私の名は。

KEN

私の名は。

 私の元に一枚の文が届けられた。便箋の一番右端には「読めるものなら読んでみろ」と縦に殴り書き。何故この手紙の主は、こうも好戦的で威圧的な件名を付けたのか。何故件名は殴り書きなのに、その後の文はわざわざパソコンで打ち縦組みで印刷した風なのか。


 ――面白い。謎めいたものは大好きだ。

 私は中身を吟味する事にした。


   ◇


 たんぽぽの花が一面咲いている。ふむ、このような景色には

ちっとも記憶がない。

 からだには異常はないが、強いて言えば肌寒い。

 ただの夢なのだろうが、見た情報と身体が受ける情報に乖離

がみられるとは、不出来な夢だ。

 てはじめに自分に何があったかを思い出してみよう。……あ

れっ? おかしい。

 ややあって、本当に何も思い出せない事に気づく。どうしよ

うもなく焦りが募る。

 ての打ちようがない。何も思い出せないのでは、ここで朽ち

てしかばねを晒すしかないではないか。いや失敬。考えすぎだ

ろうか、流石に。

 どうしよう。


   *


 いま一度、風景をよく観察してみる。

 なぜか一面のたんぽぽ畑。他には青空と白雲しかない。

 訳が分からない。

 しかたなく、地面に寝転がって空を仰ぐ。お、これは……!

 申し訳程度の芝。だがこれが存外寝心地いい。やる事もない

ので、ひとまず数時間の昼寝をする。もうこのまま惰眠を貪る

感じでいては駄目だろうか。駄目だな。

 煎餅でも食べたい。そういえばお腹が空いているな。煎餅に

は番茶が合う。煎餅と番茶、こたつもあれば天国だ。

 二度寝の準備をしながら、私は空を再び仰ぐ。


   *


 うす暗くなる気配のない空。いつまでもこの青い空が続くの

だろうか。青と白のコントラストは確かに綺麗だが、それが尚

変だ。変というか、心地良すぎて気色悪い。

 いいあらわしようのない不気味さが、私を侵食し始める。こ

んな感覚は初めてだ。おかしい、何かがおかしい。

 レンズの光が収束するような、何者かの視線。いや、私の気

づかれが気取らせたあり得ぬ幻か。そうだ、見渡す限り、私に

気づかれず私を監視できる場所などない。だが何故なのだ。

 気にせずにはおれない、この悪寒の正体は何だ。

 はれわたる青空の下で不安を掻き立てられる。

 レッドラインという名の平均台の上でバランスをとる自分。

 ここは何処だ、誰か、助けてくれ。


   *


 New.

 End.

 Key.

 はたして、最後に縦書きされた英語に意味はあるのか。

 名もなき手紙の主よ。何故このような物を送ったのだ。手

紙の一番上の段だけ外に折り曲げてあるのも意味不明だ。

 私にはわからない。どうか皆様、知恵を貸してほしい。

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私の名は。 KEN @KEN_pooh

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