ヴィリングアッドレノアード

エリー.ファー

ヴィリングアッドレノアード

 貴方のことが大好きで。

 本当に、本当に大好きで。

 でも、伝わらないでしょうね。

 もう、亡くなってしまったし。


 最初に会った時のことを覚えていますか、あなたは、いじめられている私のことを見つけて守ってくれましたね。

 女の子をいじめちゃいけないんだぞって、そう怒ってくれましたね。

 私は。

 私は。

 本当に嬉しかったんですよ。

 もしも。

 もしも、ですよ。

 貴方に守ってもらえるなら。

 また、いじめられてもいいかもしれないと本気で思えたんですよ。


 それから少しばかり成長して、気が付くと、私はある程度綺麗になりました。

 お母さんが元モデルだったからしょうがないと思うんですけど、それが良かったんでしょう。

 感謝してもしきれません。

 貴方は私から少しばかり距離を取るようになりましたね。

 貴方は勉強のできる方で、私も、まぁ、そこそこできるほどではあったけれど、貴方程ではなくて。

 それに。

 その時からつるむ人たちが少しずつ変わっていきましたね。

 あれは、本当に不思議でした。

 スタートこそ同じだったのに、そこからこんなにも違う場所を目指して進んでいくものだとは考えもつきませんでした。

 貴方もそうだったと思います。

 いつからか、名前で呼ばなくなって、苗字になって。

 あれは。

 あれは寂しかったなぁ。

 本当に。

 寂しかった。

 よく小説とかで言うでしょう。

 心に穴が空いたみたいだって。

 あれは、違いますね。

 心に穴が空いたような寂しさなんてないんですよ。

 心がまるごとなくなったような寂しさ。

 あれは。

 もう。

 感じたくないなぁ。

 私は。


 それから、貴方と私は別々の高校に進学し、別々の大学に進学しましたね。

 私と貴方は本当に地元でたまに顔を合わせるくらいになって、気が付いたらもうまともに喋ることもできなくなっていましたね。

 あれほど、仲良く喋っていた相手と。

 気がつけば。

 もう。

 何を喋ればいいのか分からなくなっていて。

 あれは。

 本当に寂しかったなぁ。

 あの時よりも寂しかった。

 もう。

 いや。

 あの時は、まだ貴方も寂しいと感じてくれてるだろうなぁって、思えたから。

 でも。

 もうその時になると。

 貴方が寂しいと感じてくれてるかが分からなくて。

 勝手に貴方を遠ざけて、勝手貴方との距離感を測ってみせて、勝手に貴方の態度や感情を定義して。

 勝手に。

 私と貴方の関係性を作って自分を守ろうとしたから。

 だから。

 全然、望んでいないことが起きてもそれに異を唱えてはいけないと思ってしまって。

 おかしな話。

 本当に、そう思う。

 だって、おかしいと思ったら、ちょっとでも思ったら、言葉にすればいいのに、そうはならなかったし、なれなかった。

 別にこのままでもいいかもしれないっていう、訳の分からない言葉を吐くことしかできなかった。

 貴方が亡くなって。

 海難事故で亡くなって、二年経ったけど。

 私は。

 私は。

 貴方の趣味にサーフィンが加わっていたことすら知らなかったし、私の家のすぐ近くにあるコンビニでアルバイトしていたことも知らなかったし、もっと。

 もっと。

 もっと言うなら。

 トマト。

 トマトをさ。

 トマトをさぁ。

 トマトをさぁ。

 あんたが食べられるようになってたなんて知らなかったよ。

 なんなのよ。

 ずるいよ。

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