第13話 JBバトル開戦
「……お前、舐めてるのか?」
「何がだ」
「その持ってるもんだよ! さっきも負けなきゃいいとかほざいてたよな。それで持ってきた武器が木の棒だと? バカにしてんのか! それとも既に諦めてんのか?」
ハッと小馬鹿にしたようにミゼランが嗤う。
「戦ってみれば分かる」
「てめぇ……」
一触即発の空気が流れた時、エミリアが結界の端に着きこちらを振り返って片手を挙げた。
「それでは正々堂々と……始め!!」
エミリアの手が振り下ろされると同時、ミゼランが手を突き出して水球を放ってくる。高等技術の無詠唱だ。
───なるほど。簡易魔法は詠唱要らずか。名称を発っさなくてもこの威力なら技術も中々あるのだろう。なら……
俺は水球を避けながら相手に分からないよう無詠唱で身体強化魔法を施していく。
───“
これでダメージ軽減、跳躍力のアップ、視力と洞察力の底上げが完了した。
続いて木刀にも
まずは自分の身体に掛けた魔法と同じ“タフネス”で木刀自体を強化、次に魔力を流し込んで物質自体を変化させ違う武器へと変える。
「“
木刀を闇が覆い、魔剣へと姿を変える。
この刀を選んだのはこれが理由だ。自然の木だけで作られている木刀は魔力を流しやすく物質を変化させやすい。元が木なので脆いという欠点はあるが、バフを掛ける事によってそれもある程度解消される。
───さて、今俺がやった事をどこまで見抜いたか……まずは相手の力量と攻撃手段を知る事からだ
ミゼランは眉間にシワを寄せる。本来黒魔法使いが苦手とするバフを黒制服の相手が行った気配があるのだ。しかも無詠唱で。
───チッ、こいつも詠唱破棄が出来るのか。少し見くびっていたかもな。なら少し本気で相手をしてやる
ミゼランは肩に掛けていた弓を手に取ると矢を置かずに弦を引く。
「風神矢、“エアリアルアロー”!!」
言うと同時、弓に緑の光が集まり無かったはずの矢が現れる。
限界まで引き絞られた弦が放たれるとドウッと空気を
強化された眼で矢を捉え魔剣で叩き切り、衝撃波が生む風の刃は飛翔して回避する。
その矢は一本二本と増えていき、ミゼランは三本の矢を同時に連続で放ち続ける。その風圧と巻き起こる風は凄まじく、その風は無数の刃となってクロスを襲う。
クロスは矢を叩き切るのを止め、まるで風に乗るように回避し続ける。
ミゼランは打てども打てども当たらない攻撃に苛立ちを感じ、そしてまるで嘲笑うかのように跳び回る相手に堪忍袋の緒が切れかかっていた。
───クソがっ! ……いいぜ、やってやるよ。死んでも後悔するなよっ!
怒りで充血した目を見開きながらミゼランは不敵な笑みを浮かべた。
観戦している生徒は皆興奮していた。ミゼランの怒濤の攻撃もさることながら、例え逃げ回っているだけでも攻撃を回避し続けているクロスに皆驚いているのだ。
しかし、本当に驚くのはそこではない。数人の生徒だけはその事に気が付いていた。
「あいつ、無詠唱で何個の付与掛けてんだよ……入学したてでおかしいだろ」
「1、2、3、4……今の所5つ。しかも全部中級レベル以上。1つは……バフじゃない」
「先生達も異常さに気付いたわね。他にも……5、6人は気付いてるかしら」
「ミゼランが動いたね。矢を放ちながら詠唱で術式を構築し出した。……クロスも気付いたかな。動くよ」
セシルの読み通り、クロスはミゼランの動きを察知して攻撃に転じようとしていた。
ミゼランは水と風の魔法を使う。まだ色々隠しているだろうがこの二つしか使わないという事は他は詠唱破棄出来ないのだろう。そして理性を欠いた今、矢を放ちながらブツブツと呪文を唱え術式を組み立て始めた。
───風神矢も魔法だろうに。これだけ威力のある攻撃をしながら別の魔法を組み立てているんだ。ウザい奴だがその実力は認めなければならないな
俺は相手が放つであろう必殺技を潰すため、回避を止めて更なるバフを自身に掛ける。
「“
瞬間、ドゴンッという音と共に足が地面を踏み抜き大きな亀裂が地に走る。
髪は逆立ち、バキバキと音を立てて筋肉が隆起する。
これは全身体能力を向上させ攻撃に特化させる魔法だ。その代わり防御力が大幅に低下するのがこのバーサクの弱点だが、その補填としてタフネスを掛けてある。
一瞬にしてその力は体に馴染み、俺は地を蹴って距離を詰める。
ミゼランは眉をしかめ「チィッ」と舌打ちをすると、地面に向けて風神矢を連謝する。放った矢は地面を這い、その風が砂煙を巻き起こす。それは砂嵐へと変わって一面の視界を奪い去った。その砂嵐は下から上へ竜巻のように巻き上がり、ミゼランの体を空高く舞い上げる。
「は……はははっ。抗わずやられてれば大した怪我もせず済んだのにな」
動揺したのか冷や汗を流し、しかし怒りが頂点に達したミゼランは怒鳴るように声を上げる。
「矢の雨を降らしてやるよ! “
言い放つ前、俺は地面を踏み抜き一瞬でミゼランの背後へと跳躍する。
「───っ!?」
「
「エ、エアロッ!!」
ブンッと剣を振るうと漆黒の衝撃波が空気を切り裂く。
寸ででエアロを上空に放ち、地上へと体を押し返した事で鼻すれすれで回避に成功する。
そのミゼランを追ってクロスは空を蹴り、地上に向かって跳んでいく。そしてミゼランを仕留めようと剣を構えた時、ニィと不敵に嗤う顔と目が合った。
「お前が悪いんだぞ……庶民の分際で貴族と張り合おうとした事を悔やむがいい!! “
瞬間、俺とミゼランの真下に魔法陣が現れ、そこから水柱が何本も立ち上ぼる。それは巨大な蛇のように俺の体に巻き付き、あっという間に特大の水球となって中に捕らわれる形になっていた。
「この水球は結界と同じで逃げ出る事は出来ない。そして水は圧が掛かれば掛かるほど呼吸は苦しくなり体は耐えられなくなる……」
そこまで聞いてエミリアがミゼランの殺意を感じ取る。
「死ね! “
“ドシャアッ”と言う音と共に球体にあった大量の水が弾け飛び、煙が上がる。
ミゼランはしたり顔でその場を見つめ、エミリアは両手を突き出し蘇生魔法を放つ用意をする。
しかし二人は次の瞬間、驚愕に目を見開いた。
瞬間移動のような早さでミゼランの前に現れたクロスは頭部に向かって剣を振り下ろし、プロテスとリフレクトを破壊した。
咄嗟に魔法を放とうとしたミゼランの腕を切り飛ばし、そのまま首と心臓の防御魔法も破壊する。
ぎゃぁぁぁっと悲鳴を上げ転げ回るミゼランに剣先を突き付けると涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔が恐怖で震え出す。
「人を殺そうとしておいて殺されるのは怖いのか」
ミゼランはヒッと声を上げガタガタと全身震える事しか出来ない。
「そこまでです。勝者、クロス=リーリウム!!」
そう告げてエミリアはミゼランに睡眠魔法を掛け止血を施す。
「ガルム先生、あとの説明はお願いします。リーリウム君、彼の治療のため場所を移します。手伝ってください」
そう言われ、俺は仕方なくミゼランを背負うとエミリアの後に付いて校庭を後にした。
誰一人、俺の姿が無くなるまで声を発する者はいなかった───
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