タイセツナモノ

spin

第一話

 駅構内から外に出るとひんやりとした風を感じた。六時でもだいぶ暗くなっている。「すみません」と呼び止める声を聞いたのは、そんな秋の気配に感傷を感じたときだった。振り向くと、電車の前の列に座っていた若い男がいた。ロゴTシャツにジーンズにスニーカーという古典的な学生風のスタイル。長身痩躯で優男風の顔立ち。電車の中にいるとき一度目が合ったが、話しかけてくるとは思わなかった。

「突然話しかけてすみません。電車の中でお見かけして、どうしても知り合いになりたいと思いまして……。これからどちらへ?」

 男は申し訳なさそうだ。その態度は、こうした「ナンパ」では好感が持てた。もしもっと強気に話かけてこられたら、相手にしなかっただろう。史子は家に帰るところだと伝える。

「そうですか。俺も帰宅途中でした。最寄り駅はここじゃないですけど。よかったら、お茶してもらえませんか?」

「ええ、いいですよ」

 スターバックスまでの間、男は自分のことを話した。本屋でのバイトからの帰りであること。C大生で法学を専攻していること。福井が地元であること。八王子に住んでいること。

「自分のことばかり話してますね。俺は池田と言います」

 男はスタバでテーブルに着くと言った。

「史子です」

「史子さんは、何をしてらっしゃるんですか?」

「わたしも学生です。大学では心理学を専攻しています」

「今日は、大学からの帰りですか?」

「……ええ、そうです」

「大学はどうですか? 楽しいですか?」

「そうですね。楽しいというより、おもしろいですね。浪人してまで入ったかいがありました。一浪したんです。地元の予備校に通いました。わたしは秋田の出身なんですけど――」

 お互いに地方出身者であることから、最初に渋谷に来たときの印象や東京という街についての感想などで話が盛り上がり、少し打ち解けられたように感じた。史子は喉元まで出かかっていた質問をした。

「よくナンパするんですか?」

「いえ、しませんよ。そんな度胸ないですし。……史子さんには強く惹かれるものがありまして……」

「たとえば、どんなところに?」

 池田はしばらくコーヒーを見つめて、ニヤニヤしていた。

「目ですね。目は心の窓と言いますから、心ですかね」

「フフッ、うまいこと言うね。それが口説き文句なの?」

 実際その科白はヒットした。

「そういうつもりじゃあ……。本心です。まあ、どこの馬の骨ともわからない人間をすぐに信じるのは無理ですよね」

「……ですね」

「でも、人間には誰か信じられる人、特に異性と親密な関係を持つことが必要です」

「ええ」

「ナンパという出会いであっても、親密な関係は築けると思います。違いますか?」

 池田は挑戦的な笑みを浮かべている。

「ええ、それは……そうですね」

 安心したような笑みに変わった。しばらく沈黙。隣のテーブルでは女子高生が囀っている。

「今、彼氏はいます?」

「いえ」

「そうですか。俺もフリーです。ナンパするくらいだから当たり前ですよね」

 池田はアイスコーヒーのストローを一口吸ってから続けた。

「前に付き合っていた彼女とは一年前に別れました。合コンで知り合った人なんですけど。付き合った期間は三カ月くらいです。原因は性格の不一致と言うんでしょうか。彼女のブランド品へのこだわりとかが俺には理解できなかったんです。『わたしのこと好きじゃないでしょ』って訊かれたとき、俺は否定しなかった」

「……ブランド品に執着している人はわたしも理解できないです」

「そうですか! じゃあ、気が合うかも」

 池田は嬉しそうな声を上げた。

「……わたしも一年前に付き合っていた人に振られました」史子は自分のことを話さないのはフェアじゃないように感じた。「原因はたぶんわたしにあります。わたしはその人にべったりだったんです。それが重かったらしく――」

 史子はクリスマスイブに彼がバイトで、一緒に過ごせなくなったことを咎め、そのことがきっかけで別れに至ったことを話した。史子は朋美にしか元彼のことを話してなかった。まさか初対面の男に話すとは思いも寄らなかった。

「なるほど……」

 池田は何か言いたげに見えたが、他に口にしなかった。

 別れ際、「メールします」と言う池田に「待ってます」と答えたのは本心からだった。池田との会話は荒野のオアシスだった。史子はそこから癒しの水を汲み取れたように感じた。

 家に着くと、いつものように封筒の中から、今日の日当をタンス預金の中にしまう。もすぐ一五〇万に届く。あと半年もすれば目標額に到達するだろう。そうなったら、バイトから足を洗い、大学に復学できる。

 史子は部屋着に着替え、メイクを落とすと、簡単な料理を作り、独りで食べた。その後、録画してあるドラマを見た。史子は今のバイトを始めてから、ドラマと映画だけが娯楽という二一とは思えない生活をしていたが、自分がこの生活に決して満足していないことを今改めて思い知らされた。池田との会話の余韻がまだ残っていて、ドラマに集中できなかったから。



「ハァハァ、もっと脚を広げてみて」

「こう?」

 史子は「小悪魔的な笑み」を浮かべて言う。

「そうそう。いいね。萌え~」

 史子は若い男の一物を扱く手の動きを速める。

「ああ。もうイキそうだよ。ハァハァ」

 ドクドク。精子が溢れ出た。


「お疲れ様」

 控え室で待機中、最近入った店員の井上がウーロン茶を持ってきてくれた。太目の体型とホスト風の髪型でいかにも風俗店員といった雰囲気を醸し出している。

「ありがと」

「最近、いい感じで指名入ってますね」

「うん。でもあんまり忙しいのは勘弁して欲しいな」

 史子は『自由からの逃走』のページから目を離して言う。

「何読んでんすか?」

 史子は本の背を見せた。

「ふ~。勉強熱心ですね~」

「わたし一応大学生だし」

「感心しますよ。俺なんて、大学行く頭もないし」

 しかし、いつものことだが、史子の態度は他の女の子たちの冷たい視線に晒さていた。「マンコおっぴろげといて、何、お高くとまってんの?」という声が聞こえてきそうだ。

「おはよう」

 しばらくして、朋美が出勤してきた。朋美は史子が「ピンクパンサー」で知り合った唯一の友達だった。史子の二歳上で二三。史子よりも半年くらい長くこの店で働いている。将来、自分のお店を持ちたくてそのための資金稼ぎのためにここで働いているという。朋美は「ピンクパンサー」の一番人気だ。愛想がよくて、気さくな性格に加えて、容姿、身体ともに男受けするものを持っていた。話すようになったきっかけは、朋美が史子のフロイトの本に興味を示したことだった。その後、お互いに邦楽のロックバンドTHE BACK HORNが好きなことがわかり、一度一緒に渋谷のライブハウスにTHE BACK HORNのライブを見に行ったことがあった。

「史子、今日は何時上がり?」

「八時」

「それじゃあ、ご飯いっしょに食べよ」


 朋美の休憩時間になると店から程近い、チェーン店の和食の店に行った。

「わたし、お店辞めることにした」

 朋美は唐突に言った。席に付いて、料理を待っているときだった。

「えっ、そうなの」

 史子には晴天の霹靂だった。

「うん、実はこの前、昔バイトしてた店に最近フラリと行ってみたんだ。で、そこのママにわたしが男相手の仕事をしてることや将来店を持ちたいことを話したら、ママからその店で働かないかって言われて。そこはおじさん相手の店だけど、ママは引退を考えていて、将来的にわたしに店を譲りたいって。もうかなり貯金も溜まったし、自分の店になったら、内装とかも変えて、若者向けの店にしようと思ってる」

「そっか~。よかったね~。朋美がいなくなると寂しくなるけど……。おめでとう」

 史子は笑顔をつくった。

「そんな遠くに行くわけじゃないし、いつでも会えるよ。是非お店に遊びに来てよ」

 朋美は史子に店のカードを渡した。代々木にある「XYZ」という店だった。

「やっと目標に向けてスタートが切れた感じ」

「羨ましいよ」

「史子はどうなの? 今年の夏は何かなかったの?」

「わたしは……」

 史子は池田のことを話した。


 確かに朋美の言うとおりナンパ=SEX目的が一般的だということはわかっている。しかし、池田は例外だ。目を褒めてくれた人なんて今までいなかったし。そんなことを考えていると、池田からメールが来た。

「史子さん、こんばんは。最近、少し涼しくなりましたね。今週末にでも食事しませんか?」

 史子は電車の中だということを忘れて、歓喜のあまり思わず声を上げそうになった。すぐに「喜んで」と返信したかったが、少しは迷うそぶりを見せたくて、そうしなかった。


 家に帰って、池田に返事を送ると、すぐに池田から時間と場所を指定するメールが届いた。史子は嬉々としてOKの返事を送ったが、その直後不安が頭を擡げてきた。風俗のバイトをしていることを隠し通せるだろうか? いや、無理だ。少なくともあと半年は続けなくてはならないのに。こういうとき、自分の境遇を呪いたくなる。

 史子はベッドに横たわると、物思いに耽った。

 史子が風俗嬢に身を落とした原因は父親のリストラだった。しかし、風俗で働くことが唯一の選択肢というわけではなかった。つまり、母親の勧めに従って、地元に帰ることもできた。史子がその選択をせず、敢えて茨の道を進んだことの背景には、その直前に当時付き合っていた男と別れたことがあった。

 別れを切り出された日は一晩中泣いた。その後、拒食症にまでなり、大学にも行けない状態になった。その屈辱がどうしても東京に残りたいという気持ちを生んだのだった。この街が似合うような自立した女になりたかった。

 とりあえず、大学には休学届けを出した。大学に復帰するためには、学費を作らなくてはならない。何のスキルもない若い女――ただし、女としての一定の容姿と身体はある――が限られた期間にまとまったお金を稼ぐには風俗以外の選択肢はなかった。いろいろと探して見つけたのが、ファッションヘルスと呼ばれる形態の店・ピンクパンサーだった。もちろん強い抵抗があった。最初は、その行為の異常さに気が遠くなりそうだった。

 しかし、慣れは恐ろしいもので、半年以上続けた今となっては、知らない男との一連の行為にさほど苦痛を感じなくなった。また一方で男という人種に対して滑稽さや哀れみなどの感情を強く感じるようになった。それは男が性欲の奴隷であることがわかったからだ。

 この仕事の問題は、実際のところ、心身両面の健康へのリスクもあるが、それと同程度に社会的差別にもあった。風俗店で働いていることは決して公にはできないことであり、必ず嘘で固めなくてはならない。アリバイ会社を利用している大半は風俗嬢だ。大学の友達にも自分のことを話せない。そのために疎遠になっていくのは避けられない。ピンクパンサーで知り合った朋美とはたまに話すとはいえ、他に話し相手がいない。史子にはそれが辛かった。もし可能であれば、自分を全面的に認め、受け入れてくれる彼氏という存在が欲しかった。

 池田に本当のことを言うしかない。彼ならきっと理解してくれる。どんな不安があれ、池田と会うことはもう決まった。それならば――。史子はベッドから起き上がり、クローゼットを開けた。



 池田との食事の日、史子は電車に乗り遅れ、十分近く待ち合わせ場所に遅れてしまった。雨は降っていない。少し涼しい秋の夜は、夏の夜に比べてセンチメンタルな感じがした。

 池田はタイトなジーンズに革靴、臙脂のシャツという先日とは打って変わって、大人っぽい服装をしていた。史子は自分の幾何学模様のワンピースにブーツという格好と合っていることに気を良くした。

「やあ、どうも。久しぶり。また会えて嬉しいです」

 池田は小さく笑った。史子も応えて笑顔をつくった。

 池田が連れて行ってくれた店はマークシティにあるダイニングカフェだった。池田は食事中、夏休み中に大阪に旅行に行ったことを話した。

「史子さんは、どこか行きました?」

 池田は大阪旅行の話を終えると、史子に訊いた。史子は一瞬、戸惑った。

「……いえ、どこにも。あまり旅行とか好きじゃなくて」

 咄嗟に思いついた言い訳だった。

「じゃあ、夏フェスとかも行かなかったんですか?」

「そうですね」

「随分とストイックですね」

「バイトで忙しかったから」

「バイト、何してるんでしたっけ?」

「マックです。裏方ですけど」

「女子でも裏方できるんだ。珍しくないですか?」

「わたしは接客よりも作ったりする方が好きなんで。店長にお願いして裏方にしてもらいました」

「マックってバイト同士で旅行に行ったりするんでしょ?」

「そうなんですか? わたしの働いている店ではそんなのないです」

「そっか。それは残念ですね。……ところで、今、シネマライズでやっている映画あるじゃないですか――」

 史子は握り締めていた拳を緩めた。


 食事が終わると池田のお勧めのバーに行くことになった。時間はまだ九時前。道玄坂を上り、ホテル街に入っていく。ホテルの前で逡巡しているカップルたち。史子は不安になった。これはもしや、最後まで行く気だろうか?

 着いたのは、ガラス張りで開放感のあるバーだった。白い壁には昔のフランス映画が映し出されていた。

「オシャレなお店、知ってるんですね。しかも、こんな場所に」

「ここはネットで見つけた店だよ。実は来るの初めて」

「本当かなあ~」

 店には、史子たち以外に客はいなかった。二人は奥のテーブル席に着いた。スタッフは、カウンターにいる若い男と注文を取りに来た女の子だけ。

 注文したカクテルはこの店のオリジナルで初めて味わう極上の味だった。史子は完全にムードに酔っていた。酒にも酔っていたが。このままホテルに誘われても、断る理由などないのではないだろうか? 軽い女と思われるだろうか? 実は、そうなることも想定して勝負下着を着けている。しかし、まだ本当のことを話してない……。

 池田は司法試験の話をしている。

「日本では司法試験はオールマイティなんだ。司法試験に受かれば、税理士にも司法書士にもなれる。まあ、それだけ難しい試験なんだけど。でも、俺もチャレンジしてみることにしたよ」

「へぇ~、ビッグな夢だね。頑張ってよ。知り合いに弁護士がいたら、心強いよ」

「知り合いでいいの?」

「えっ……」

 池田の目が光る。史子は鼓動が速まるのを感じる。

 池田が何か言う前に、池田の視線が店の入り口に向いた。振り向くと、劇薬のような女の子の二人組みがいた。一人は見てるほうが恥ずかしくなるくらい思いっきり短い黒のスカートにフリルの付いたシャツ。もう一人は赤いホットパンツにTシャツとベスト。二人ともいわゆるギャル系の髪型で金髪のなりそこないみたいな髪色だった。

 二人は店の入り口近くの席に着いた。池田が顔を近づけて、声を潜めて言う。

「ああいうの大学にいない? T短大なんて商売女の巣窟だって話、聞いたことあるよ。うちの大学の近所なんだけど、間違えてその短大行きのバスに乗り合わせた奴が驚いてたよ。あいつら何しに大学行ってるんだってね。親が見たら泣くよな」

「……でも、皆、好きでそういう仕事してるわけじゃないと思うよ。大半は借金とかどうしようもなくてそういう仕事してるんじゃないかな」

「そうかな? 大学に行くカネがあるくらいだから、カネに困っているわけじゃないと思うけどな。むしろ、安易な気持ちで男相手の仕事してる娘が多いと思うよ。自分の身体がカネを生むって知ったら、使いたくなるんじゃないの?」

「……そういう娘のことどう思う?」

「頭が悪いと思うよ。安易な道に流れることで、何を失っているか気付いてないんだ」

「何を失っているの?」

「それは……大切なものだよ。わかるだろ?」

「……ちょっとトイレ行ってくる」

「タイセツナモノ」というフレーズが史子の胸に突き刺さっていた。史子は便座に座ると、身体を丸め、頭を抱えた。



 その後、史子は池田からのメールにレスしなかった。しかし、しばらくしつこくレスを催促するメールが来たので、「あなたとは価値観が合わない。もうこれ以上メールしないでください」と書いて送った。その後、ピタリとメールは止んだ。

 池田のことはショックだったが、史子は風俗の仕事を続けた。朋美には顛末を話した。朋美はそういう運命だったのよ、と言って慰めてくれた。史子は今を受難の時期と捉えて、もうしばらく恋愛なしで頑張ることにした。

 史子が池田と再会したのは、世間がクリスマスを直前に向かえ浮かれているときだった。史子は勤務中だった。

「あれっ、なんか似てるなと思ったら……。もしかして……史子さん?」

「……ひ、人違いです」

 そう言ったものの、自分が池田に気付いていることは明らかにばれていた。思いっきり驚いた顔をしてしまったから。

「いやいや、しらばっくれなくったていいじゃないですか。こんなところで遇うなんて、奇遇ですね~。やっぱり俺たちって運命の赤い糸で結ばれてるんじゃない? 元気そうで何よりです」

「お客様、時間が限られておりますので、プレイの方に移らせていただきます」

「プレイはもちろんするけどさ。やっぱりいい身体してるね」

 池田はそう言うと史子の胸を揉みしだいた。

 史子は客の一人でしかないと言い聞かせがら、プレイに励んだが、無駄だった。一瞬でも好きになった男を相手にプレイをするのは拷問だった。それは羞恥心と尊厳を引き裂いた。

「まあ、知られたくないことを知られて、テンパってるのはわかるけどさ。まさか風俗嬢だったとはね。なるほどね。あなたが俺から離れて行った理由がわかった気がするよ。そんな目で見るなよ。もうお互いの性器を舐め合った仲だ。仲良くしようよ――」

 プレイが終わり、服を着た池田は帰り際に言った。

「もう時間ですので」

 史子は早く去って欲しかった。

「わかった。じゃあまた」


「わたし生理になったみたい。ごめん。今日はもう早退させてもらうわ」

 史子は念入りにうがいをして、私服に着替えると井上に言った。

「そんな。急に言われても困ります」

 史子は井上を無視して、階段を駆け下りた。今日ほどこの仕事に嫌悪を感じたことはなかった。この怒りをどこにぶつけたらいい。

 史子は朋美の店に行くことにした。



「男って身勝手よね。風俗嬢がいなかったら困るくせに、風俗で働いてる女を差別する」

 カウンター越しに朋美が言う。史子はことの顛末を話し終えたところだった。

「男が女に求めているものが分裂しているのよ。一方で淑女を求め、一方で娼婦を求める」

「客の中にもわたしがヘルスで働いていた前歴を嗅ぎ付けた奴がいて、執拗に身体を求めてくるのよ」

「そんな奴は出入り禁止にすればいいのよ。ねぇ、……わたし、いや、わたしたちは『大切なもの』を失ったのかな?」

「はぁ? 何それ? それもその男に言われたの? そもそも『大切なもの』って何よ?」

「つまり、清純さ?」

「清純さ! わたしの嫌いな言葉だ。そんなもの失ったっていいじゃない。そもそも清純な女なんていないよ」

「だけど、男が恋人にしたい女は淑女タイプなのよね」

「わたしは史子のこと淑女タイプだと思うけどな。まあ、何にしても悩むことなんてないよ。『清純さ』なんて所詮男の幻想でしかないし。わたしたちは胸を張って生きていけばいいのよ。おかわりは?」

「じゃあ、ジンライム」


 その夜、史子は終電がなくなるまで、店で飲んでしまい、朋美のマンションに泊めてもらうことにした。

「いつでも遊びに来ていいよ。自分の家のように」

 翌朝、史子がマンションを出るとき朋美はそう言って、笑顔を見せた。(了)

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