奇禍異聞譚

白神 勇人

第1話 呪エリー

前編

カーテンの隙間から入る強い日差し。

心地よい眠気を強引に奪われるようなこの感覚は、20歳を超えた今も慣れることはなかった。

寝室を出て居間へと向かう。

朝のルーティーンを実行する中でつけられたテレビには見慣れた朝の情報番組が映し出されていた。いつもならスキャンダルやスイーツのことばかりの番組だが、今日はなにやら事件性の高いニュースのようだった。 


――――昨日深夜、〇〇県〇〇市の『TILMOR』で何者かによる強盗が発生しました。被害状況から中規模と思われる犯人グループは未だ逃走中であり、〇〇県警は大規模な捜査を続けています。なお、同日『みやび銀行』で発生した同様の……


たかが宝石のために人生を棒に振るとは、はたして同じ人間なのだろうか…。

チン。

「ん…。」

トースターが音を立てたのを聞き意識をテレビから食パンへと移す。


サク、もそ、もそ。 サク、もそ、もそ。


味わいながら胃に詰めてゆく。

いつもの朝を終え、僕は家を出た。


大学につくと一直線に講義室へと向かい、始業時間までの空白をお気に入りの小説で埋めることにした。


(今日は3限までだったかな…)


そうこうしているうちに時は3限の終盤まで来ていた。

まだかまだかと体はそわそわとし始めた。


「―――であるからしてー、これらの事象がつながるわけだ。はいじゃ、今日はここまでにしとこうかね。お疲れさん。」


教授の言葉が吐き終わるや否や僕は今日一番のスピードで目的値へと向かった。

がちゃり。

「お疲れ様です。」

僕がそう声を投げかけた部屋には3人の男女がいた。

「お、来たか。」

明るい声と笑顔のこの男は高校からの友人である 天花寺てんげいじ 博隆ひろたか

「あ!ゆうくん」

つぶらな瞳でこちらを見つめるのは幼馴染の さざなみ めぐる

「きたか鬼崎きざき

新聞から目を離すことなく声をかけてきたのは顧問である 箱田はこた 宗司しゅうじ だった。


「なぁ、悠。見たか?今日の。」

「見たって何さ。UFOでも飛んでたか?」

「違ぇよ!ニュースニュース!の!」

「てぃるもあ?あぁ、あの強盗に遭った宝石店か。」

「そうそう。まさか強盗に遭うとはなぁ。まぁ俺も宝石にゃ疎いけどアレを見たらなぁ、強盗するのもわからんでもない…。お前もそう思うだろ?」

「いやいや、たかがちっぽけな石ころで人生を棒に振りたくはないね。」

「あれ?もしかして悠君のこと知らないの?」

「マーブル…ダイヤ…?」

「おいマジか?」

「あのな…マーブルダイヤてのは…」


博隆はあきれ顔で説明を始めた。

どうやらマーブルダイヤとはTILMOR社が最近手に入れた世にも珍しいダイヤのことで、通常のダイヤに黒色のマーブル模様が入っているらしい。簡単に言えばビー玉のあの感じだそうだ。

そしてそのマーブルダイヤは世界のTILMORのショップで順番に展示されているそうで、ここ日本には3件の支店があり、残念ながら僕の住むエリアにあるショップで今回の事件が起きたそうだった。


「うーん…すごいのはわかったけどさ、どう見てもビー玉の延長線上って感じだしなぁ。」

「ったく、これだからシロートは困るねぇ。わっかんないかなぁこの魅力がさぁ。」


非常に煽り力の高い表情に、思わずムッとする。

すると、二人をなだめるためにめぐるが口を開いた。


「まぁまぁ、落ち着いて、ね?でも私もあんなきれいな宝石もらったら嬉しいだろうなぁ。」

「だろ?やっぱり女子は違うねぇ。」


結局あいつを調子づかせてしまっている。なんだこれは。


「で?結局その強盗事件がどうしたのさ。」

「あぁ?あぁ、そうだったな。実は…」


すると突然割り込むように箱田が話し始めた。


「実はこのダイヤには噂があってな。どうやら今までの所有者全員に何らかの不幸が起きているらしい」

「不幸?」

「あぁ。実はこの宝石、原石自体は日本で見つかっている。当時の新聞にも大々的に取り上げられていた。そこから加工やらオークションやらで世界各地を渡って今に至るというわけだ。でだ、私の情報網によると原石の発見者2名のうち一方が変死、加工屋が失踪、オークションで手に入れたもののうち、わかる中で7名が変死や失踪などなど不可解なことに遭遇している。」

「偶然にするには確かに多すぎますね。」

「きれいなバラにはとげがあるってな。」

「博くん、シーッ。」

「そこで我々も動かざるを得ないわけだ。」

「そういうことでしたか。」

「もちろん参加するよな、鬼崎?」

「あたりまえでしょう?」

「そういうと思ったぜ。」

「よし、では皆また明日ここに集合してくれ。」


胸が高鳴る。一体どんな奇怪な真相が待ち受けているのだろう。

僕は調査に備え部屋を後にした。

ドアにつるされた『怪異同好会「究明」』と彫られた木彫りの板が揺れ、カランと音を立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奇禍異聞譚 白神 勇人 @shirohaya119

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る