第5話 神力と生命の誕生

朝。


「うーん.....よく寝たなぁ.....」

さて、異世界に転生して早くも30年。ようやく最初の魔法を生み出すことに成功したのでまずはこの世界をぐるーっと見てみよう。何だかんだで長い事同じ場所でひたすら同じことを繰り返してたからな。


「飛翔!」


まずは周囲を見てみよう。

見渡す限り......

あっちは....土。

こっちも.....土。

やっぱ土しかないな。雑草すら生えてない。

じゃあここは大陸の内側か?さすがに生命が住める星で海が無いってことはないだろう。しばらく移動し続ければそのうち海が見えて......


「来た。早いな!」

飛び続ける事15分。水平線が見えてきた。このまま行けばあれが海かどうかわかるな。

そしてさらに飛び続け....



「やっぱり....これは海だ!!」

はっきりと見えた。目の前に広がるのは美しい大海原。久しぶりに見た光景に思わず息を飲む。 海ってこんなに綺麗だったっけ....?


「さて、ここには生物が生きるための大地も海もある。じゃあ次にやるべきは....この世界に生命を与える事だな。」

と、簡単に言ってみたはいいがそれがどういう事なのか正直さっぱりわからない。

生命の起源だってそもそも正確には解明されてないんだぞ!?もともと人間の祖先だって猿人だしもっと遡れば微生物だし......ってそんな事考えたってこの世界じゃどうかはわからないな。ギリシャの方だって昔はゼウスとかその辺の神様が本当にいて人を統べてたみたいな感じだったしな! となるといよいよ本格的に神力の使い方を覚える必要があるぞ.... この謎の湧き上がるエネルギーがもし本当に神としての力を発揮する事の出来る代物だとすればこの星を繁栄させるのに必要な力だって持ってるはずだ。 とりあえずどうやって使うのか考えてみよう。魔力の方はなんとか使い方がわかったし(一つしか魔法と呼べるものは使えないが)。


全身に力を込めて.....


「はぁぁぁぁーっ!!生命の息吹よ!!」

とりあえず適当に詠唱してみた。

すると......





...............。




優しい光が辺りを包み.....


気が付くと辺り一面は美しい緑に囲まれていた。


「なんだこれは....魔法を使うよりも圧倒的に楽....だと.....!?」


しかもイメージした通り草や花、そして木々が一瞬で....!

植物も生きてるからな。つまりはこの体には生命を生み出すだけのパワーが秘められているという事か。 俺のイメージ通りに生命が芽吹いたってことはこれイメージした物を何でも生み出せるんじゃないか...!?

よし、とりあえずリンゴの成った樹を作ってみよう。


「生命の息吹よ!」

出来た。この世界に来て初めての食べ物だ!こんなちっぽけな果物一つでもありがたく見える。それじゃ早速....


「いただきまーす!!」


ガブッ


「ブッヘッ!!まっず!マズい!何だこれ!ゲッホ味がしねぇ!!」


この世界に初めて生まれた食べ物、それはとてつもなくマズかった。

外見だけをイメージして生み出したリンゴって考え方が一番しっくりくるなこれ。まずすぎる。水はあるけど甘さが絶望的に無い。これじゃあだめだ。

よし、今度は味のイメージを付けて作ってみよう。


「生命の息吹よ!」

出来た、今度はどうだ?


ガブッ


「お、おいしい!これはいけるぞ!」

きちんと味まで思い出しながら作ってみたらまぁおいしい事。これなら現世にあった食べ物何でも作れるんじゃないのか?

じゃあ今度はステーキでも出してみるか!


「生命の息吹よ!」


ボン。

現れたのは牛(であろう)の生肉。だけ。


「.......え?」


この力はどうやら何でもできるわけではないらしい。調理済みとかそういう複雑だったり高度な物に関しては生み出すのは不可能のようだ。まぁよくよく考えたら世界に命を与えようって力だから当たり前か。逆にそれでステーキ食べようって発想がなかなかおかしかったな。


にしても....この肉どうするよ。

焼き方がわからない。まず炎の出し方がわからない。それでもって現世の便利なガスコンロとかその辺は作れない。つまりは食えない。 勿体ないな!


「まぁ力を使い始めたばかりだしこんな物か....」


気を取り直して本題に戻ろう。リンゴは作れた。牛(肉が出てきたが)も作れた。という事は動物を作り出してみるってのはどうだろうか。これなら一番俺に近い生命が増えてその内人間に進化して....って待てよ?この力っていちいち植物の進化を待たなくてもリンゴが出せたって事は....類人猿とかから始めなくてもいきなり人間を生み出すことが出来るんじゃないのか....?

よし、やってみよう。


「生命の息吹よ!!」



......うっ!



その瞬間、激しい激痛が全身を襲って倒れた。


次に目を覚ましたのは翌朝の事だ。

一体何が起きた...? 人間という生命を作ろうとした瞬間に全身が硬直して雷に打たれたような痛みが走った。 これは....もしかしてMPが足りないみたいな感じか?俺の神力ではまだ人という生命を生み出すには至れないって事だな。 今考えられる理由はこれしかない。植物に関しては一気に見渡す限りを埋め尽くすことが出来た訳だ。となると現世の記憶を頼りに小動物からコツコツ作ってく必要があるのか....ま、そう簡単に楽はさせてはくれないよな。


それからはまずこの星の地上を覆うように長い時間をかけて植物を生み出した。その後に1年ひたすら記憶を頼りに動物や虫など様々な生物を生み出した。最初はアリやカブトムシといった小さな生き物しか生み出す力がなかったが繰り返すうちにインコ、ヘビ、ウサギ、犬、猫といった風に少しずつ大きな動物を生み出せるようになった。 

.......そして2年が経った時に気が付いた。


「ちょっと待て。生命って最初は神が与えたとしてもそこから増えるのは各々の力によって子孫を残すんだよな....?このまま俺が延々と生命を増やし続けても意味なくないか??」


いや、正確には意味なくはないな。人間が生まれるまでは続けよう。ただ人間が生まれてから進化するまでには手を加えてはいけないな。生まれた生命はこの星に適応できるように進化していくのだから。


そうしてさらに5年。色々な生命を作り続けた....

シカ、サバ、コウモリ、バッタ、イルカ.......


よし、もう十分だ。

この星に命が芽吹いてから大体10年経ったかな? そろそろ人間を生み出すことが出来るようになるだろう。



深く深呼吸をして.....


「――生命の息吹よ!!」




まぶしい光が包む。

そして体に異常は....ない。


「成功したのか....?」


光が消えていき目の前に立っていたのは.......



紛うことなき人間の、小さな女の子だった。


「よしよし、成功した!!よく生まれてきてくれた!どこか体に異常はないかな?」



「――、――」



「あ.......」

そうか、この世界には「言葉」が無いのか。まず言葉を教えるところからスタートして.....


グゥゥゥゥゥ......


「....お腹が空いたのかな?」


「――.....」






まずは空腹を満たしてあげるところからだな!

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異世界転生神話 メル @Mell_

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