第十二話
「行くぞお前らぁぁぁぁぁぁっ!!」
先頭の男、蛯原がまずそう叫び、続いて後ろに続く数十人の男たちが一斉に咆哮する。湊たちに襲い掛かっている者たちの正体は、盗賊であった。
「み、湊さん……!」
そのあまりの数に圧倒され、結月が馬車の外にいる湊に震える声で呼びかける。湊はこちらを振り返り、そして笑顔でそれに返答するのだった。
「大丈夫! 見ててくださいよ」
「お嬢様、何かあったら呼んでください」
結月にピースサインを向ける湊の元に、馬車から飛び降りたケイが駆け寄る。二人は目で何か会話すると、向かい来る盗賊たちに向き直り構える。
そして、結月の視界に映る二人が人の雪崩に飲み込まれ戦いは始まった。
「行くぜ
湊の叫びに応えその鉄塊はひとりでに動き、右腕が変化してできた剣を盗賊たちに向けて薙ぎ払うようにして振り抜く。その力は凄まじく、大柄な男を三人ほどまとめて吹き飛ばした。あまりの威力に、湊を囲んでいた盗賊たちが後ずさりする。
「逃げるな! 逃げたら殺されるんだ殺せ!!」
しかし蛯原の声を聞き、体勢を立て直したようだ。すぐに湊を囲みなおし、今度は本体である湊を狙って殴り掛かった。
「逃げたら殺される……? 湊、できる限り生け捕るようにしてくれ」
ケイがそう言いながら、後ろから首を絞めようと迫っていた盗賊の鼻面を裏拳でへし折り、そして横からわき腹を刺そうとナイフを持って襲い掛かる盗賊を軽々と投げ飛ばした。
「分かりました!」
湊は盗賊に頬を思い切り殴られながらも、怯まずにみぞおちを蹴り飛ばし吹き飛ばす。しかし、後ろから来た盗賊に羽交い絞めにされてしまう。
「今だお前ら殺せ!!」
「
背中に背負ったボディバッグから砂の獣が飛び出し、そして正面からナイフを突き刺そうとしていた数人の盗賊を、圧倒的な力でまとめて殴り倒す。あまりの力に一瞬怯んだ隙に、湊は羽交い絞めにしていた盗賊を力任せに投げ飛ばし、呻いているそのはらわたに拳を叩き込み気絶させる。
「ひっ……! ば、バケモンだ……!!」
「怯むんじゃねェ! 死にてェのか!!」
蛯原の叫びは、しかし今度はあまり意味をなさなかったようだ。戦いが始まってからわずか数分で、数十人の盗賊はその数を半分近くまで減らしている。その上、湊と一緒に戦っている大人の男は傷がついているどころか息すら乱していない。
盗賊たちの敗北は、すでに明らかであった。
「諦めろ。もう勝てないことは察しただろう」
「う、うるせェんだよ! 勝てなきゃ死ぬだけだ!!」
降伏を迫るケイに、蛯原がナイフを抜き斬りかかるが、しかしあっさりとその手首を掴まれ、力が入らなくなりナイフを落としてしまうのだった。
それでも諦めずに殴ろうとする蛯原だったが、その拳がケイに当たる前に投げ飛ばされ意識を失う。それが、決定打となった。
「ま、負けました……! どうか命だけは!!」
盗賊たちが一斉に膝を付き、土下座する。完全に戦意を失っているようだった。
「それで、俺たちにお前らを仕向けた奴がいるな? そのことについて全部吐いてもらうぞ」
「し、知らないんです……! カシラと兄貴はすげぇ金が入るって言ってましたが、俺たち下っ端は何も」
恐怖に震えながら、一人の男がそう答える。余裕のないその瞳は、嘘をついていないと確信させるには十分だった。
「昨日の奴の仲間ですかね、師匠」
恐らくな。湊の問いに、ケイはそう返した。そして蛯原を担ぎ上げると、馬車に戻るため歩き出す。
「あ、兄貴を連れてどこへ……?」
「目が覚めるまで待つのは時間がもったいないからな。連れていく」
終わったら返す。嫌ならついて来いとケイは言葉を続け、そして馬車に乗り込む。湊もそれに続き馬車に乗り込むと、結月にずいと近づかれる。先ほど殴られ、軽く擦れて血がにじんでいる頬を治すつもりだろう。
「あ、大丈夫ですよこのくらい。ツバでも付けときゃ明日には治ってます」
「ダメですよ。治せるときに治しておかないと」
結月はそう言って湊の手を取る。軽傷だったからか、一瞬で傷口がふさがった。
心配性だなぁ。湊はそう思いながらも結月に礼を言い、そして壁に背を付け座り込むのだった。
「あ、あの子も能力者か……やっぱ裏があったんだぜこれ」
「可愛い子だな……羨ましい」
ひそひそと思い思いの事を話しながら、盗賊たちが付いてくる。降伏すれば殺されると言われたのだ、リーダーである蛯原と離れるのは不安なのだろう。
ぞろぞろと、大名行列のように馬車は湊たちを乗せ動き出したのだった。
日が傾き始めた頃、蛯原は目を覚ました。針金で両手首を後ろに拘束されており、動くことができない。
「目が覚めたか」
ケイがそれに気づき、声をかける。蛯原はしばらくの間ガチャガチャと音を鳴らし抵抗しようとしたが、やがて無駄を悟ったのかケイを睨みつけるだけとなった。
「吐いてもらうぞ。お前らに依頼したのは誰だ」
「……軍服を着た男だ。名前は聞いてない」
やっぱりか。湊は思わずそう呟いた。盗賊や追いはぎの類ではない、謎の軍服を着た男たち。一人は倒したが、やはりまだ諦めていないようだ。
「……じゃあ、どんな能力を持っていた?」
「煙だ。確か
「ルーカン……!」
湊にとっては聞き覚えのない単語を、ケイは呟いた。ルーカンと。
そういえば、昨日は大きなダメージを受けていて気付かなかったが、ケイはイロンシードのことも知っているようだった。
師匠とあいつらは、何か関係があるのかも知れない。そう考えた湊は、ケイに声をかける。
「師匠、知っているんですか?」
「……あぁ、昔に少しな」
そう答えるケイの顔は、明らかに今までとは違っていた。明らかにその者たちを警戒している。
いったい何者なんだ。湊が生唾を飲み込み、真剣なまなざしであの者たちの正体を聞こうとした、その時だった。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
「な、何だ!? どうしたんだ!!」
馬車の外で、突然誰かの叫び声が聞こえる。湊が慌てて馬車の外を見ると、そこで盗賊のうち一人が左腕を肩口から切断されていた。突然のことに驚いていると、肩を切断された男が苦し気に言う。
「う、上だ……!!」
咄嗟に湊が飛び出し勢いのまま男を蹴り飛ばす。次の瞬間、上空から男の頭があった場所に白い何かが超高速で降り注ぎ、地面を貫いた。その後、白い何かは上空に、まるで風船のように昇りそのまま見えなくなる。
「……言っただろう。降伏すれば殺すと」
森の中から、煙草をくわえた男が一人現れる。小奇麗な軍服に、円と剣のマークが描かれた左肩のマント。間違いない、この男が。
「お前が、ルーカンだな……!!」
「知っているのか。ケイの助手」
男は悠々と、口から煙を吐いた。
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