第7話・ゴゴ貝という貝がある

 ゴゴ貝という貝がある。

 綺麗な淡水に住み着き、こけを食べて生きる貝だ。

 子どもがこずかい稼ぎに朝のうちに集め、そして木串に刺されて昼から屋台にレイカーに売られるのが、ゴゴ貝の仕事だ。

 大きさは子どもの手のひらほどか、焼いて塩でも振れば、結構いい味を出す。


「よう、二本くれよ」


「……お、おう」


 レイカーはキョドった。

 それはもういい年こいて、少年のようにキョドった。

 それだけひたすらに、異様なまでに美しいエルフがゴゴ貝を買いにきていたのだ。

 人間であるレイカーは、エルフの見分けがあまりつかない。

 整った顔つきなんて代物は、あまりバリエーションがないのだ。

 だが、何年後に見ても、またこの娘だ、とわかりそうなとんでもない作りだった。


「お、お嬢さんはどこから来たんだい?」


「静宮殿からだな。おっちゃん、こっちのでかい方焼いてくれよ。な?」


「お、おう!」


 ゴゴ貝を焼きながら盛大に声を裏返したレイカーを、少女は気にする様子はなかった。

 よくあること、普通に屋台で買い物をしている、くらいの態度でしかないし、事実そうなのだろう。

 気安すぎて、旅装と腰の四本の剣すら気にならなくならなそうな態度だ。


「それよりこの街は、いつもこんな感じなのかい?まるで祭じゃないか」


「あ、ああ、俺にはよくわからないんだけど……千歳になったダルニアのじいさんのところに集まって……みんなでお祝いでもするのかねえ?千歳の誕生日ってすごい話だもんなあ」


「あっはっはっは!確かにそうだ、エルフは千歳のお誕生日会はとびきり派手に、豪勢にするもんだ!」


 こいつはとんでもない馬鹿なことを言った、と笑うエルフに、レイカーは腹を立てるどころか、いっそ嬉しくなってしまった。

 美人が笑うと、嬉しい。それは男の性であった。

 そして、エルフはこれから何をするか、をきちんと質問しないと教えてくれないことを、レイカーは知っている。


「はいよ、二本お待ち。なあ、あんた……これからどんな祭りがあるんだい?人間の俺だとどうも混ざりにくくてさ。エルフのとびきりのご馳走でも用意してあるのか?」


「ああ」


 と言っても、きちんと説明してくれるかどうかも、よくわからない。

 歳を重ねた(見た目だけではよくわからないが)エルフなら、他種族に気を使ってきちんと説明してくれたりもするが、彼女はおそらく若いエルフなのだろう。


「誉れがあるのさ」


 帽子のつばに指をかけ、少しばかり気取った仕草でそう言った。

 理解させようなんて努力はちっとも見えない。だが、言ってやったぜ、と喜ぶ姿はとても愛らしい。

 それだけは、よく理解出来た。


「おい、ジイさん!美味そうな串焼き買ったぜ!」


「お前、まだ食うのか!?朝飯だって、しこたま食っただろうが!?」


 信じられない、と叫ぶエルフの横に、若駒のような足取りで、彼女は鮮やかに去っていく。


「誉れねえ……」


 なんのこっちゃ、と呟くレイカーが、そのすべてを知るのは夜になってからであった。





 浮かれている、とはこのことだろう。

 街の中心部に向かうにつれ、他種族の姿が失せていく。

 何故、エルフたちが盛り上がっているのか、ちっともわからない。それを共有する気はまったくないのだ、と面白くない顔をした他種族たちが離れていくからだ。

 熱気があった。

 クランは、すっかり楽しい気分になっていた。

 浮かれたエルフたちが陽光に照らされ、板金鎧や魔術的効果をもたらす貴石をぴかぴかと光らせている。

 道端で剣を抜く者すらいた。

 普段ならその行為を取り締まる衛兵に、この剣がどういう魔術的効果を発揮し、自分はこれでどういう展開に持ち込むつもりなのだ、と大声で説明していて、それを聞く衛兵もにこにこと機嫌良さげに答えている。


「俺の仕事が終わるのが夜だからな。お前がくたばって順番が回ってきてくれるのを祈ってるよ」


「抜かせよ、俺の番で終わりに決まってるだろう?」


 にやり、と笑みを交わした男達は、拳と拳をぶつけ合うとその場で別れた。


「いいね」


「なにがだよ」


 クランはああいう男くさい場面が、大層好きだ。

 信頼し合った相棒と、互いが互いの成すべきを成す。

 そういうシチュエーションに憧れていた。


「なあ、ジイさん。ちょっとあたしの剣に興味ない?」


「ねえよ」


 クランはしょんぼりした。

 少しくらい説明させてくれてもいいではないか、と憤りを覚える。

 色々自作した自信作なのだ。素体の剣こそ買ったものだが、魔術的効果をしっかり付与出来た自信作である。

 あまりに切り捨てた態度に、この旅の相棒はなんて冷たいのだと、悲しくなった。


「なあ、ジイさん。なあ、ジイさん」


「……お前は口に物が入ってる時以外、黙ってられんのか」


「おいおい、あたしの口の重さと来たら静宮殿一って噂だぜ。ピーチクパーチクおしゃべりするのが仕事のお姫様の中でも一等さ。二十四姉と来たら口から生まれたってくらいに喋り倒すが、あたしほど無口な奴は、あたしの兄弟には一人もいないね」


「本当に口が減らねえなあ……」


「わかった、こうしよう。ジイさんの剣について説明するのはどうだ?実はあたしはめちゃくちゃ聞きたい」


「やだよ。俺だってそろそろ千歳なんだから、わざは隠す」


「なるほどな。エスプリがおもむくままにだな」


「おい、やめろ」


 ごちん、とげんこつが降ってきた。


「なにすんだ!?あたしが悪いことしたか!?」


「くそっ……本当にあの時はどうかしていた。どうして俺はあんなにカッコつけてしまったんだ……」


 頭を抱え、小声でボソボソとなにごとかを言っているスタンは、クランの襟元を荒々しく掴むと、耳元で精一杯作った声で囁く。


「あの言葉は、本当にカッコいい時に使うからカッコいいんだ。普段から使うのは、ダセえんだ。わかったな?」


「わかった!」


 確かに、とクランは納得した。

 お芝居だってそうだ。

 格好いいセリフは、格好いいタイミングで。

 そういう伊達は、大事だ。

 クランは、よく理解した。

 こういう素直さが、戦場で生死を分けるのだと、クランはよく知っている。話に聞いて。

 しかし、どうしてスタンは頭が頭痛だ、とばかりに首を振っているのだろうか。


「そいでジイさん、あたしたちはどこに向かってるんだ、一体」


「お前の頭は帽子をかけるのにちょうどいい場所か。今までどこに向かってるつもりだったんだ」


「や、ジイさんがわかったような感じで歩いてたからさ」


「……街の中心にある政庁だよ。街でエンシェント落としやる時は大体、一番デカイ建物の周りでやるもんだ」


「なるほどなー」


 やはり、旅に出てよかった、とクランは思った。

 知らないことだらけだった。

 例えば焚き火だ。

 クランのやり方では太い薪の上に、細い枝を重ね、細い枝を魔法で燃やす。

 しかし、スタンのやり方は違う。

 細い枝を重ねるまでは同じだが、松ぼっくりやタコの足のように千々に裂いた枝のみに火を付ける。

 細い枝を燃やす方法は、すぐに火が燃え上がるが、逆に言えば全体に熱が回って結構早く燃え尽きてしまうのだ。

 松ぼっくりを点火剤として使うやり方であれば、じわじわと燃え上がり、相当に長持ちする。

 それでいて微々たる差ではあるが、魔力の消費も減る。

 水筒の用意もそうだし、歩き方ひとつ取ってもそうだ。

 そういう細かい細かい積み重ねの先に、強者への道があるのだろうと、クランは理解した。

 旅は、いい。

 こうして出会いもあった。

 エンシェント落としが終わったら、次はどこへ行こう。

 その時は、スタンも着いてきてくれるだろうか?

 意地の悪いジイさんだが、悪い奴では決してなかった。

 それどころか、とびきり大切な事を教えてくれる。


 次の焚き火の時は何を聞こう。

 あの艶々とした髭の秘密を聞いてみようか?服やマントに手を入れてる様子はほとんどないのに、髭だけしっかりした手入れをしてるのはおかしいもんな。

 何か重大な秘密があるに違いない。あたしはそういうのに鼻が効くんだ。絶対だ。


 クランは楽しくて楽しくて仕方ない。

 辺りのエルフが、その無防備な笑顔を受けて、忘我し、自分の武具を落としているのに気付きもしなかった。

 よくある事でもあったし、みんなドジだなと思うだけだ。衝撃を与えたら暴発するセッティングになってたら、どうするつもりなんだろう?

 太陽は真上に差し掛かろうとしていて、腹の奥がカッと暑くなってくる。

 それが気候のせいなのか、それとも待ち受ける戦いへの興奮のせいなのか。クランにはわからなかった。


「いけえ、スミス!」


「そこだ、右から回り込め!」


「お?」


「やってるなあ」


 壁の向こうから歓声が聞こえた。

 静宮殿にあったものとは比べ物にならない、まぁその辺りのエルフが手慰みに彫ったであろうそれなりの装飾を施された壁の向こうから——無装飾の壁などがあれば、エルフはそこを共有のキャンバスとみなす習性がある——荒々しい歓声と力強い足を踏み鳴らす律動が響いている。

 祭りの気配だ。


「行こうぜ、ジイさん!あたしたちの順番取らなきゃ!」


「あ、おい!?お前の順番!?多分ねえぞ!」


 背中を叩く声すら追いつけないくらいに足取りは軽く、身体は自分でも驚くほど動く。

 肩に乗っているものはなにもない、とばかりに駆け出せば、あっという間に門に辿り着いた。


「……うおおお、すげえな」


 それは、原始的な祭りだった。

 一人の男がいる。

 全身をがっしりした鎧で包み、一本の金属で出来た太い棒を握っていた。

 六角形の棒で、その先端は鋭く尖っていて、棒と槍の合いの子という感じか。

 それは太く、クランが全身に強化の魔術をかけて、ようやく持ち上げられそうな棒を、男はびゅんびゅんと木の枝でも振り回すかのように扱っている。

 相対しているのは、五人のエルフ。

 男四人、女一人の組み合わせだ。

 その周囲を人々が囲み、声を張り上げ、足踏みをし、酒と賭け札が飛び交う上品さのかけらもないあほみたいな集まりだ。


 前衛を張る女エルフがジャンプと共に全体重を乗せて大剣を叩きつけても、鎧のエルフは棒で跳ね返す。

 そのなにがすごいかと言えば、宙で大剣がエルフごとぴたりと止まるのだ。

 完全に衝撃を吸収され、前にも後ろにも反発出来なくなると、本当にどうしようもなくなってしまう。

 棒の重さを力任せに振り回しているだけではなく、さりげない動きの一つ一つにさりげなくとびきりの技巧が散りばめられている。

 その隙に——隙なんてどこにもなかったのだけれど——他のエルフたちが矢を放ち、魔法を解放していく。

 そういう有象無象の攻撃を、鎧のエルフがびゅんびゅんと棒を振り回して散らしてしまう。


「すげえ……」


 一転、攻撃に回った鎧が、またすごかった。

 それまでびゅんびゅんしなって曲がっているようにしか見えなかった棒が、しゃきっと立った。

 さきほどまであんなにぐねぐねしているようにしか見えなかった棒が、真っ直ぐな線へと変化している。変化したとしか思えない急転だ。

 その軌跡は、真っ直ぐにエルフ達を貫き、あっという間におしまいとなる。

 蔓延する酒と体臭の中に、すぐに血と臓物の臭いが混じり合い、


「やべえ」


 クランが見たこともない、王サマを抜けば一等やべえエルフの技が、そこにあった。

 クランは石炭をガンガンに詰め込んだロケットストーブのように、ガンガン燃えてきていた。

 常時発動している視力強化の魔法の維持をトチって、目から火花を飛ばしながら、クランはにこにこと、本人の中では上等ジョートーくれた強そうな笑みを浮かべる。


「勝者は日和・ダルニア・アスイド!これで個人十八人、団体五人抜きだ!」


「おいおいおいおい」


 あたし抜きで随分楽しそうなことをしてるじゃねえか、と思わず腕まくりしたクランは、門と台に背を向けて、決闘場に目を向ける受付エルフの前に辿り着いた。


「おい、参加してーんだけど!」


「あ、うん。そこに適当に名前書いといて。字は書ける?書けないならなんかマークでも書いておいてよ」


「て、適当だな」


「俺だって受付なんかしたくないんだよ。でもまだ三十の若造だからって押し付けられただけなんだから。ずっと後ろ向きで首をおかしくしたらどうしてくれるんだよ、まったく」


 適当に書け、と言われた紙は、ずらーっと上から下まで名前が連なっていた。

 個人戦で敗北したエルフ達の名は赤く斜線が引かれ、集団戦四人の部分まで同じようにされている。

 この後、新たに五人の名前に赤い斜線が引かれるに違いない。


「おい、あんた。これ、順番待ちが百組超えてないか?」


「え、そうだよ。あんた来るのがぜんっぜん遅いよ。一番早く来た奴なんて、ダルニアさんが千歳になる前日から来てるんだから」


「うっそだろ」


 どうすんだよ、とクランは思った。

 これからあたしとジイさんの栄光への道が始まるというのに。

 どうにかしておねだりすれば、順番を譲ってもらえないだろうか、と真剣に考え始めた。

 おねだりの技なら、クランには結構自信がある。

 宮殿にいたジイさんたちは、クランがちょいとおねだりすれば、やいのやいの言いながら城下に連れ出してくれたものだ。

 屋台の串焼きについては、クランも一言あるほどに詳しい。


「なあ、ジイさん。百組待ちだってよ」


「そうかよ」


 いつの間にかやってきたスタンに、クランは腹を立てた。


「……そうかよって。わかってんのか、王サマの前のレコードホルダーだって、二十八人抜きなんだぜ?あたしとあんたの順番が来る頃には、この祭りは終わっちまうんだ」


「お前の順番は、だな」


「ん?え?どういうこと?」


「さあ、次の挑戦者は誰だ!あまりもったいぶって、場を冷まさせるもんじゃあない!」


 倒れたエルフたちを運び出し、石畳の上の血の跡も水の魔法がすっかりと洗い流していた。

 腹に大穴を開けられて、それでも生きているエルフが、サンダル履きのエルフに回復魔術を施されている。

 普段着で、戦う気はあまりないが、祭りには参加したい有志が手伝っているのだ。

 余裕のない戦場ならともかく、そういう暇なエルフたちが数人がかりで治療しているのだから、あのエルフは命を取り留めるだろう。

 それよりも、だ。

 それよりも、だ。


 どん!どん!どん!と腹の底に響くような足踏み。

 次の戦いを!次の戦いを!願わくばどうか、自分の番が回ってきますように!


 そんな歓声の中、人垣から現れたのは、六人の男女だ。


「次は我々、デバナシ戦士団六人集だ!伊達・アドパ・コナイと仲間たちの出番だ!」


「いいや、違うね」


「あ、あれ?ジイさんいつの間に!?」


 クランの横にいたはずのスタンが、いつの間にか決闘場のど真ん中にいた。

 いっそ気だるげに髭をしごく姿は、旅の途中で何度も見た姿だ。

 それが何故?いつの間に?どうやって?


「……どういうことだ?ヤーラレ傭兵団の次は、我々のはずだったのだが?」


「気取りなさんな、お若いの。話はとびきり単純さ。そうだろ、しょんべん漏らしのダルニア?」


「ああ、間に合わないかと思ってたぜ。クソったれのスタン」


 兜の覆いを上げた中には、これまた汗一つない髭の顔があった。

 年老いたエルフは、髭に憧れる。

 他種族の老いた生き物を見ると、大抵髭を生やしているからだ。

 老いは、何故かエルフを惹きつける。

 そんな髭が日が暮れ始めた頃、ようやくやってきた遊び友達を見るかのような笑みを浮かべいた。


「諸君にはすまないが、この通りだ」


 スタンがデバナシ戦士団に掲げたのは、一枚の紙切れだ。

 受付にいた小僧が慌てて振り返ると、そこにはあったはずの受付用紙がなく、見たこともないようなとんでもない美人がいて、大層たまげていた。

 目からバリバリ火花を飛ばし、なにやら苛立たしげにしていても美人だ。


「俺の名前は、この挑戦表の一番上に書いてある。扇・スタン・フリジアーノだ」


「……確かに確認した。くそっ、あんたに幸運を!そして、我々に誉れの機会を!」


「ありがとよ、お若いの。次の、他の違うエンシェントのチャンスを待つんだな」


 がはは、と性格悪げに笑うスタンと、悔しげな表情で人垣に引っ込んでいくデバナシ戦士団の背中を見ながら、クランは叫んだ。


「おい、ジイさん!?どうなってるんだ!?あたしは!?」


「こんな時くらい黙ってられないのか、お前は!?俺とこのクソジジイは昔から約束をしていて、それはお前には何の関係もない!お前の順番は来ない!」


「あんまりだよ!?あたしたち相棒だろ!?どんな時だって一緒に戦うって約束しただろ!?」


「そんな不名誉な事実は、ない!あと約束もしてない!むしろ、何故約束したことになってんだ!?」


 信じられない、なにかの間違いだ、あいつが裏切るわけがないと絶望の表情を浮かべて人垣に埋没していったクランに、スタンはため息を一つ吐いた。


「オメーまさかあんなガキに手ぇ出したのか……?」


「ふざけるなよ、ダルニア。俺が、あのガキに?そいつはとんでもない侮辱だぞ?」


「そいつは結構。……まぁお前、気取ってるくせにモテなかったもんな」


「なに言ってやがる。俺は忘れていないぞ、カークヤークの戦いの後、あの可憐な彼女の前でお前が泣きながらしょんべんたらしたことをな」


「……ははあ、それを言っちまうのかい?ああ、俺も忘れてないぜ。お前があのおそるべしデヴリンにやられて、悲鳴をあげながら味噌をしこたま垂れ流したあの日をな」


「あっはっはっは」


「あっはっはっは」


 二人は笑った。


「得意な武器で挑ませてやろうか?ハンデさ。年上のシブいいい男が、若いションベン臭いガキにやるハンデ。そいつをお前にくれてやろう」


「はっはっは、お前のジョークはいつだって愉快だ。現実をちっとも見ていない」


「おいおいおいおい、俺とお前。どっちが強いかなんて、とっくに決まってることだろう?」


「そうだな、格付けは済んでるもんな。俺の方が強いってな」


 向かい合っていた二人は、じりじりとゆっくり左右に回り始める。

 スタンは左手、ダルニアは右手を武器から外し、観客に向けて手を下から上に何度も力強く振る。


 どん!

 どん!

 どん!


 その煽りによって更に力強くなった足踏みが、腹の底に響く頃、二人は同時にこう言った。


「「ぶっ殺す」」


 エルフの決闘はこうして、どうしようもなくくだらないノリで始まることが、稀によくあった。

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