人類の知恵のネタ帳(実は生活を支えていたり、知っていると視野が広がる人類の知恵を紹介するだけ)

リトマス

第1話 ノーベル経済学賞、貧困支援とランダム化比較試験

本日はノーベル経済学賞が発表された日だ(2019年10月14日)

今年のノーベル経済学賞は


”受賞したのは、

いずれもアメリカのマサチューセッツ工科大学の

▽アビジット・バナジ-氏と、

▽エスター・デュフロ氏、

それに、アメリカのハーバード大学の

▽マイケル・クレマー氏の3人です。”


NHK NEWS WEB


ところで、どういう功績があったのかについてざっくり説明しよう。

端的に言うと、

「貧困支援問題に対してランダム化比較試験を導入した」

である


ランダム化比較試験ってなんぞや。という話の細かい所とか、医学疫学分野でどのように発展してきたのかという話はまた後日。




まず、この研究が受賞した経緯とかを話そう。

経緯の話は少し長くなってしまうけど、このタイトルを見てここに来た君には、きっと興味を持ってもらえる内容にするよ。


君が日本語を読んでいることから、君は日本人である可能性が高い。日本は現在世界第三位(アメリカ、中国の次)だ。しかも、寿命も長いと来ている。まぁ、裕福な国といって差し支えないだろう。


教育の面でもそうだ。OECDが3年ごとにPISAという調査をしている。国際学力調査だ。ちなみに言うと、OECDは実は世界の裕福な国ばかりで構成されているんだけど、その中でも日本は上位国の常連だ。


さぁ、そんな日本人からするとなかなか想像できないような生活をしている貧困国の人たちがいる。


先進各国はそうした貧困国に対して、道徳的な価値観に則って支援を行う(何?道徳的とは限らない?それは政治家に言ってくれ!)


さて、どうやって支援すればいい?

というのが今回のノーベル経済学賞の受賞理由に大きく関係してくる。


つまり、どういう支援が効果があるんだって話だね。


まぁこういう時にはまず、

1.目標を決める

2.目標の進捗や成果を目に見えるようにする

3.目標達成のプランを立てる(Plan)

4.実行する(Do)

5.評価する(Check)

6.改善する(Action)


って感じにするのがいいね。

PDCAが見えたかな。まぁ、PDCAは有名で分かりやすいから書いてみた。

PDCAの前に、まず目標を決めよう。


「世界を平和にする!」「世界をよくする!」

みたいな曖昧なものが出てくるかもしれない。


次に、目標の進捗や成果を目に見えるようにする。ここが大切だ。

「世界が平和になるってどういうこと?」

「どの数値が改善したら世界は良くなったって言えるのかな?」


ここで、あまりに多くの指標が出てきてしまったら、一度戻った方がいいかもしれない。



例えば目標を変更して、

「この国の皆が教育を受けられるようにする」

としようか。


では、

「皆が教育を受けている」

かどうかは、どうやったら分かるかな?数字として見える指標は?


分かった人はすごい!

「就学率」

みたいな答えが出れば嬉しい。

既にある程度知っている人は、

「教育を受ける平均年数」

みたいな答えが出せるかもしれないね。


とりあえず、成功(1)失敗(0)っていう分類でもいいから、成功と失敗を判断できるように数値化できる指標を取ろう。


さぁ、

3.目標達成のプランを立てる(Plan)

どうすれば教育を皆受けるようになる?


・貧困国では一般的に子供も労働力として働いているから親が学校に行かせたがらない

・学校に行くとお金がかかるから無理

・制服がない

・教科書がない

・学校がない

・教育の価値も知らないのに時間をかけて教育を受けるわけがない


色々意見が出たね。じゃあ、それらを改善すればいいのかな?


・労働力が必要なくなるように技術を貸し出す

・学校を無料に

・制服を配る

・教科書を配る

・学校を作る

・教育の価値を広める


色々案が出たね。どれをやる?全部?それとも予算的に安いのだけやる?


「さぁ、議論だ」


という事になりそうだけど、議論はしないでおこう。なんというか、議論はいくらでもやりようがあるからね。でも実際に君がその国の役人だったら、限りあるお金をどう使う?


役人ではない?じゃあ、支援する国の人から見て、どれをするべきだと思う?

当然だけど、効果があるやつがいいよね?お金は払ったけど効果は無かったなんてことになったら大変だ!(何?日本の教育を議論する政治的場ではそういう効果とか費用とかって話がまともに出てきていないって?――(検閲により削除済み))




ここで、頼りになるのがランダム化比較試験だ!(やっと繋がったね!)

ランダム化比較試験は元々、疫学の中で発展してきたと言えると思う


仕組みの話は次回以降に持ち越すとして、ランダム化比較試験を使うと、次のようなことが分かる。


・Aという技術の貸し出し。一回費用10円、支援した世帯の子供の就学率、3%上昇

・制服を無料で配る。一回費用100円、支援した世帯の子供の就学率、5%上昇


これは一例だし、数字も適当だけど、費用対効果が分かるね。

10円で3%の効果、100円で5%の効果なら、前者の方が費用対効果が高いってことが分かる。


つまり、お金が十分にない場合は前者の方を優先してやった方がよさそうだ!


4.実行する(Do)

5.評価する(Check)

6.改善する(Action)


についてだけど、

Do(ランダム化比較試験をする)

Check(費用対効果、つまりかけたお金に対してどのくらいの効果があるのかを評価する)

Action(効果の高い施策に絞って行ったり、別の施策を試してみる)


みたいに考えてくれてもいいと思う。


ちなみに、進捗を数字で見れるようにするっていうのは、Checkをするためだったんだってことが分かってもらえただろうか。

数字で見えると、効果がどのくらいあったのかがよく分かるね。


一応だけど、効果がない施策には価値がないっていう話じゃない。優先して行うべきはどの施策かってことを考えるために参考になる1つの貴重な資料を用意するってことがランダム化比較試験によってできる。




貧困支援には昔から色々な意見があった。

「魚をあげれば生活に余裕が出来るから、出来た余裕で生活を改善できるはず!」

「いやいや、釣りの仕方を教えないと意味がないね。生活を改善できるなら、既にやってるはずだし、魚をあげなくなったらもとの生活に逆戻りじゃ困る!魚釣りの方法を教えれば、これから先もずっと生活をよくできるんだ」

「魚釣りの方法を教えるとなると、人を派遣しなきゃいけないからかなり高額だぞ?より安く多くの人に支援できる方がいいから、魚を渡すべきだ!」


(※例えとして出していますが、魚釣りという技術は森にすむ部族でも習得しているものですし、その森での食料の調達方法は部外者より彼らの方がよっぽどよく知っています。やはり、事実を見て判断することが重要だということです)


みたいな、結局そうしたらどういう結果になるのかというデータを取らないまま議論だけを積み重ねることが続いていたりした。


そこに、それぞれの施策の結果どうなったかという実験をしてみて、施策の優先順位をつける、施策を評価する、という方法を持ち込んだというのが今回のノーベル経済学賞の成果なのでした。


ここまで長文をお読みいただきありがとうございました。

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