第11話 宣戦布告

 



 入学して二週目。今日から全生徒が新学期を迎え、授業も通常の90分、全5限の授業となる。

 今週は全授業、訓練施設や校庭にて基礎魔法の扱いについて実技を総復習するらしい。

 そして今日は授業後に委員会と部活紹介が大講堂にて行われる。


「それじゃあ皆さん、後ろのロッカーに訓練服が入っているのでそれに着替えて下さい。更衣室は教室を出て右に男子、左に女子です。着替え終わったら教室に戻ってきて下さいね」


 そう言われ、皆自分の学籍番号が付いたロッカーから訓練服を取り出し更衣室に向かった。


 更衣室には他のクラスの生徒もいたが気にならない程広々としている。


 訓練服は白地のTシャツに男子は黒のズボン、女子は黒のキュロットと至ってシンプルだ。上に羽織るジャージは青色で、これは各学年で色が違うらしい。


 教室に戻るといつの間に着替えたのか、担任のエミリアも教師用の訓練服に身を包んでいる。教壇に立つ姿とは違って上下黒の地味なジャージ姿だ。正直いつもこれでいいのでは? と思ってしまった。


「皆さん揃いましたね。それではこれから訓練施設に移動します。次からは更衣室で着替えて直接授業場所に集合して下さいね。では参りましょう」




 着いた先、そこはニ階建ての巨大なドーム型施設だった。中に入ると違うクラスも授業に来ているらしく、自分達も含めて3クラスいるがそれでも有り余る程にだだっ広い。


「ここが唯一魔法を自由に使える訓練施設です。一階は自由に使えるホールになっていて、二階は用途に応じた訓練が出来る施設となっています。

 この施設は入り口に特殊な装置が付いていて、この施設に訪れた人物の腕輪とリンクして自動的に記録されます。

 皆さん自分の腕輪を起動し、横に付いてるボタンを押してディスプレイ表示を出して下さい」


 言われた通りに操作すると腕輪のガラス面から緑色の光が正方形状に浮かび上がった。そこに色々と項目が並んでいる。


 ───こんな操作方法があったんだな……


 驚いた表情を見られたらまたルル達に呆れられそうなので俺は澄ました顔で平静を装った。


「そこの"訓練施設"をタッチしてみて下さい。皆さんは既にこの施設とリンクしているので色々な項目が出てくると思います。まずは"身体保護"を押してみましょう」


 その項目をタッチすると足元に魔法陣が展開される。その魔法陣から上る光が体を包むと何事も無かったかのように消えていった。


「この魔法は体を守る防護服のようなものです。大抵の魔法や武器の威力を無効化してくれます。ただし、完全では無いと言う事を覚えておいて下さい。

 それでは次に"バリアフィールド"を押して下さい」


 それを押すとまた足元に魔法陣が展開される。だが今度はさっきのよりもだいぶ大きい。その魔法陣から虹色の膜のようなものが現れ、半径2メートル四方で自分を覆っている。


「これは他者を巻き込まないための結界魔法です。この中でなら自由に魔法や武器の訓練をして頂いて構いません。今、結界を展開出来ている人と出来てない人がいるはずです。この魔法陣は他との重複が出来ないため、展開する時は他の人と距離を取って行って下さい。終える時は"解除"をタッチしてもらえれば瞬時に結界が消えます。

 あと他者と訓練をする場合ですが、これは対象相手の学籍番号をお互いに入力してリンクを押すだけで結界の結合が出来ます。ただし、このリンクは二人までしか出来ないので複数人で練習したい場合は代表者が結界を展開する必要があります。その場合は代表者が全員の学籍番号を腕輪に入力して対象人数に見合った結界を張ってください。身体保護とバリアフィールドはここで訓練を行う際に必ずしなければならないルールなので皆さん守って下さいね。それでは二階に移動しましょう」


 連れられて移動した先は、主に武器の訓練が出来る施設だった。ブロック分けされて色々な装置が備え付けられている。


「ここは見ての通り、道具を使う訓練施設です。自分の所持武器を使用してもいいですし、訓練用の模造武器を借りても構いません。ここはエリア毎に結界が張られてるのでバリアフィールドの展開は不要ですが、身体強化は忘れず行って下さい。

 さて、質問が無ければJBバトルの説明に移ります」


 そう担任が口にした時、一人の生徒が手を上げた。───ミゼランだ。


「ミゼラン=スイウォール、質問ですか?」


「いえ、提案です。先生は前回の授業でこのJBバトルについて聞くより見た方が早いと仰いましたね? でしたら実際にそれを行いつつ説明した方が効率がいいと思うんです」


「もちろんそのつもりですよ。行い方を確認しつつ、手順の説明をしていきます」


「いいえ、僕が提案しているのは“実際に行う”と言う事です。説明や練習ではなく、本物のJBバトルを行う事を希望します。僕がJBバトル開戦者、相手にクロス=リーリウムを指名します」


 その宣言を聞いて生徒達がザワつき始める。


 俺は訳が分からず「?」状態だ。


「静粛に」


 担任のエミリアが動じる事なく言葉を発する。


「スイウォール君。JBバトルとは本来一方の意思だけで開戦出来るものではありません。また、本当のJBバトルには敗者が勝者の意見を聞く約定を設けなければなりません。それを知った上で今この場でJBバトルの開戦を提案するのはあまり穏やかじゃありませんね」


 厳しい口調でエミリアがミゼランに説いている。が、ミゼランも引く気はないようだ。


 そんなミゼランに取り巻きの二人が援護射撃を出してくる。


「でも先生、実際に見た方が一番手っ取り早く理解出来ると思うんですけど」


「そうそう。それに防御魔法とかで命の危険は無いんだろ? なら俺たち一年の魔法の力量で戦っても問題ないと思いますよ」


「しかしですね……」


「先生。僕は授業に見合わない約定を出そうなんて思っていません。僕が出す約定はクロス君の“席替え”です。僕が勝てば彼はただ席が替わるだけ、クロス君が勝てば席はそのまま。ただそれだけの事です」


 それを聞いて他の生徒達もこの案を肯定的に捉える声が聞こえてくる。

 どうやら見てみたいと言う気持ちは強いらしく、その程度の約定なら開戦しても問題ないんじゃないかと思っているらしい。


 ───何人かはミゼラン達と同じで俺がセシルの隣ってのが気に食わないみたいだけどな


 チラッと横を見やればセシルが心配そうな顔でこちらを見ている。ゼルと双子の顔も浮かない。


 しかし、俺はもう堂々としていようと決めている。別に席を移る事に異議はないが、周りから常に睨まれるのも面倒だったのだ。ここで文句を言えなくさせるのもいいだろう。


 そう考え、俺はその場に立ち上がる。


「先生、構いませんよ。授業の一環としてやらせてもらいます」


 その宣言を受けてクラス中が湧いた。


 先程は動じなかったエミリアも、今度は目を見開いてビックリしていたのであった───


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る