第46話 3人で一緒に
マーロ港。
エリーゼとアリスは船着場で人を待っていた。
「——姉さん! 船の扉が開きましたよ!」
「アリス〜、ドキドキが止まらない! どうしよう……照れて話できないかも〜」
アリスは眉根を寄せた。
「今さら、何を言ってるんですか? 今日から一緒に住むというのに……」
「アリスも恋をすればわかるって〜」
「恋というか……。もう姉さんたちは夫婦ですよ? ほら、もう乗客の皆さんが降りてきていますよ! 覚悟を決めましょう!」
アリスはエリーゼの背中を思いっきり叩く。
「痛い……」
「——エリーゼさ〜ん!」
——あの声は……!?
「え!? サラさん!?」
乗客の人混みの中で、サラは右手を大きく振っていた。
恋仲の侍女アイリスと腕を組みながら。
その後ろで、アダムがエリーゼを見て笑っている。
——サラさんが来るなんて聞いてなかったよ!? あ、アダムだ〜! 本物のアダムだ〜!!! 笑顔が可愛い〜!
3人は船と陸をつないだ橋を渡り終え、エリーゼたちが待つ場所へ。
「エリーゼさ〜ん!」
サラは勢いよくエリーゼに抱きついた。
エリーゼはサラに会えたことが本当に嬉しくて、ぎゅっと抱きしめる。
「サラさん、お久しぶりです! 来るなら言ってくださいよ〜!」
体を離したエリーゼは、あまりの嬉しさに目を潤ませていた。
「ほほほほほっ! 驚かせたかったのですわ。学院は長期休暇に入りましたから、1週間はこの国に滞在する予定ですの」
「本当ですか!? うれしいです!」
「私の親戚が所有する別荘がありますの。私と侍女しかいませんから、よかったら遊びにきてくださいね」
「はい! 私たちの家もよかったら見て下さい。広くはありませんが」
「ええ、是非! 今から伺っても?」
アダムを出迎えるために部屋の掃除はばっちり行なっていたので、エリーゼは快く頷いた。
「もちろんです! アイリスさんもよければどうぞ」
「お心遣い、感謝いたします」
アイリスは丁寧にお辞儀をした。
「じゃあ、馬車乗り場へ行きましょうか。あっちですよ」
サラはエリーゼが指差す馬車乗り場へ視線を向けた。
「……なるほど。馬車は4人用のようですから、私はアイリスとアリスさんの3人で乗りますわ。アリスさんとまだお話できてないですから」
アダムと話をしていたアリスは、すぐにサラの言葉に反応する。
その後に気づいたアダムは話を切り上げ、小声で「ごめん、またゆっくり話そう」とアリスに詫びた。
「では、アダム兄さん、またあとで」
「うん」
アリスはその場を離れ、サラとアイリスのところへ。
「——3人に気を使わせてしまったようだね」
馬車乗り場へ向かう3人の背中を見ながら、アダムはエリーゼに話しかけた。
「うん」
エリーゼは顔を赤くしながら返事をした。
「エリーゼ、やっと一緒に暮らせるね」
「うん、今日からよろしくね」
エリーゼは目を合わせられず、もじもじしていた。
アダムはそんなエリーゼの腕を掴んで引き寄せ、腰に手を回した。
そして、エリーゼの耳に囁く。
「そんなに照れてどうしたの? 可愛すぎて誰にも見せたくない」
「だって……」
アダムはその反応にくすくす笑う。
「じゃあ、行こうか。早く馬車にエリーゼを閉じこめたいから」
——あわわわわ……。
2人は寄り添いながら馬車乗り場へ向かった。
*
エリーゼとアダムの馬車。
密室の中で2人はずっと密着していた。
「——エリーゼ、まだ照れてるの? もっと顔を見たいんだけどな〜」
隣に座るアダムは、俯くエリーゼの顎を無理やりあげる。
「恥ずかしいもん……」
エリーゼの顔はずっと真っ赤だ。
「その反応、可愛すぎだから——」
アダムはそのままキスをした。
すでに馬車の中で数え切れないくらいのキスをしているが、2人には全然足りなかった。
アダムは頬に触れたエリーゼの髪に目を止め、触る。
「髪、伸びたね」
「うん。どう……かな?」
エリーゼはまだアダムの顔をまともに見れない。
「可愛いよ」
アダムはエリーゼの耳を甘噛みしながら囁く。
——あ〜! これからの生活は大丈夫なの!? 毎日こんな甘い生活で、私はどうにかなっちゃいそうだよ〜!
「あっ……アダムの方が……可愛いいもん」
「ふふっ、ありがと」
2人は家に着くまで、とろけるような甘い時間を過ごした。
*
スコット家。
5人は家に到着後、リビングでくつろいでいた。
「——エリーゼさん、カーテンや家具のデザインがどれも素敵ですわね。どこでお買いになったの?」
エリーゼがアリスをチラッと見る。
予想通り、アリスの顔は少し赤くなっていた。
「全部、アリスの手作りなんです」
「まあ、とてもセンスがいいですわ。とても器用なのですね」
「それほどでも……」
アリスは照れながら答えた。
「この部屋のインテリア、統一感もあるし、センスに溢れてると思うよ。アリス、すごいね」
「ありがとうございます、兄さん!」
「まあ、エリーゼは全く関わってないよね……?」
——アダム、するどい……。
「……なんでそう思うの?」
動揺を隠すようにエリーゼは問いかけた。
アダムは苦笑する。
「エリーゼってなんというか……がさ……ゴホッ、インテリアにこだわらないだろ?」
「アダム、その言い方傷つく〜。でも、正解……、私の寝室含め、全部アリスがやってくれたの。店で売ってるものは気に入らないからって言って、全部1から作ったんだよ〜。すでに買ってた家具も解体してたから、かなり本格的だよ」
アダム、サラ、サラの侍女は驚く。
「へぇ〜、才能あるよ。細かい装飾もすごく綺麗。アリスは魔道具開発にむいてるんじゃない? 魔法大学院の卒業資格をもっていたら、工房とか開けるからオススメかも。卒業生の工房はほとんどないから、将来は明るいと思うよ」
サラも同意するように頷く。
「薬学にお誘いしたいところですが、これを見せられると、アダムの提案が最適かもしれませんね」
褒められっぱなしのアリスの顔は、真っ赤だった。
「こんなに褒めて頂けるなんて……。大学院に入ったら、そのコースも考えてみようと思います」
エリーゼはアリスの可愛い反応を見て、堪らなくなる。
横から抱きしめ、いつものように頭を執拗に撫でる。
「姉さん、やめてください〜」
「ハハハハハッ!」
「ほほほほほっ!」
「ふふっ」
*
その日の夜、スコット家。
夕食後、エリーゼはアダムと寝室でくつろいでいた。
テラスの窓を開け、心地よい風をあびながらソファーで寄り添う。
2人は互いの体温を感じて幸せいっぱいだ。
「——夜の町並みが綺麗だね」
「うん」
外はオレンジ色の街灯が灯っていた。
その光は、レンガ造りの古い建物が立ち並ぶこの街と調和している。
「この街にして正解だよね」
「うん。エリーゼと見てると、なおさら綺麗に見える気がする」
エリーゼの顔が熱くなる。
「エリーゼ、今日からずっと一緒にいようね」
アダムは照れたエリーゼの顔を横から覗き込む。
——もう、アダムの声を聞くだけで体がとけそう〜。
「うん、絶対アダムから離れないから」
エリーゼはようやく目を合わせる。
アダムは真剣な眼差しを送る。
「絶対離さない」
2人はゆっくり顔を近づけ、唇を触れ合う……。
人、身分、時間、距離……全ての障害から解放された2人は、初めて自由を手にした気分だった。
「エリーゼ、愛してる」
「私も愛してるよ——」
END
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
よかったら、評価やコメント、フォローをお願いいたします。
続編として、アリスのその後の話も書く予定です。
アリスの初恋や大学院生活など、可愛いアリスをいろいろ深掘りします。
アダムとエリーゼいちゃつきや、サラとアイリスも出てきますので、よかったら読んでください。
悪魔がくれた体じゃ恋愛は難しすぎる! 香月 咲乃 @kohakukinashi
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