第14話心配無用
エミリアの後に付いていくと着いた先、そこは保健室ならぬ治療室だった。
エミリアがコンコンとノックし、ドアを開く。俺は後ろから覗き込むと、そこには白衣を着たアンニュイな雰囲気を纏う女性が立っていた。
緑色のフワフワとしたロングヘアに緑色の瞳、気だるげなタレ目とぷっくりしたピンク色の唇が妖艶さを感じさせる。
深いVネックのセーターからは豊満な胸の谷間が覗き、ミニスカートから出る長い足はスラッと一直線に伸びている。
「あらぁ、エミリアじゃない。後ろの坊やは患者さんかしら?」
随分ゆっくりとした口調で話す人だ。
「彼の背に背負われているのが患者よ。リーリウム君、彼女は学院の専属医師プリメラ=サリーシャ先生です。スイウォール君を彼女に診せて下さい」
俺は中へ入りミゼランが見えやすいように体を傾けた。
「まぁ! 腕がバッサリ。綺麗な切り口ねぇ」
ホゥ……とうっとり頬を染めて傷口を眺めている。
俺の背中にゾクリと悪寒が走った。
「生徒が引いてるわよ。ぼーっと眺めてないで早く治してあげてちょうだい」
そう言ってエミリアはプリメラに向かって氷付けになったミゼランの腕を手渡した。
「そうねぇ、分かったわ。腕は繋げるだけだからすぐに終わるけどぉ……それより魔力の消耗が激しいわねぇ。今日一日培養カプセルで休ませましょう。だから明日まで入院よ」
ここに寝かせてちょうだいと指示を受け、ゆりかごの様な形をしたベッドにミゼランを下ろす。
「それじゃあプリメラ、後は任せたわよ。明日彼が目を覚ましたら教えてちょうだい。リーリウム君、貴方には話があります。行きましょう」
俺は一つ溜め息を吐き、一礼してから治療室を出ると先を歩くエミリアの後ろ姿を追い掛けたのであった───
◆
「とりあえず紅茶でも飲んで一息着きましょう。さ、どうぞ」
俺はエミリア専用の研究室に案内されていた。職員室もあるのだが教員は一人一人に専用で研究室があるらしい。
今そこで俺はソファに腰掛け担任と向き合っていた。
「リーリウム君、少し質問があるのですが構いませんか?」
「……ええ、構いません」
俺は返事をしてから出された紅茶を一口含んだ。
「無詠唱での多重付与は当たり前のように出来るのですか?」
「……へ?」
てっきりミゼランへの仕打ちがマズかったのだと思っていた俺は拍子抜けして間の抜けた声が出てしまった。
「ああ、話とはお説教じゃありませんよ。ただ貴方の使った魔法に興味があるのです。教えて頂けますか?」
「それなら別に。掛ける付与魔法にもよりますが……まぁいつも何個かは必ず重ね掛けして戦っていましたね」
だから当たり前っちゃ当たり前? なのかもしれない。
「なるほど。ではスイウォール君に掛けたプロテスとリフレクですが……あれは最後新たに掛けた魔法の効果で無効化した、と言う事でいいでしょうか?」
「そうです」
「それは上級魔法”
「上級かは分かりませんが……合ってます。これをただ剣に使うと掛けたバフが解けてしまうので纏わせて相手にぶつけた、と言う感じです」
「簡単に言いますね……面白い発想ですが貴方の年で出来る事じゃありませんよ」
呆れたようにエミリアが言い放つ。
「あなたの戦いを見てハッとさせられました。平等に教え導く私にまだ固定概念があったなんてと……ふふっ、私もまだまだです」
「固定概念……ですか」
「ええ。リーリウム君は何故貴族や王族かいるか分かりますか?」
「民を導き、守り、この星の先導者としての役割を担う者が必要だからです」
「正解です。なので魔法に関するその力は遺伝子レベルで強いのです。そして先導者になるべく幼い頃より英才教育が施されている事がほとんどです。一般庶民でも才に溢れ、高い潜在能力を持った者もいます。しかし、一般教養は受けれても特別な教養を受ける事は中々難しいのが現実です」
「……そうでしょうね」
王族貴族と一般庶民の生活の違いはカノンから習って知っていた。これも上に立つ者として知っておかなければならない大切な事だと、自分の身の上を語りながら教えてくれたのだ。
「ですから魔法学院があるのです。一般教養・魔力の質・基礎魔法の技術のみで公平に試験を行い、能力のある者なら誰にでも学ぶ機会を与える。王族貴族が有利なのは確かですが、一般庶民でも才があり努力した者には平等な権利が与えられるのです」
「ええ、素晴らしい事だと思います」
「……私の先輩にカノン=エクセシア様と言う方がいます。彼は10才まで孤児院にいたそうですが、魔力の質の高さがフリティラリア様の目に留まり学ぶ機会を得ました。そして彼は血の滲むような努力でなんとこの学院で首席入学を果たしたのです。
この学院で学ぶ事を全て身に付け、彼は常に首席のまま卒業していきました。今では貴族の称号まで与えられ、立派な魔法騎士として責務を果たされています」
思わぬカノンの話に俺は嬉しくなって自然と笑みがこぼれる。
「そんな立派な方ですが、それでも入学当初は王族貴族との知識・魔法技術の差は歴然でした。全てにおいて平等な学院ですが、残念ながらスタートラインだけは不平等なのです」
「………」
「と、先程まで思っていたわけですよ。貴方の戦い方を見てそれが思い込みだと気付きました」
「そう……ですか」
───まぁ俺は特殊だしな
「カノン様の経歴は一般の人達にも勇気を与え、だんだんと入学者も増えていったの。そして貴方の様な子が現れた。私はそれが嬉しい。実は私も出自には苦労した身でね、カノン様に憧れてこの学院を受験したのよ」
「先生も相当な努力をなさったんですね。俺も、彼を目標としているんですよ」
「あら。じゃあ貴族顔負けのその実力は納得ね。頑張りなさい」
ふわっと微笑むその顔は厳格さを消し去るほど優しさに満ちていた。
「それじゃあそろそろ教室に戻りましょうか。私は先に向かいますので貴方は着替えてからいらっしゃい」
「分かりました」
俺はお辞儀をして部屋を出ようとドアノブに手を掛けたその時、エミリアから「一つだけ」と声を掛けられる。
「今日のJBバトルについてですが、貴方は何も気にする必要はありません。ただし、最後の攻撃はいただけませんね。頭の防御魔法を砕いた時点で試合は終了でした。首、胸と続けて攻撃したのはマイナスポイントです。今日は授業でしたからね、次回からは気を付けて下さい」
そう言われ、俺は「あっ」と思い後ろ頭を掻く。
「すいません。以後気を付けます」
俺は再度頭を下げ、研究室を後にしたのであった───
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