第18話 非対称

今は来年に向けて、岡村くん、清水平くん、そして例の2人の女子生徒を誘って新たな活動ができるかどうかを確認している。2人には以前メールを送ってるけど返事がない。高山は例の騒ぎがあったからもう大丈夫だと思う、って内容のメールをもう一度送ってみることにした。僕らが動画を撮って広めたとは念のため言わない。


岡村くん、清水平くんには、僕らは3年生が主だから来年に向けて新たなメンバーになってほしいということを正直に伝えた。彼らは既に協力してくれているから問題ないと思う。とはいえ懸念もある。


『僕らはお互い誰か知ってるけど、仲間にするなら彼らにも知らせることになるのかな』と心配な点を書いてみる。

見張りとか実行でお互いに目に入るしグループトークで話もするし、これはやむを得ないとは思うけど。


『見張りとかで目に入ることもあるかも知れないし、グループトークで声は聞こえるけど、あえて名乗らなくていいんじゃないかな』これは沖田さん。

『こっちは彼らのことを知ってるっていう非対称な関係を良しとしてくれるかな』と野島くん。

そうだよな。信頼されてないって思われるかも。


『私達もお互い誰か知らないことにすればいいんじゃないかな。実際、付き合いはないんだし』沖田さんが書き込む。

まあね。実際、沖田さんとは同じクラスだけど今でも一度も話したことがない。

『私も教室に忍び込む際はマスクしたり髪まとめたりして変装してますし、多分あいつだろうってのはわかるけど、言葉はかわさないって感じの関係ですかね』これは露崎さん

そんな感じがいいのかもな。


『とはいっても、できれば正体は知られたくはないな。放課後の見張りとかで廊下にいると一目瞭然なので、直前まで廊下に行かないとか、相手の視界に入らないようにするかも』野島くん

野島くんも気にしているのか。行動の仕方が変わるかもな。

『お互いを知ろうとしない、って関係がいいのかもね』沖田さん

『グループトークのアプリで、声を変えられないか調べてみるよ。テレビのインタビューなんかで声を変えてるようなやつ』これは野島くん

それができれば匿名性が保てるかも。

『いいですね、それ』露崎さん

『後、念の為、お互いの呼び方を考えておいたほうがいいかも。コードネーム的なものを』沖田さん

グループトークで名前で呼んだことはないし、掲示板も名字の頭文字のアルファベットがあるのみだけど、身元がばれる手がかりは少ないに越したことはないということか。


『何がいいだろう。戦隊モノみたいに色にするとか』野島くん

『番号にするとか。創設者の野島くんは1番とか001で、後は加入した順の連番とか』と書いてみる。

『それだと人数がばれるので、数字にするなら適当な番号にするか、ニックネームのようなものの方が良いかもです』露崎さん


それもそうか。とはいえ、今は5人だから覚えられるけど、増えると誰がどの名前なのかわからなくなりそうだ。

『誰が何番かメモしたのを持っておくのは危険かもね』と書いてみる。

『誰が何番とかどのニックネームなのかは知らなくてよくて、例えば14番が実行で39番が廊下の見張り、とかで十分じゃないかな』沖田さん

お互い誰だか知らないことにするんだから、番号とかだけでことは足りるってことか。なんか間抜けなレスばかり書いてる気分になってきた。

『掲示板に表示される名前は自分で変更できるから、番号でもニックネームでもなんでも好きなのに変えるのはどうかな』野島くん


なるほど。何にしようかな。番号にするのが簡単でいいかな。

『掲示板に誰が書いたか調べる方法はあるの?』沖田さん

『アクセス元IPアドレスがログにあるから、これまでの書き込みと比較すれば僕はどれが誰のかわかるけど』

『念のため、そのログは消して欲しいかな』沖田さん

『これまでのログは消しておくよ。ただ、今後も念のためログは残すつもり。ログの暗号化はできると思うんで、調べて対応する。仮に漏れても問題ないようにね』

スマホのIPが記録として残るのか。これを元に調べられると身元がばれるんだろうな。


『IPアドレスが知られても誰が書いたかバレないようにはできないのかな』沖田さん

『IPアドレスだけなら誰ってのはわからない。使ってる携帯とかプロバイダがどこかわかるだけ。大まかな地域はわかる場合もあるけど』

確か犯罪絡みとかでプロバイダに申請かなんかの手続きすれば開示されるんじゃなかったかな。

『一般人には無理かもしれないけど、IPを元に身元を調べることはできるんだよね』と聞いてみる。

『プロバイダとか携帯の会社ならね。警察とかが調査すれば契約情報を教えるんじゃないかな』

『となると念のためにアクセス元は隠したいな』沖田さん


『匿名のプロキシっていうサーバを介して繋げばそう簡単にはばれなくなる。海外のを使えば特に。スマホでも設定できるはず。アクセスは遅くなるけどね。他には匿名で通信できるアプリもある』

『念のためスマホの設定とか私達に教えておいて』沖田さん

『了解。ここに書いておくよ』

人数が増えると、僕らの存在がばれる可能性も出てくるし、発信元は隠しておくに越したことはない。


『この掲示板って、僕の自宅パソコンで動かしてるんだよね。海外のサーバに変えるか別の仕組みで動くコミュニティとか調べてテストしてるんだけど、彼らが参加するまでには新しいアクセス先を連絡する予定』

そういえばそうだった。掲示板は野島くん自宅PCだったな。これもそのままだとやばい。


『後、今更だけど、彼らを信用できるかどうかちょっと心配かな。私達の存在をばらしたりしないかな』沖田さん

『いじめられっ子は孤立してるから問題なさそうに思うけど』野島くん

岡村くんは信じられると思う。清水平くんも大丈夫じゃないかな。女子2名はどうかわからないな。


『僕もいじめられる側だから言いにくいんだけど、いじめられるやつはなんというか一癖あるというかめんどくさいやつもいるから、逆に自らバラすとか調べようとする可能性もなくはないかも』と書いてみる。

『となると、今後の活動ではお互いの視界に入らないようにするとかの工夫が必要かも』沖田さん

『合言葉的なものもあったほうがいいかもです』露崎さん

参加者が増えてくるとそういった用心も必要になるだろうな。

『いかにも合言葉ってのよりは日常の会話的なものがいいかもね』沖田さん

考えてみるか。

『岡村くん、清水平くんが参加するなら、そのタイミングでニックネームや合言葉を使うようにするという感じかな』野島くん。


このグループの雰囲気も変わってきそうだな。彼らが参加してくれたらだけど。メンバーが増えるとできることも増えそうだ。

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