第6話「貧乏少女と更新頻度」
「おいひいよぉ~、おいひいよぉ~」
美也ちゃんは雨音さんと打ち合わせをした喫茶店でテイクアウトしたアップルパイをちょっとずつ、ちょっとずつ口に入れてはその都度感嘆の声を漏らす。
「康太お兄ちゃん、本当に私が食べちゃっていいの?」
「いいよいいよ、僕は喫茶店で食べてきたからね。美味しかったから持ち帰り分も買ったんだけど後になってお腹が膨れてさ、美也ちゃんが食べてくれてたすかったよ」
「喫茶店……佐伯さんと一緒だったの、かな?」
フォークを口に咥えたまま、美也ちゃんは手をピタリと止まめて首が10度ほど右に傾けながら微笑む。もちろん目は笑っていない。
「いやいや、えと、えーと、一人でだよ、一人で。ほら、勉強に集中したいときにたまに喫茶店でやるんだよっ」
からかっているのか演技しているのかわからないがたまに美也ちゃんはヤンデレと化す。僕は雨音さんと仕事の打ち合わせをしていただけなので本来なら誤魔化す必要なんて全くないのだけど、美也ちゃんには自分が書籍化作家だということを隠しているので、誰と居たかなんて急に聞かれたら返答に困る。
ちなみに書籍化作家ということを隠しているのは、ある日美也ちゃんが僕の本棚から異世界旅人の文庫本を見つけたときに『あっ、これ、私も大好きなんだ。康太お兄ちゃんもファンだったんだね』って先に言われてしまったので、何だか言い出し辛くなってしまい、そのままズルズルと今更言えない状態になったからだ。
『実はその本の作者って僕なんだよ!』←ドヤ顔
ないない、そんなの無理だから。想像しただけで服を着たまま海にダイブしたくなる。
でも異世界旅人を知ってたってことは、美也ちゃんはその時からユーザー登録をせずに読専としてカクヨムを利用していたのだろう。
「そっかー。高校生にもなると、学校以外でも勉強しなきゃなんだね。大変だねー」
「美也ちゃんだってもう中学生じゃん。テスト勉強とか家でしてるでしょ?」
「んーん。今んとこ学校の授業で聞いただけで90点以上はとれるから。それに家でも勉強なんてしてたら小説書く時間がなくなっちゃうよ」
おっとー、何それ完全にチートキャラじゃん。中一の頃の僕なんて家や図書館で必死に勉強してギリギリ平均70点くらいだったのに。そしてその合間をぬって小説書いていたのに。
「そうそう、小説って言えば今のところさわりの部分が調子よく書けているからそろそろ公開したいんだけど、一話ずつ公開してもいいの? それとどれくらいの頻度で続きを出したらいいのかな?」
もう序盤が書けたのか。美也ちゃんは執筆速度も中々のようだ。
「特にこうじゃないといけないっていう方法はないんだけど、カクヨムやWeb小説のシステム面からお勧めできる更新方法は色々あるよ」
人によっては最初から一話ずつ更新したり、完結までの10万字分を一気にUPしたり様々だが、少しでも多くの読者に読まれやすくするには工夫がいる。
「やっぱりあるんだ! 教えて~教えて~、康太お兄ちゃん♪」
「うん。ええとね、まずは『起承転結』で言えば『起』の部分までは書き溜めておいて一気に更新した方が良いと思う。異世界ファンタジーで言えば粗方の物語の説明を終えて最初のミッションとかイベントを終えたくらいかな? コンテストとかに出す作品で10万文字辺りで一旦締める分量なら2万文字くらい。まあ、つまり書けたからといってすぐ1話だけUPとかはしない方がいいってことかな。どうしてかわかる? 美也ちゃん」
「んー……少しは面白くなるところまでは一気にUPしたほうが良いからかなあ?」
「そうそう、ゲームの無料体験ダウンロードとかもそうだよね。このゲーム面白いかもっていうのがわかるところまでは無料でやらせて続きは買ってプレイしてもらう、それと同じで小説も継続して読んでもらうには初見で面白いと感じるところまで一気にUPした方が良いんだ。TOPページの『新作の連載小説』に表示されている間にいくつ作品フォローを稼げるかで初動の勢いは全然変わってくるからね」
「じゃあ5~6話ずつまとめてUPした方が良いって事?」
「あー、最初の更新は5~6話まとめてした方が良いんだけど、その後は逆に一話ずつUPした方が効果的なんだ」
「えー、なんで~? イベントとか区切りの良いブロック単位で更新し続けた方が良いんじゃないのっ?」
「もちろん、それも決して間違った方法じゃないんだけど、星……つまり作品の評価は増えにくくなるね」
僕がそう言うと美也ちゃんは一回転しそうな勢いで首を捻っていた。
「美也ちゃんがユーザー登録してから他の人の作品に評価したときってどんなタイミングだった? 読んですぐだった?」
「えっとー、すぐではないかな。読んでいるときは評価とか気がつかなくて……最後まで読み終わったときに評価していたと思うけど」
「うん、ほとんどの人が同じだと思うよ。でもそれはね、カクヨムの評価アクセス、つまり『この作品に評価をしてみませんか?』という表示が最新話の文末にしか出ないからなんだ。だから評価することになれた人でもない限り最終話まで読まないと評価すること自体に気づきにくいんだよね」
「あっ、なるほど! じゃあ追いかけて読んでくれている人にとっては一話ずつ更新したほうが評価アクセスのページが目につきやすいってことなんだね」
美也ちゃんは僕の言いたいことをすぐに理解してくれる。授業中の勉強だけでテストでいい点がとれるというのもわかる気がする。
「そういう事だから僕はベストの方法って言われるとわからないけど、今のところ最初は作品フォローを増やすために読者が面白いと思ってもらえるところまで一気にUPして、その後は評価アクセスのある最新話を多く表示させるために一話ずつUPするのがベターだと思うんだ。なんだかんだ言って星の数が読者の増加に繋がっちゃうからね」
「そっかー、やっぱりUPする前に康太お兄ちゃんに聞いて良かったよ。でも一話ずつUPするとして、どれくらいの間隔にしたらいいの? それこそ一時間間隔とかだと一気にUPするのとそれほど変わらないと思うけど……」
「ああ、それはねある程度書き溜められてもストックしておいて毎日一話ずつの更新が良いと思うよ。読者としては不定期より安定した更新の方が好まれるようだし、毎日一話が無理そうなら二日に一話とか、毎週日曜日とか等間隔で予約更新した方がいいね」
同日に書いた分だけ更新するよりもストックしておいて等間隔で更新した方が良いのは『注目の作品』に乗るチャンスが増えるっていうメリットもあるんだけど、一度に説明してもパニックになるだけだろうから、またおいおい説明してあげよう。
「うんわかった! ありがとね康太お兄ちゃん。とりあえずまずは一段落つく6話あたりまで一気にUPしてみることにするよっ!」
美也ちゃんはそう言って元気そうに玄関から自分の部屋に戻って行ったんだけど、帰り間際にボソっと『喫茶店の話……本当に一人だったのかなぁ』と呟いていた。
やっぱりヤンデレの資質があるのかもしれない。
貧乏少女のカクヨム奮闘記 ~バイトできない中学生の女の子を全力で応援する男子高校生の物語~ あさかん @asakan
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