ガールズラブ

四月林檎

愛の交換 (幼馴染血液の百合の短編)



 私は、危機に陥っている。これだけは確かな事実だ。事の始まりは数日前、幼馴染の朱里あかりとSNSを見ている時にあるワードが目に入った。そのワードは、『血液クレンジング』。健康になるための民間療法かと一瞬思ったが、記事に添付されている画像を見て、一瞬でおかしいと思った。だから私はこんなものは信じないし生涯することはないだろう。とどこかで血液クレンジングを楽観視していたのかもしれない。


 その結果が、これである。私は今、朱里から全力で逃げている。

あおい!早く私と血液クレンジング、しよ?」

これが朱里だ。そんなカードゲームを布教する女子高生みたいな言葉とともに手錠を持ってくるのはやめてほしい。

「朱里!血液クレンジングじゃなくてさ、献血!一緒に献血行こうよ!」

朱里は、小さい頃から私とお揃いのものを欲しがる。同じことをしたがる。だから、一時の気の迷いでこんなことを口走っているだけで本来は優しく可愛い子だ。きっと次の一言は、「そうだね!献血、いこ!」で間違いはないはずだ。

「私は碧と血液クレンジングがしたいの!なんで逃げるの?私のこと嫌いになっちゃった?」

一言でいうなら、理解不能。これが最も端的に私の心境を表せる四字熟語だなとどこか他人事みたいに思う。そもそも血液クレンジングは人と一緒にするものではないと記憶しているし、何よりも、何よりも高い。本当に高い。女子高生ではかなり厳ししく、超人気女優とか世界的なスターでもなければ気軽に治療に行こうとは思えない価格をしている。もちろん、私の主観ではあるけれど。

「ねえ、碧!」

朱里のラブコールが耳に入る。献血に行こうという私からのラブコールは聞こえていないのだろうか。朱里の耳は私の声を一番優先して聞くはずなのに、もしかして体のどこかがおかしいのかもしれない。

「朱里!とりあえず献血に行って血液検査しよ!血液クレンジングするのに向かない血液型とかあるかもしれないし!」

「……そっか。そこまで考えが回っていなかった」




 

 献血ルームについた私は、思い出したかのように唐突に注射の針が怖くなる。

「大丈夫、注射怖くないよ」

そう言って朱里は私の手を可愛らしく握る。やっぱり朱里は優しい子だ。朱里が二足歩行するより前から見てきた私の目に間違いはなかったことに安心する。

「朱里、私頑張るよ」

朱里の頭に手を置いて気合いを入れると、私は覚悟を決めた。



 

 「検査の結果、お二人は本当に珍しい血液型でした。しかも、二人とも同じ血液型です。お二人のどちらかに何かあった時用に献血していきませんか?」

「お揃いだったね、碧」

嬉しそうに可愛らしい笑顔を私に向ける朱里。可愛い。

「……可愛い」

「け、献血はどうしますか?」

「やります」

その日、私たちは人生で初めての献血をした。





 「私は止めていた立場だけど、血液クレンジングはいいの?私は止めるけど」

「血液クレンジングしなくても、私の血が碧の命を助けるかもしれない。碧の血が私を助けるかもしれない。それならそのために血を使いたい。だから、これからは定期的に献血に来ようね」

朱里の血が私の中に入ることを想像したら少し心臓が強く鳴った気がした。


 


 

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