少しずつ、私が消えていく

 高校を卒業してすぐ、君に負担をかけたくなくてお別れした。


 それから、病院で過ごす日が増えていった。

 そして気付いたことがある。

 病院の個室の窓から見える景色が、少しずつ変化していくの。

 私が知らないうちに、いろんなものが変わっていると悟った。

 しばらく会わないうちに君も変わってるんだろうね。

 そんなことを思いながら、残りの時間を過ごした。


 そして、自分で死期が近いと感じていたある日、それは唐突に現れた。

 姿はなくて「現れた」という表現が正しいのかはわからないけれど、声が頭に響いた。

 それは言った。「死ぬ前に一つだけ願いを聞く」と。

 信じられないよね?あれは私の妄想だったのかもしれないけど、願いは叶った。

「最後にもう一度君と会いたい。話がしたい。他愛ない世間話でもいいから」

 もう長くないとお医者さんに言われた日、私は永い眠りについた。

 目を覚ますと、もう歩くことさえつらくなっていたのが嘘みたいに体は軽くて、そして…目の前には君がいた。


 たった十数分だったけど、それは私の全てになった。

 私は私であると悟られないように振る舞ったけど、君は気付いたかな。

 この声は君に届かないけれど、最後に君に会えてうれしかった。

 私が死んで、いつかはあなたとの思い出の場所もなくなっていって、そうしたらあなたはきっと私を思い出すことも少なくなって。

 二人の過ごした時間がなかったみたいに、街は変わっていく。


 少しずつ、私が消えていく。

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少しずつ、私が消えていく 朶谷 @idakiwa_nw

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