第10話 賑やかな食卓
入学して初めての休日。今日は上二つの学年全生徒が寮へと戻ってくる日なのだそうだ。
と言っても、昨日で大半の生徒が戻ってきていたようで寮内は大分賑やかな事になっていた。特に食堂はごった返しでエライ事になっていてヒドイ目にあってしまった。
あれを思うと今日はとてもじゃないが行く気が起きず、時間をずらすのも面倒くさく思えて夕飯は部屋で食べる事に決めた。
午前中は寝れるだけグッスリ寝て遅めの昼食をとった後、俺は夕飯の買い出しにそのまま売店へと向かった。売店には自炊用の食材も置いてあるので久し振りに何か作ってみようかと思ったのだ。
中に入るとそこに見知った顔がいる。ゼルとセシルだ。
二人はすぐ俺に気付くと声を掛けてきた。
「よぉ。お前も買い出しか?」
「ああ。今日は部屋で夕食を食べようと思って」
「僕達もだよ。部活や委員会が始まれば時間もバラけるらしいんだけどね。昨日今日は同じ時間帯に集中してしまって、昨日なんか食堂も売店もすごい混み合いだったからね」
「俺らもそれが嫌で買い出しに来たんだがどうせなら何か作って一緒に食うかって話してたんだ。お前も来るか?」
「え……」
思いもよらない誘いを受けて返答に困ってしまう。
「ゼルがザハラの郷土料理を作ってくれるって言うんだ。中々そういうのを食べれる機会はないからね。クロスも興味ないかい?」
「興味はあるが……いいのか?」
「鍋料理だから人数がいた方が旨いんだよ。なら決まりな! 6時くらいに俺の部屋に来てくれ。手ぶらでいいぞ」
「ありがとう。それじゃあ後程、お邪魔するよ」
「ああ、後でな」
そう言って各々自分達の買い物を済ませ、一時解散となった。
◆
「あら、遅かったじゃない」
「……少し待った」
ゼルの部屋へ行くとなぜかそこにルルとナナが座っていた。
「……何で二人が?」
「俺が
そういわれて双子の向かいに腰を下ろし、疑問に思った事をぶつけてみる。
「男子寮に女子が来るのは大丈夫なのか?」
その問いにルルが答えをくれる。
「来るだけなら問題ないわよ。ただし8時までの門限付きなのと、倫理道徳に基づいたルールを守った上でだけどね。もしバレなきゃいいって考えで変な事して見つかった日には退学処分だけじゃ済まない罰が下るわ」
「なる程。ルールの下にある自由ってやつか」
───本当に強制や否定をしない学校なんだな
そんな話をしているとドアを叩く音が聞こえ、セシルが部屋の中へやってきた。
「すいません。僕が最後だったね。待たせちゃったかな?」
「いや、時間通りだぜ。こっちも丁度準備が出来たところだ。それじゃあ始めるか!」
ドンっとテーブルの真ん中にコンロと鍋が置かれ、鉄鍋の蓋が取られると香辛料のいい匂いが香ってくる。中には真っ赤なスープが注がれ、大きく切った野菜と肉が綺麗に敷き詰められている。
匂いだけで涎が出る程旨そうだ。
「これは火鍋。スープは秘伝だから秘密な。辛いのが苦手だったらこの豆乳スープを足しながら食べてくれ」
「わぁ! 美味しそうですね! 僕の国にはあまり辛い料理が無いので楽しみです」
「私は辛いの大好きだわ。ナナは少し苦手だったわね。スープを使わせてもらいなさい」
「……ドキドキ」
「それじゃあ……」
「「「「いただきます」」」」
ぜルの料理に舌鼓を打ちながら夕食会は賑やかに過ぎていく。
「そういや皆どこに所属するか決めたか? セシルは生徒会だろ?」
「そうなるかな。入学前から生徒会長に連絡頂いちゃってるし」
「生徒会長も手が早いわね。私達はまだよ。でも魔導研究が出来る部活に入るつもり」
「そうかぁ。俺は騎士志望だから騎馬部に入るつもりなんだ」
そう言って皆俺に視線が集まる。
「……?」
「おいおい、嘘だろ。何も考えてねーの?」
「呆れた……」
「……くすっ」
「はははっ。やっぱ君はすごいね」
「え。皆もう決まってるもんなのか?」
部活や委員会の説明は来週するって担任が言ってたはずなんだが……
「入学式の後教室で部活動委員会一覧のプリント配られただろ? 見てもないのか?」
───貰った記憶すら無いな……
「あなたねぇ。世間知らずでも何でもいいけど、学院の規則はもう一回しっかり確認しておきなさい」
「……そうする。申し訳ない」
「まぁまぁ。でもクロス、決めてなくてもルル達みたいに目星だけは付けておいた方がいいと思うよ? 一、二年時は加入が必須だからね。これも評価の対象になるんだ」
「実際に活動が始まるのは月末にある合宿後だけどな、申請は合宿に行く前の再来週までだ。その間に自分が興味のある所を見学したり体験して決めなきゃならない。全部を回るのはさすがに無理だからな。興味のある所をある程度絞っておかないと自分がキツくなるぜ」
「分かった……」
「はぁ。仕方ないから簡単に教えといてあげるわ。この学院の部活は大きく三つに分かれてるの。研究・生成・武術よ。こっから枝分かれして様々な部活が専門分野に特化した形で設立されてるってわけ。例えば研究系だと魔導や精霊、生成なら魔導具や錬金術、武術なら剣技や騎馬といった感じかしら。もちろんもっと沢山あるわよ。
だから自分の興味がある分野をこの大枠三つのうちから一つに絞って、あとは細かく分かれてる部を見学して自分に合った所を探すって事を明日から二週間かけて行うの」
「委員会って言うのはどうなんだ?」
「それは全く別よ。部活は誰でも自由に選べるけど委員会は相応の実力か関係者からの推薦が無ければ入れないわ。
学院の規律と秩序を守る要として存在しているのが生徒会と風紀委員なの。だから生徒を導き正す事の出来る者のみが所属出来るってわけ」
「でもそんなのどう判断するんだ?」
「一番分かりやすい例が目の前にいるじゃねーか。品行方正で実力、学力共に十分ってやつが」
「ああ……」
───なる程。セシルみたいな奴がゴロゴロ集まってるってわけか
「僕の場合、今の生徒会長とは昔から知り合いって言うコネみたいなもんでもあるんだけどね」
問答無用って感じだったから、と困り顔だ。
「まぁ何にせよ実力が評価されないと入れないのよ。だからだいたい所属出来るのは入学して半年~一年以上経ってからがほとんどね。セシルはだいぶ異例よ。て事だから、あなたはまず部活を決める事に専念しなさい」
「了解。助かったよ。ありがとう」
「フンっ。別に皆知ってる事を教えただけだし」
「……ルル、照れてる?」
「はぁっ!?違うわよっ」
「照れた顔も可愛~ねぇ♪」
「……殺すわよ」
───……怖い。本気の殺意を感じたぞ
「ははっ。さて、賑やかなところ水を差しちゃうけどそろそろお開きにしようか。もういい時間だ」
時計を見ると8時近くまで来ている。ルルとナナを慌てて帰し、俺達は三人で片付けをして今日はお開きとなった。
余談だが、材料費を渡そうとした俺達にゼルは交代制で食事会を開く事を提案した。その主催者が全部持つって事で話がまとまり、次はセシルの部屋で来月にでも開催しようと言う話になった。
───赤の他人とこうして食を囲むのは初めてだったが楽しいもんだな
次の開催を楽しみに、俺は明日に備えて早めに就寝したのであった───
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