ひとつ頼みがあるんだが、聞いてくれないか?

ちびまるフォイ

いつだってもともとは単純だった

「それじゃ、隣町のパン屋さんで食パンを買ってきてね」


「うん、わかった」


お金を渡されて家を出る。

隣町といってもすぐそこだ。


余ったお金で好きなものを買っていいので

どんなお菓子を買おうか今から心がうきうきする。


「ちょっと、そこの君」


「はい?」


「悪いんだけど、ちょっとこっちへ来てくれないか?」


「はあ」


「悪いんだが、この先にある草原で薬を取ってきてくれないか」


「いや、僕……隣町までのおつかいがあるんで……」


「隣町なんてすぐじゃないか」


「草原だってすぐでしょう?」


「私は尻に矢を受けてしまってな……動けないんだ。

 そんな若いうちから人の頼みを断るなんて、いい大人になれないぞ」


「あなたよりはマシなおとなになれますよ」

「頼むよ。どうしても薬が必要なんだ」


「わかりましたよ」


しぶしぶルートを変更して草原にいくと、

そこには薬のもととなる薬草がたくさん生えていた。


「よし、これを取ればいいんだな。早くパンを買いにいかなくちゃ」


「ちょっと!? あなた、なにやってるの!?」


草原の向こうから走ってきたのは若い女だった。


「いや、僕はパンを買いに行くために、

 薬を作る必要があるので、

 ちょっと薬のもととなる植物を……」


「ここの草原はね、私が一生懸命育てた場所なの!

 それをなんの断りもなく刈るなんて許せない!」


「知らなかったんです!」


「謝るつもりがあるなら、この先を真っすぐ行った場所にある

 花畑にいるベヒーモスを倒してきてちょうだい。

 あのベヒーモスが出てきてからというもの

 草原が荒らされ続けて本当に困っているの!!」


「それは僕に頼むべき依頼なんですか!?」


「じゃあ、あなたがむしった植物は誰が責任取るの!」


なぜか周りの人たちも「D・V・D」とはやし立てるもので、

しぶしぶながら案内された先に向かった。


「これちゃんとした人が処理したほうがいいよな……」


花畑にいくとすでにベヒーモスが待っていた。


「これを倒せっていうのか……!?」


手にあるのはお母さんから預かっているお小遣い。

これでなにをどうしろというのか。


「君! こんな危険なところでなにしている!?」


「僕は、頼まれた食パンを買うために薬を作る必要があり

 そのためにベヒーモスを倒さなくちゃいけないんです!」


「そんなかっこうで戦うなんて無謀にもほどがあるぞ!?」

「わかってます!」


「いいかよく聞け。命を無駄にするんじゃない。

 ベヒーモスを倒すには炎の耐性があるグッチのバッグが必要なんだ。

 それを手に入れるまではここを通すわけにはいかない」


「ええ……」


「グッチのバックなら、東に進んだ先にある街で売っている。

 いいか、くれぐれもこのままベヒーモスに挑むんじゃないぞ」


「あの、それじゃあなたの装備を貸してくれませんか?

 あなたはしっかり対策をしてここにいるんだから、

 あなたが倒すもしくは僕が倒せばいいんじゃないですか?」


「……」

「あの……」


「うるさい! 屁理屈をいうな!」


隣町から草原を突破し、花畑を抜けた後に東の街へと向かうことに。

東の街は隣町とは全くの逆方向。


しょうがなしに向かっていると、一台のバイクが通りかかる。


「乗んな」


「君は……」


「小学校の時隣だったヤスだ」

「ヤス! ひさしぶり!」


「ファストトラベルしてやんよ」


ヤスの後ろに乗って東の街へ向かう。

これならあっという間だ。


「ヤス。久しぶりだな、今までなにしてたんだよ」


「実は……ちょっと込み入ったことがあってな。

 俺の王国では今新しい王を決めるための内戦が起きているんだ」


「ヤス、嫌な予感がする。それ以上は話さなくていい」


「そして、実は俺の出自が王族だということを

 wikipediaで知ってからというものますます戦火は拡大してな……」


「ヤスもういいからおろしてくれ」


「その戦いにはコカトリスの卵がどうしても必要なんだ。

 だがみなは戦いに出ていて集められなくて困っている」


「……そうか」


「 困 っ て い る 」


「……」


「お前……変わったな。昔はどんなことでも絶対に逃げずに立ち向かったのに」


「俺はベヒーモスを倒さなくちゃいけないんだ……」


「それじゃ俺の国はどうなってもいいってのか!?」

「コカトリスの卵を納品して何が変わるんだよ!」

「英気が養われるだろっ!!」

「自分でいけよ!」


「王族である俺が持ち場を離れるわけにいかないんだ」


「今離れてるじゃん」


「コカトリスの卵は、東の街を南に進んだ洞窟の奥で見つかるはずだ。

 洞窟の中にいるおばさんはたまに毒を吐いてくるから、毒消し草を忘れないことだ」


「僕はまだなにも……」


「コカトリスの卵は、東の街を南に進んだ洞窟の奥で見つかるはずだ。

 洞窟の中にいるおばさんはたまに毒を吐いてくるから、毒消し草を忘れないことだ」


「行かないって!」


「コカトリスの卵は、東の街を南に進んだ洞窟の奥で見つかるはずだ。

 洞窟の中にいるおばさんはたまに毒を吐いてくるから、毒消し草を忘れないことだ」


「壊れたラジカセか!!」


「毒の卵は洞窟の街を東に進んだ南の奥で見つかるはずだ。

 コカトリスの中にいる毒はたまにおばさんを吐いてくるから、おば消し草を忘れないことだ」


強引にヤスを振り切り耳を塞いだ。


「おいあんた。ちょっと探してほしい動物がいるんだ」

「奇妙な噂を聞いたの。あの場所へ行ってみてくれない?」

「私の大切なものがないの。ねえ、あなたが探してきて」


「うるさいうるさい! なんでお前ら自分でやんないんだ! 僕にはやることがあるんだ!」


寄り道をしている暇なんてない。

僕はベヒーモスを倒さなくちゃいけないんだ。


「……あれ?」


なんで?


なんで僕はベヒーモスを倒さなくちゃいけないんだ?


「なにか大事なことを忘れているような……」


ベヒーモスを倒すのは……。


「そうだ! ベヒーモスは花畑を荒らしているから、

 それを倒して花畑を……ってなんでだ?」


どうして僕は花畑を守らなくちゃいけないんだ?


手に残るわずかに青臭い匂いが記憶を呼び覚ました。


「いやちがう……僕は、薬を作るために草原に行ったんだ。

 薬をつくって……作って……作って……どうするんだ?」


怪我もしていないのに薬なんて必要ない。

僕はどうして薬なんか……。


「そうだ、なにもかも思い出したぞ! 薬も頼まれたんだ!

 僕が本当に必要なのは……ただの食パンじゃないか!!」


今度は寄り道せずに隣町まで真っ直ぐ進む。

その道中にもたくさんの人が声をかけてきたがことごとく無視をした。


「いらっしゃいませ。なにをお探しかな?」


「食パンをください!」


「食パン、ね。ああ、すまない。実はイースト菌が切れていてね。

 最近、北の洞窟から瘴気をまとった空気が流れてきて

 イースト菌がちっとも取れないんだ。お客さん、探してきてくれないか?」


「あ゛?」


僕はカウンターに乗ると店主の胸ぐらを掴んだ。


「ここはパン屋さんだろ!? 食パンの一斤もないのか!?

 あるだろ!? なかったら店開けてねぇよなぁ?!

 こっちは今にも本来の目的を忘れそうなんだ! さっさと食パン出せオラァ!!」


「ひえええええ!」


店主は他の惣菜パンを作るためにとっておいた食パンを出した。

本当に長かった。隣町におつかいするだけのはずだったのに。


思えば、最初に本来の目的に専念すればよかった。

あれやこれやとやっていくうちに、あやうく本来の目的を見失いそうになっていた。


「ただいま……」


「ああ、おかえりなさい。食パン買ってきてくれたのね」


「うん。今日はすごく疲れたよ。食パンはこれでしょう?」


「そうよ、本当にありがとう。助かったわ」





「これでここへ来た頃あなたが行きたがっていた川が通れるようになるわ!」

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