第3話

乱暴に宿の扉を閉めたお父様は、ポケットから封筒を取り出して壁に叩きつけたの。


「学園に行けばあいつにバレるかもしれない」


「そうですね·····でも、私は大丈夫だと思いますよ?」


だって、12回もヒロインのヤンナを本当の番だと言い張ったのだから。


「なぜそう言える?」


「学園には色んな方が来られますし、何となくですが大丈夫だと感じるんです」


「お前が覚醒していなければそう思えたが、覚醒後は何が起こるか分からんぞ?」


そう·····今までと違う事が1つあるの。


朱の国は人間族、蒼の国は獣人族、灰の国は魔族、そして碧の国は天族、精霊族、妖精族といった希少な種族の多く住む国で、お母様は天族の王女だった。


番といえど天族が吸血鬼との結婚を許す筈がなく、2人は引き離されそうになったけど碧の国の者達が絶対に足を踏み入れないと分かってる灰の国へと逃げ込んで結婚して私が生まれ、その2年後に母は亡くなったの。


そして私は·····魔王の血を引く吸血鬼であり、王の血を引く天族でもある。

こんな事があるなんて


この髪は天族の証でこの牙は吸血鬼の証·····魔法で隠してるけどね。


これも不思議な話で、この世界にあるのは魔術、私が得意とするのは魔法なの。


理由は分からないけど、頭の中に浮かんできた映像が魔法使いの出てくる絵のお話で、それを夢の中で見ている内に使えるようになっていたのよね。

ちょっと特殊過ぎてお父様にも言えないけど、声に出さなくても使えたから良かったわ。


思考が脱線したわね。


「お父様、学園に行かないとどうなるのですか?」


「どの国でも人として認められないな。だからどれだけ生活が苦しくても通わせるんだ」


「それなら通わない訳にはいかないでしょう」


「しかし、男の姿では通えないぞ?番は本能で分かるし、それにお前は覚醒してるからややこしい事になるかもしれないんだぞ?」


「どういう意味でしょう?」


「いや·····まぁ·····うん、それは大丈夫か?いやしかし·····」


言い淀むお父様に首を傾げながら床に落ちた封筒を拾い上げて中を読むと·····はい?


「お父様·····入学式は来月だとあるのですが」


「ああ、そういう時期だな」


ずっと婚約から卒業までを繰り返していたから、時間の感覚がおかしくなっていたのかしら·····。


ふぅ·····と溜息をついて帽子を取ると、背中半分まで伸びた髪がバサッと落ちる。

そろそろ伸ばしてもいいだろうと言われたのが11歳の時で、そこから3年伸ばしてやっとここまでになったからまた切るのは嫌だし、女子として入学できるのはありがたい。獣人や魔族を騙し切るのは絶対に無理だものね。


「でもな?俺らの稼いだ額は国を興せる額だし、無理に行かなくても·····」


「冒険者カードには卒業の有無が記載されますよね」


「それはそうだが!」


「私達は眠りにつくか自殺するか以外で死にませんよね?」


「それもそうだが!」


「じゃ、行った方がいいに決まってるでしょ?」


本当は行きたくないけど、これからも冒険者を続けたければ学園には通った方がいいに決まってるし、悪役令嬢がいなくなった物語がどう変わるのかも気になるもの。


翌日、本当は3ヶ月前に受けないといけなかった学力テストを受けに行って謝り倒し、寮はちょっとお高い一人部屋しか空いてなかったから迷わずそこにして、制服やら何やらを買って帰って来たらお父様が激しく落ち込んでたけど、何かあればすぐに逃げてくるから大丈夫だと慰めてとっとと眠りについた。


うん、何とかなるわよ。


リスタートなんか絶対にさせないんだからね!

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13回目のリスタートは自由に生きたい! セレストブルー @nyan0503

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