変わりゆく者達へ(2/2)
「族長の娘だからな」
そう言って彼女は騎士に笑いかけた。
血が
「あ」
何かに気づいたようにユウが声をあげた。
「ディナちゃん、腕につけてたやつは……」
ふとした
まさか、昨日切れてしまったのか。そう
「あれが最後の一本になっちまったからな。無くさないようにしまってあるのさ。あのクソ親父、ドケチだから形に残るもんはあれぐらいしかくれなかった。だから、ただ一つの形見だよ」
そう言って、手荷物の
「そっか……」
たとえ形に残らずとも、きっと彼女は多くのものをもらったのだろう。その表情にもう
過去を
「――さぁ、こっから
そう言って声をかけるディナは、自分自身にそう言い聞かせているようだった。
移住が終われば、もうここに来ることはないだろう。父の
どこにいたって世界は
「じゃあ
そう言って
「シェサ……」
ユウが名を呼ぶと、その小さな
その顔には、あの
「……うちのこと、怖い?」
「……………」
シェサは少しの間を置いてから、ふるふると首を振った。
そして、ゆっくりと母親の
ディナ以外の人間を知らなかった彼女。
だが、それは最悪の形で裏切られた。まだ幼い彼女の
「……ユウは、怖くない。だって、同じ毛の色をしてるから」
「……そっか」
つまり、ユウ以外の人間は怖いということ。実際に彼女はレイとセラには目を合わせようとしない。
そんな彼女には、これからの生活は
「人間にも、いっぱいおるからなぁ。良い人もいれば悪い人もいる。だから……人間
「……………」
シェサは
アー……
二人の間に降りた
「……んふ」
どちらからともなく、笑いが
しばし笑い合う二人。これからどんな困難が待ち受けていようとも、きっと、この人間の友人と共にならシェサは大丈夫。
昨日は
失われたものもあれば、新しく生まれるものもある。この友情が、そうだろう。
彼女らの
うー……あうあー……
二人が笑っていることが嬉しいのか、それとも笑われていることに
「ふふ、どうしたさくらもち。笑ってごめんてー」
あうー、うお……
まだ何か言いたそうにもごもごと口に相当する穴を動かす
「んー?」
ユウとシェサの二人が興味深げに
その
うお、うおわ……
そして、とうとう――
「うおは……ご……ごはん!」
「「……え」」
そのスライムが発した音の意味を、頭で
「「うわあああ!さくらもちが
「ごはん!ごはん!」
ユウ達だけでなく、周囲の大人達もそのあり得ざる
「嘘でしょ……スライムが
さしものセラも
人に近づいて体当たりするだけだった
それは勇者の力によるものなのだろうか、それとも本来スライムが持ちうる能力なのか。それは分からない。なぜなら、今まで誰一人としてスライムに愛情を
確かなのは、この奇跡はユウとさくらもちが
「そうかそうか!ごはんか!」
魔力を込めた手の平でさくらもちを
少なくとも、このスライムは物言わぬ自然現象からここまで変化を
魔物にできて、人間と魔族にそれができない道理はない。心ある者はすべからく変われるのだ。
〈世界を救う者〉、勇者ユウ。
彼女が与えたものは、可能性などという
その
彼女は、変わろうと願う勇者達のきっかけに過ぎないのだ。
宥和の勇者Ⅱ -天に吠える狼少女- end
後記
ここまで読んでいただきありがとうございました。
書き溜め分を消化しきったので当分の間連載をお休みします。
詳しくは後程近況ノートに書きますので、興味がある方はご一読下さい。
『宥和の勇者Ⅲ -花色の妹分(リトルシスター)-』(仮)は投稿日未定です。
宥和の勇者 ―結ばれた手と手― noyuki @noyuki28
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