第12話 バトルに向けて
昼休み、俺は武器庫で使う剣を選んでいた。
あの後───
「……クロス=リーリウム。もし断りづらいと言うのが理由ならこの決闘は認められません。あなたにこの約定を受ける正当な理由はありますか?」
エミリアは全くやらせる気は無いようだ。まぁ普通に考えて、俺が受けてやる義理はないだろう。だが……
「これで一つ、俺に対する不満が消えます。それで理由は十分です」
「JBバトルは正式な決闘です。これは記録にも残ります。二人はそれを分かっていますか?」
「分かっていますよ、先生」
「ああ。大丈夫だ。負けなきゃいい話だろ」
カチンときたのかミゼランが凄い形相で睨んでくる。
───それが面倒くさいんだよ……
「はぁ……分かりました。お互いに同意な上で決闘を希望すると言うならば認めましょう。午後の授業、校庭にて二人のJBバトルを行います。ただし、持参武器の使用は認めません。各々必要な武器は学院の武器庫から選ぶように。
それでは午前の授業はこのまま解散とします。午後の授業は皆さん校庭に集まって下さい。以上です」
こうして俺とミゼランの決闘が正式に決まった。
授業後、セシル達に昼食へ誘われ止めるべきだと諭された。負けて席が替わったとしても俺と四人の関係が変わらない以上、あいつが絡んでくるのは変わらないと言うのだ。
───まぁそうだろうな。一般庶民と貴族が仲良くしているのが気に食わないんだ。俺が席を替わった所でこの四人と一緒にいる以上妬みは消えないだろう。それにしても……
「俺が勝って何も言えないようにする。それで解決だと思ったんだが……そうか。担任も俺が負ける事を心配したのかもな」
そう口にすると四人ともはっとした顔で口をつぐむ。
「俺は武器庫に寄るから先に行くな」
そう伝えてその場を後にしたのだ。
そして今に至る。
俺は剣の棚を見て回ると、一本の刀の前で足を止めた。昔カノンとの練習でよく使っていたモノがあったのだ。
それは“木刀”。読んで字の如く、ただの木の刀である。
俺は懐かしくなって、初心に返る意味も込めてそれを手に取り、校庭へと向かった。
◆
校庭に着くと担任が何やら言い争っていた。
「ガルム先生、これは見世物ではありません。うちのクラスの授業です。貴方は貴方の授業をなさったらどうですか」
「つれない事言うなよエミリア先生。俺のAクラスもこれからBTバトルについての授業なんだ。百聞は一見にしかずだろ? 合同授業って事で見学させてくれよ」
「貴方ね……」
鬼の様な形相で今にも爆発しそうなエミリアにガルムは気にせず言葉を続ける。
「授業の一環なんだろ? ならいいじゃねーか。あ、ほら主役の登場だ」
その言葉に二クラス分の視線が向けられる。
「よぉ。お前がクロスか? 俺はAクラス担当のジル=ガルムだ。悪ぃんだがうちのクラスも見学させてくんねーか? ミゼランには了承取ってるぜ」
ニカっと笑うその顔は何の裏表も感じず、巨漢で強面な風貌には似つかわしくない人懐っこさを感じる。
「俺も構わないですよ」
そう伝えるとガルムはガハハハと笑ってエミリアへと向き直る。
「決まりだ! さっそく始めようぜ!」
(この駄犬が)
チッと舌打ちをしてエミリアが下を向く。
───気のせいか? 小声で何か聞こえた気が……いや、気のせいだろう。気のせいだな
ふぅと息を吐き出しエミリアが顔を上げると、高らかに宣言が行われた。
「ただ今よりミゼラン=スイウォールとクロス=リーリウムによるJBバトルを行います。立会人は私、エミリア=ラングベールです。両者、前へ!」
俺とミゼランは校庭の中央へと歩き出し、それと同時に皆自然とその場へ座り込んだ。
俺とミゼランは向かい合い、その間にエミリアがやってくる。
「ミゼラン=スイウォールよりクロス=リーリウムへ、“席替え”の約定が掲げられました。両者共にこの約定に異論はありませんか?」
「「ありません」」
「ではここに約定を締結します。また、今回は特例として授業の一環である事を付け加えます。なので持参武器の使用禁止、また記録も授業の一部としてとなります。これに異論は認めません」
そう言うとエミリアが紙を取り出し呪文を唱え始める。するとその紙に魔法陣が現れ、そこに手を置くよう指示を受ける。
手を置くとその魔法陣が発光し、その光はすぐに消えた。これを三人分繰り返すと魔法陣は消え、代わりに紙へ文字が浮かび上がる。
「これで契約は成されました。次に貴女方が戦うフィールドを作成します。“
瞬間、俺達の足元に巨大な魔法陣が出現する。
「この半径20メートルの結界が貴方達の戦闘範囲内です。最後に命を守る防御魔法を掛けます。この部分に致命傷となる攻撃が入った場合、その時点で戦闘は終了です。“
その魔法が発せられると俺の頭、首、心臓部に魔法陣から出た白い光が巻き付いてくる。それは何事も無く瞬時に消えていった。
「これで準備は完了です。あとは己の力を示し、相手を再起不能、又は降参させるまで闘いなさい。それでは私の合図と共に開戦とします」
俺達は両者間を空け、向かい合って睨み合う。
エミリアは背を向けると結界の端に向けて歩き出した。
「なぁ、あいつ勝てると思うか?」
「それは今から分かる事よ」
「ミゼラン、強い?」
「そうだね……彼の振る舞いは置いておいて、スイウォール家はうちの国でも有数の貴族なんだ。水はもちろん、風魔法も得意としている。彼の魔法技術がどれ程までかは知らないけれど、恐らく相当な手練のはずだよ」
「口だけかと思っていたけど高慢ちきなだけあって貴族らしく実力もちゃんとあるのね」
「逆にあいつの実力はさっぱり分からないからな。持ってきた武器も木の棒だぜ? 俺二度見しちまったよ」
「……驚いた」
「でも、だからこそ彼には失礼な事をしてしまったんだ。何も分からないのに負けた時の心配ばかりしてしまった。自分も無意識に貴族と一般人で線引きしていたんだろうね。恥ずかしい」
「……仕方ないわ。貴族と一般人じゃどうしても学ぶ環境に差が出るもの。どんなに才に恵まれていても環境に恵まれず埋もれてしまう者もいる。入学してからは平等でもする前は不平等だわ」
「ああ。でも毎年貴族と同じくらい一般人が入学してるのも事実だ。ミゼランがどんな英才教育を受けてきたかは知らないが、あいつもかなりの努力をしてきたはずだ。今はそれを信じてやろうぜ」
「ええ、見守りましょう」
四人は頷き合うと黙って二人に視線を向けたのであった───
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