第六話
「西城湊……ケイの助手か……!」
撃ち抜かれた肩口を抑えながら、男は湊の肩に乗る水のガンマン、
「お前は……ただの追いはぎじゃなさそうだな」
その一方で、湊は目の前に居る男を見てそう言った。小奇麗な軍服に身を包んだ男。所属は分からないが、どう考えても追いはぎやチンピラの類ではない。
その証拠に、男は
今までの相手とは違う。手加減している場合じゃない、隙を見せた瞬間、
「ロックオン」
不意に男がニヤリと笑うと、そう呟いて地面に落ちていた小石を軽く蹴った。次の瞬間、湊の肩に乗っていた
「……!!」
頬に焼けるような痛みを感じ、湊は軽く自分の頬に触れる。すっぱりと切られた皮膚の感触と、どろりとした血の生暖かい感触が手を伝い脳に届く。
湊は、そこで自分が何をされたのかようやく理解した。
蹴られた小石が、音すらも超える圧倒的な速度で
「それが、お前の能力か……!」
「ロックオン」
湊の問いを無視し、男はまたしても地面に落ちた小石を蹴ろうとする。湊は歯を食いしばり、そして地面に手を当て叫んだ。
「
触れている土砂が一点に集まり、巨大な砂像が湊の目の前に現れる。生成された
轟音を通り越し、それは爆音に近いものだった。五メートルはあろうかというほどに巨大化した砂の壁を、なんでもないただの小石が爆散させ貫いたのだ。
幸いにも直撃は免れた湊だったが、こちら側に吹き飛ぶようにして崩れ去る大量の砂を止めることはできない。五メートルほどもあった巨大な砂の獣は、なだれ込む巨大な土砂として湊の頭上から降り注いだのだった。
「湊さん!!」
少女を手当てしようと、二人で木陰に移動していた結月が叫ぶ。しかし、結月の呼びかけに湊が答えることはなかった。
「
今の一撃によって湊の死を確信したのだろう。男は石を拾い上げながら結月たちの方に向き直り、口が裂けそうなほどの邪悪な笑みを浮かべて言った。少女を庇うように立ちふさがる結月を見て気を良くしたのか、男は更に口を開く。
「俺が五秒見つめてロックオンっつった場所には、あらゆる遠距離攻撃が強化される。俺にとってはこんな石ころも、対物ライフルの弾丸と変わらねぇんだよ」
お前ごときが止めれるものじゃねぇよ。男はそう続け、そして結月をじっと見つめ残酷に言い放った。
「ロックオン。さて、助かりたけりゃそこのガキを差し出せ」
結月は後ろを振り向く。そこに、恐怖に震える少女の姿がある。結月は涙を流している少女に優しく微笑みかけ、そして男を睨みつけた。
「差し出しません」
震える声で、しかしはっきりと。結月はそう言い切った。
それが気に入らなかったのか、男の口調が怒りに染まり始める。
「何でだ? お前だけでも助けてやるって言ってんだぞ?」
結月の足元に石を投げる。まるで爆弾でも直撃したかのような衝撃が地面を一部爆散させクレーターを作り、轟音と土煙が辺りを覆いつくした。
しかし、結月の目は恐怖からか少しうるみながらも、目の前に居る男を睨み続けている。そして、決意に満ちた表情で、半ば叫ぶようにして。
「助けたいと思ったからです!」
「よく言いましたね、お嬢様」
突然死角から聞こえてきたその声に、男は目を見開きその方を振り向く。直後、湊の右拳が男の下あごに激突した。食いしばった歯の隙間から血を吹き出しながらも、男は後ろに跳んで距離を取る。
「み、湊さんっ! 大丈夫だったんですか!?」
「流石に死ぬと思いました。だけど、もう大丈夫。見ててください」
結月ににっこりと泥だらけの笑顔を見せ、そして湊は腰にさしている針金に触れ、その名を呼んだ。
「
針金はひとりでに動き出し、そして纏まりあい人の形となる。それは、まるで侍のような風貌をしていた。生成されると同時に、右腕を剣のように変形させ居合切りのようなポーズを取った
「クソッ! ロック……!!」
男が言い切る前に、想像以上の速度で接近した
「お前の弱点を教えてやるよっ!」
湊の声が、
「弱点だァ……!?」
男の目に再び殺意が宿り、
まるで攻撃が効かず、驚いている男の両腕を鉄の塊が掴む。その力は強大であり、振り払うことができなかった。
「これがお前の弱点だ! こんな風に相手に集中さえできなくなれば、もうお前は何もできなくなる!!」
「図に……乗るなァ! ロックオン!!」
男は
しかし、その先で男が見たものは膝を付き、地面に手をつく湊と。そして自分の目の前に現れた、拳を引き絞る砂の獣だった。
「
湊の叫びと共に、その拳が男の鼻面を粉砕し、吹き飛ばす。
男は数メートル後方に勢いよく吹き飛び、そして木に叩きつけられた。それでもなお男は殺意に満ちた目で立ち上がるが、しかし脚が笑っている。
この場にいる者全員が、湊の勝利を察しつつあった。
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