ショートショート「fの部屋」

棗りかこ

ショートショート「fの部屋」(一話完結)


「f(エフ)の部屋」…。


アイドルグループ、fの番組だった。


fは、5人組だった。


月川…火野…水沢…木戸…金井…


月曜から、金曜まで、全ての字が入ったアイドルグループであることを活かし、月曜から、金曜まで、日替わりで、パーソナリティーを務める番組だった。


月曜日。

月川がゲストとして迎えたのは、ジィナ。彼女は、人気少女歌手だった。

彼女は、年頃の少女の憧れで、抜群の人気を得ていた。


火曜日。

火野が、ゲストとして迎えたのは、リィナ。ジィナの昔の相方で、ジィナからの紹介で、番組に出演した。


水曜日。

水沢が、ゲストとして迎えたのは、シィナ。リィナと、コンビを組み始めた新人だった。


木曜日。

木戸が、ゲストとして迎えたのは、エリー。今度デビューするという、シィナの妹分だった。


で、誰を紹介してくれるの?木戸が、明るく聞いた。

えっとー、、、、、、、。エリーが、言葉に詰まった。

私のー。うんうん、エリーのー。

同じ新ドラマに出演しているー。ドラマに出演している人なんだー。

それでー。はいはい、それでー。

すっごく面白いー。面白いんだ、その人。


リツコさん。


木戸の動きが停まった。

リツコさん?はい、リツコさんでーす。すっごく面白い人なんですよー。


リツコ…。 誰それ?木戸は、そう思ったが、エリーは楽しそうに、話し続けている。

人気者で有名ですよね、リツコさん。エリーは言いながら、笑った。

リツコさーーーーん。 エリーは大声で、入り口に向かって叫んだ。

明日、来てね。 それは、「fの部屋」のお約束だった。

次のゲストを紹介したら、入口のドアに向かって、名前を呼ぶ。すると、次の日、ゲストが、 次の日の、パーソナリティーの呼び声で、はいはーい、と出てくるのだ。


だが、木戸は焦っていた。誰だ??????リツコ???????


彼には、馴染の無い名前だった。生放送でなければ、すぐ、誰?と聞けたのだが、その儘、エリーを送り出す時間になってしまった。

はい、今日のゲストは、エリーさんでした。会場中から、拍手が起こって、エリーは出口から帰ってしまった。

はい、また、明日も、「fの部屋」を見てね。焦りながら、にっこりと、笑った木戸だったが、アシスタントディレクターが出てくると、おいおい、リツコって誰?と、彼に問い質した。


リツコ…。さあ、誰でしょう。ADも知らない? 木戸は焦った。

大丈夫でしょう。ADは、大したことなさそうな、のんびりした声で言った。

アポは取れてる筈ですよ。リツコさんとやらには…。

そ、そうかなあ…。 念の為、聞いときますと、ADは笑いながら、答えた。


で、誰だって?

金井から、木戸は聞かれて、戸惑った。

リツコさん…。


誰だ????金井の声が、すっとんきょうに響いた。

だから、リツコさん…。

なんで、ジィナ、リィナ、シィナ、エリーと続いて、リツコなんだよー。

金井の不満そうな声が響いた。 何でお前、繋げないの、もっとシャレたヤツと。

オレが、リツコ?

でも、エリーの指名なんで…。

エリーか…。 あいつ…しょうがないなあ。

その日一日、金井は、ふてくされていた。モチベーション上がんないよ。ぜーんぜん。

が、プロだろ?と、メンバーから言われて、仕様がないなあ…、と、渋い顔をした。


金曜日。

来てる?はい、リツコさん、お見えです。そう。金井は、じゃ、よろしくね、と、ADに丸投げした。

期待が持てないゲストの時は、撮り前の挨拶はしないのが、金井のやり方だった。

今回も、じゃ、そういうことで…と、本番まで、ゲストに会わないことになった。


「今日のゲストは、リツコさんです。」金井の明るそうな声で、ファンファーレが響いた。


ハーイ!!!!

かなり、劣化した、もとい、年を取った、アイドル風の衣装の女が、入口から入って来た。

リツコでーす。

アイドルやって、40年。今もきゃぴきゃぴー。


言いながら、リツコは、ウィンクをしてみせた。


おえーーーー。 金井は、酸っぱいものが出そうな程に、苦しんだ。

金井ちゃん、よろしくねー。


その日のことは、金井の中から、速やかに消去された。

次のゲストに不安を残した儘で…。


「fの部屋」…。


-完-

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ショートショート「fの部屋」 棗りかこ @natumerikako

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