第19話 後継者
その後、野島くんから新たなアクセス先が書き込まれた。海外のサービスらしい。これまでの掲示板は閉鎖せずに残し、オリジナルメンバーの情報交換の場にしておくそうだ。
新たなサイトでは、掲示板、メッセージ、ヘルプページが用意されている。掲示板はフリートーク版が用意されている。掲示板へのスレ追加は自由にできるようで、作戦単位でスレを作るのが良さそうだ。
さて、岡村くん、清水平くん共にこのグループに参加してくれることになった。岡村くんは嬉しそうだったし、清水平くんも隠しカメラとかスパイウェアについて調べてみるって書いていたから、野島くんの後継者として期待できそうだ。
僕は掲示板の名前をニックネームとかにはせず、数字の28にした。特に意味はなく、ストップウォッチアプリを適当な秒数カウントして停止し、その際に表示された秒の下二桁だ。他のメンバーは、一人は同じく数字で572、残りは、新快速、ヒラメ、EAGLE、フィンチ。
フィンチってなんだろうと調べたら、鳥とか人の名前とか色々あるな。それにしてもまとまりがないな。まあ、これはこれでどれが誰かわからなくていいのかもな。
グループトークのアプリに声を変換するプラグインのインストール方法がヘルプページに書かれたのだが、このヘルプページは誰でも編集できて、更新されると通知が表示される。野島くんが書いたことは間違いないけど、ヘルプには書いた人のニックネームは表示されない。掲示板に更新したとも書かれないので、野島くんがどんな名前で参加しているのかはわからない。まあ、特に突き止める必要もないか。
例の3人の女子から返事が届いた。高山の動画の件を知って返事する気になったようだ。どちらも写真削除の件とあわせてお礼が書かれていた。一人はできることがあれば協力するとも書かれているので、まずは座席位置とかの情報提供あたりの簡単なことから協力してもらうことになるかな。
来年に向けて新たな体制の形も見えてきたところで、例の女子の一人からメールが届いた。どうやら彼女は1年J組のようで、クラスの女子を仕切ってるのがいてなんとかしたいとのこと。高山2号みたいなのがJ組にいるってことか。まだ1年なので、調子に乗って女ボスになってしまう前になんとかしておきたいところだな。まずは情報収集ということで、ターゲットに関すること、1年J組に関する情報を集めることにした。高山2号の氏名、教室の座席、化学室、音楽室での座席、ロッカーの位置、バス通学であることと使っているバス停、それとこいつの顔にマークがついた文化祭の集合写真、LINERアカウントが送られてきた。
これは新体制最初のターゲットということになるが、最初から大掛かりなのは難しいかな。この高山2号は継続して攻撃対象って感じで小さな攻撃を繰り返すってのが良いかも知れない。
もうひとりの女子にもこのJ組の女子について知ってることがないか聞いてみたところ、返事が来た。
クラスが違うこともあり名前は知らなかったそうだが、写真を見て誰わかったようだ。高山からカツアゲされた際に一緒に居たとのこと。高山の子分ってことか。こいつに反撃しようと計画しているので、情報収集に協力してほしいことを伝えたところ、2年G組とH組の座席位置を撮影した写真が送られてきた。2年生なのかな。
高山の子分なら、高山のスマホに登録されていたメールアドレスの中にこいつのがあるだろう。高山のスマホからは既にスパイウェアは削除したけど収集した情報は残っているので、ここから探してみようということになった。それと、可能性としては既に仕込めている可能性もあるので、仕込んだスマホで身元不明なやつについてそれぞれ誰なのかの特定を試みることにした。今回は野島くんと清水平くんの二人がパソコンとかに詳しいので、調査が捗るかも知れない。
こいつを見かけた際のカツアゲはいつ頃なのかを確認、そのあたりに高山がやり取りしたメールを調べたところそれらしいものがあった。宛先に指定されているメールアドレスに再度フィッシングメールを送ることにした。これまでファッション系サイトの50%オフセールの偽メールを送っているがかかっていないようだ。差出人メールアドレスを新たな海外フリーメールに変更し、プレゼント系の内容で再度送ることにした。この辺のやり取りは主に二人でなされているので、野島くんと清水平くんなんだろう。恐らくフィンチが野島くんでヒラメが清水平くんだな。
僕は時間割を確認したが、音楽室とかで僕らの直後に同じ教室を使う日はないようだ。午後一で化学教室を使う授業があるようなので、昼休み中に書いておくという手もあるか。一応掲示板に書いておく。すると、572が昼休みに落書きしてみるって書き込みがあった。内容については、体型について書くのが効果的だろうということになった。写真をみると確かに小太りなので、このあたりを指摘する感じか。
結果としては、席につくやいなやいきなり何これって騒ぎ出したそうだ。わかりやすいやつだな。落書きに反応したようなので、教室でも書くことにした。動体検知カメラを廊下に仕掛け、放課後に実行する。カメラは僕が設置。カメラの受け取りは図書室で、昼休みに図書館で待機し連絡があったらカメラが置かれた書棚に向かう。人通りの少ないマイナー本の棚、人目につかない一番上に置かれている。カメラを置いたのは野島くんだが、今回受け取ったカメラは野島くんには返さず、次に誰かが使う際には僕から渡すことになる。カメラはすべて野島くんが提供していることになるけど、特に高いものじゃないから問題ないとのこと。今更だが、もしかしたら彼はお金持ちの家の子なのかもな。
今回は動体カメラを二台と、例の音声変換でイヤホンマイクを使ってみることにした。予定時間の5分前に持ち場についたが、他の配置予定の場所には誰も居ないように見える。時間ギリギリにしか来ないのか視界に入らないようにしているんだろうな。僕はA組の棟とF組の棟をつなぐ廊下を見渡せる位置につく。あと二人はA組前の廊下を見渡すところ、もうひとりはF組棟の2階から降りてくる階段の踊り場に付く。お互い視界に入らない位置だ。配置についたとの声も確かに誰かわからない。男女すら区別がつかないとは思わなかった。これは口癖とか口調に気をつければ身元がばれる可能性が下がりそうだ。僕も今回からマスクを掛けるようにしたし、これがぼくらの新しい形なんだな。
教室の落書きも成功し、二度目でしかも油性マジックで大きく書いたこともあって、ヒステリックに騒いだと思ったら泣き出したそうだ。面倒くさいやつだ。多分、体型はコンプレックスだったのと、標的にされたことなんてないからショックだったんだろう。いい感じだ。この調子でしばらく落書きを続ければよさそうだな。
掲示板には、あからさまな攻撃を続けると、悲劇のヒロインみたいはことをいいかねないから、今後は工夫が必要かもという書き込みがあった。なんとなく沖田さんっぽい。
今のところは攻撃が効いているようで、この結果を聞いて、もうひとりの女子も協力できることがあれば協力するっていうメールが届いた。
この結果を聞いて、もうひとりの女子も協力できることがあれば協力するっていうメールが届いた。
それと、これは多分清水平くんだろうけど、SMSでフィッシングメッセージを送るのはどうか、という提案があった。発信元の偽装もできるそうだ。SMSって、スマホのメッセージ機能だったかな。確か電話番号宛に送れるやつだったか。
それと、電子マネーの番号を入力させる方法と、暗号通貨を匿名で利用すれば最終的に換金できそうなので、カツアゲ連中から金を取り戻すことにもトライしたいという書き込みもあった。これに対しコメントを書いてるのは野島くんだろう。内容は読んでもよくわからないが、金を取り戻せるならぜひ試したいところだ。
こんな感じで新体制での反撃が始まったわけだが、僕の予想では新メンバーも実際の行動に参加しているようだ。清水平くんも野島くんの後継として活躍してくれそうだし、この調子なら来年も大丈夫だろう。
高山の動画公開や露崎さんのクラスでの破壊工作では気分的に落ち込んだが、時間が経つにつれてあまり気にならなくなってきた。攻撃に慣れてきたというのもどうかと思うが、染み付いていたいじめられっ子根性が解消してきているのだろうと考えることにした。
たまたま野島くんのカツアゲ現場に出くわしたことから始まったこの活動、気分的に落ち込んだこともあったが、思い出してみるとまあまあな活躍ができたと思っている。
いじめる連中は、自分達を「攻撃」する「敵」がいるとは夢にも思っていない。自分たちが「敵」を生み出しているなんて考えたことすら無いだろう。そんな、存在が予想すらされていない「敵」が僕らなのだ。僕らの強みはここにある。いじめられっ子も団結すれば強いのだ。
反撃ソーシャルネットワーク 草川斜辺 @shahen
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