VOL.8

 奴はますます唇を震わせた。


『お、俺の犯罪を立証できるのか?”インクブスの舌”には禁止薬物の成分は』


『そう、その通り』俺は机の上に置いた紙袋から一枚の書類を取り出した。


『あの”クスリ”には、麻薬や覚せい剤の類、及びそれにつながるような物質は一切含まれていない。だがな、お前さんは薬剤師の免許を持っていない。頭のいいあんたなら、俺が何を言いたいか、分かってるよな。』


 奴の右腕がゆっくり動く、


『・・・・ここへ来る前に俺は警察おまわりに連絡しておいた。今頃はの事務所も手入れを受けてるだろう』


背中に回した奴の右腕が動いた。


だが、俺の手はそれより早くホルスターからM1917を抜きざま、1発発射していた。


”抜き打ちの竜”みたような真似、本当に出来るとは思ってもいなかったが、俺の弾丸は奴の拳銃・・・・コルト・オート.32だろう・・・・を弾き飛ばした。


 がっくりと膝をついた姿は、両手を床について荒い息をしている。


『俺は・・・・俺は女が憎かったんだ・・・・・だから・・・・』

 途切れ途切れに俺に向かってそんな言葉を吐いた。


『悪いが、お前さんの恨み節なんかに興味はない。警官おまわりが来たら、奴らに調べ室で聞いてもらうんだな。』


 俺は奴をうつ伏せにすると、結束バンドで後ろ向きにした手と足を縛った。



 警察おまわりが済む前に、俺は店の中を調べて回った。


 思ったとおりである。


 店の後ろ、ちょうどキッチンの裏側に、彼専用の部屋があり、そこには見るもおぞましいもの・・・・女たちのアルバム(勿論普通のじゃない。あられもない姿を写したものだ)や、DVDを納めたファイルケース、得体のしれない薬瓶が並んでいた。


 俺はその中から、依頼人の妻の写っている写真だけを抜き取る。


 DVDは・・・・こっちは幾ら何でも中身までは確認できなかったので、警察に渡すより仕方がない。


 パトカーのサイレンの音が、篠付く雨の音に交じって、遠くから近づいてくるのがはっきりと分かった。


 後の事は、全部警察おまわりに丸投げだ。


 例の『扇』の経営者は真理達が目をつけていた『組織』とつるんでいた。つまりは『媚薬』だけじゃない。麻薬そのものを全部扱っていたというわけである。


 お陰で芋づる式に全部お縄になった。


 ええ?

 『ハヤミ』のほうはどうなったかって?


 当然あのろくでなしのシェフも当然お縄になった。


 但し重要な証拠物件になるものだけを押収、後は全部処分したとさ。


 流石にこの辺は真理の力を信じても良かろう。

 

 彼女は特段喜びもしなかったが、

『助かったわ』とだけ言ってくれたからな。


 俺は例の写真を報告書に添付して依頼人に渡した。


 依頼人によれば、妻の絵里子は現在薬物中毒治療のために、軽井沢にあるサナトリウムに入院したそうだ。


 依頼人と妻の関係がどうなったか・・・・


 そんなことは俺には関係がない。


 俺はギャラの残りを、成功報酬をつけて受け取り、それで事件は解決ってわけだ。


 さて、今日も呑んだくれて帰るとしよう。ああ、そうだ。

 マリーにコニャックを奢らなくちゃな。



                            終わり


*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。


 



 





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夢魔は水曜に囁(ささや)く 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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