残り13人の自己紹介が続く。


『───以上が生徒会全役員だ。そして来月よりここに一年、セシル=エクレール=アクアマリンの参入が決まっている。皆も知っておいてくれ』


 その発表が行われると講堂内が拍手で溢れ返った。


 セシルはその場で立ち上がり一礼する。それを見届け、ラフィカを先頭に生徒会一同が壇上を下りていった。



『それでは今から部活動紹介を行います。皆さん自分の気になる部を見つけたら明日からの見学会に参加し、来週の終わりまでに部長へ入部届けを提出してください。半年毎に入部変更も受け付けていますからまずは気楽に選んでみるのもいいでしょう。それでは各部長、宜しくお願いします』


 その声を受けて約30程の部活が次々と紹介されていく。


 俺は全部活動の説明を真剣に聞きながら、最終的に一つの部に絞ったのであった───


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