嘘つき
それからオレは舞花の知ってること色々教えてあげた。まいか(幼女)はそれを楽しそうに聞いていた。
中でも身長が小さいままってことには異常に興味を示していた。
「まいかはね、はやくおおきくなってママのおてつだいするの!そしたらママもほめてくれるよね?」
「うん!いっぱい褒めてくれるよ!」
「そしたらもうおこらないよね?いたいこともしないよね?」
「…」
さっきまで嬉々として話していたのに、急に強ばった顔をし始めて涙をこぼし始めた。
小さい一粒一粒の涙がオレの想像に及ばないほどの重さであると感じる。
舞花が何も言わないのは、そういう事だったのだ。舞花はオレが両親の話を聞くと、いつも話を濁して答えようとしない。しつこく聞いても絶対に何も言わなかった舞花に、オレはいつも不満を言っていた。
しかし、舞花のその話を聞いた時に何も言えなかった。オレには聞く資格のない事のように思えた。両親になに不自由なく育てられ、両親に対して子どもじみた不満しかないようなオレには。
不安そうなまいか(幼女)を見てオレはハッとして言葉を絞り出した。
「大丈夫、怒られなくなるよ!それに怒られてもおじさんが守ってあげる!」
キリッとした顔で放ったセリフは、我ながら気持ち悪いものだ。しかし、まいか(幼女)は目をキラキラさせていた。
「ほんと?」
その目に浄化されそうになるが耐える。耐え忍んで言葉を紡ぐ。
「本当だよ!」
「おじさんがしあわせにしてくれるの?」
「当たり前だ!おじさんが幸せにしてあげる!」
「やったー」
純粋無垢な笑顔って、こういうのを指すんだろうな。最近はあまりに私欲にまみれた顔しかみていないためか、久しぶりにオレ自身も幸せな気持ちになった。
もう大人の舞花には婚約者がいるが嘘も方便だろう。あまり面識のない婚約者に頑張ってもらいたい。
「きみひこおじさん!」
「なにかな?」
さっきとはまるで違う生き生きとした目で訴えかけるまいか(幼女)に、オレは柔らかい眼差しで返した。
「これあげる!わたしのたからものあげるから、わたしのいちばんほしいものちょうだい!」
「え?一番欲しいもの?」
渡されたのは一輪のシロツメクサ。
「この花言葉は…」
言葉を向けた先には幼女のまいかではなく、オレのよく知る舞花が一定のリズムで寝息をたてていた。
オレは夢にまでみた舞花の小さい頃の姿を見て、舞花の過去を知って、舞花の笑顔を見れた。ほんのわずかな時間で色々なことが起きすぎた。
楽しすぎた一夜限りの夢。夢ならポツポツと忘れられて、最後は全て綺麗に消えてしまうのかもしれない。
だけどオレは絶対に忘れない。絶対がこの世界のどこかにはあるのだと証明したい。
自分に酔い切ったオレは、安心しきった顔で寝ている彼女を見ると、自然と本音が顔を出す。
「1番欲しいもの、違うじゃないか」
一夜の夢物語 弐ノ舞 @KuMagawa3
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