第29話 まだ許さない?




 アイツの友達が妹と聞かされ、意味がわからず顔を見てみるが、秒もかからず顔を逸らされた。

 本当に何がどうなっているんだ、意味がわからない。何をどうしたら、アイツの友達が俺の妹になんて話になるんだ。

 


 「へ? じゃねーよ、間抜けな声を出してねーで、早く顔を出して、しっかり話さねーか! なあ、嬢ちゃん? あ、そうだ飴ちゃん食うか? 俺の妹が大好きだったやつでよ、今も欲しがるかと思って買ってるんだ、どうだ嬢ちゃん?」


 「……そ、そうですね、……は、早く顔を出して欲しいです……あ、飴は……い、要らないです」


 「そ……そ、そうかそうか、じょ、嬢ちゃんはいい子だな、そうだそうだよな、知らない人に物を貰っちゃいけないよな、お母さんに教わったのかな? それとも、ここにいるお兄ちゃんに教わったのかな? なんにしても世の中変な奴が多いから、嬢ちゃんみたいないい子なら大丈夫だな、これからも知らない人について行ったり、物を貰ったりしたらダメだぞ? なあ嬢ちゃん?」


 「え、えと……えっと、いえあの……は、はい」



 俺は同級生とお兄さんの、一体何を見せられてるんだ……お兄さんはお兄さんで、血涙流してそうな雰囲気を醸し出しながら話してるし、アイツの友達をその姿を見て困惑しているしで、本当に一体なんなんだ、もうこれで終わりでいいだろ……寧ろ終わってくれ。



 「おい坊主! いつまで顔を隠してるんだよ! 早く出して、この教育のいきとどいた妹の、可愛い嬢ちゃんに謝りやがれっ!」



 お兄さんがさっきまでの雰囲気をかき消すように少し大きめの声で圧をかけるように言ってきた。

 本当になんなんだよ、このお兄さんは……本当に顔を出さなきゃダメか……ダメだよな。

 お兄さんを相手にだけは、話すのはまだ大丈夫そうだけど、アイツの友達には大丈夫じゃないよな。



 「顔を出すだけだろ坊主!? 何をモタモタしてんだよ! 嬢ちゃんに顔を出して、目を見てしっかりと嬢ちゃんを、こんなに可愛い妹を放置して1人ゲームを楽しんで、両替にも行かせた事を嬢ちゃんに、楽しい思いもさせずに、寂しい思いをしたかもしれない、俺達だからまだ良かったが、変な奴に絡まれて、怖い思いをしたかもしれないのを、謝って許して貰うのが筋だろ!」



 そのお隣の嬢ちゃんは、お兄さんの話を聞きながら、困惑顔になっているし、言ってることは正しいかも知れないが、話は全く正しくないからな。

 何をどう話を、そんな風に捻じ曲げていけば、そんな事になるんだよ。

 はあ、話は分かったけどなんなんだよこれ……話は分かったし早く終わらせよう。顔を出して誠心誠意、謝れば終わりそうだ。



 早く終わらそうと、更に心を決めてから俺は、久しぶりに顔が出るように、なるべく髪の毛を分けてから、お兄さん達の方を向くが……ダメだ、やっぱり目線が泳ぐとかでは無く、踊ってるんじゃないかと、言いたくなるぐらいに動いてしまう。



 「……え、えっと、これでいいですか……?」



 顔を出して周りを見てみると、お兄さんは口をパクパクと開いては閉じ、開いては閉じを鯉の様にしていたり、アイツの目を見開いて、驚いた表情を見せていたり、周りのお兄さん達も同様の反応をしている。



 人の顔見て驚くって、人としての常識はどうなんだよって、言いたくなってくる。



 「…………あ、ああ……そ、そうだな、それでいいが、あれだな中々いい面してんじゃねーか、そ、想像と違ったから、す、少し驚いちまったよ。嬢ちゃん? 何で嬢ちゃんが驚いた顔をしてるんだ? それより嬢ちゃんのお兄ちゃんはかっこいいな? なあ嬢ちゃん?


 「……ッ!? い、いや、ひ……久しぶり、顔を見たから……そ、その……か、かか」


 「うんうん、そうだそうだよな、悪かったな嬢ちゃん、顔を赤くしてるし俺達の前じゃ照れて言い難いよな、アッハッハッ。いい面してんのに坊主も勿体ねーな、まあ、それより分かってんだろ坊主? ちゃんと嬢ちゃんの目を見て話してちゃんと謝るんだぞ? なあ嬢ちゃん?」


 「えっ、あ、いや…………その……う、うん」



 返事をして顔を赤くして俯いた、アイツの友達を横目にしながら、お兄さんが言ってきた。

 正直やめて欲しい……ど、どんな罰ゲームだよ、どんな拷問だよ、アイツの友達も友達で、なんなんだよ、久しぶりも何も、顔を見たのは初めてだろう、なんなんだよその反応、どうしろって言うんだよ。



 「ほら坊主!早くしねーか!」


 「わ、分かりましたから、分かりましたから! え、えっと、1人にさせて怖い思いをさせたりして、ご、ごめんな」


 「……う、う……」


 「おい! なんで偉そうに謝ってんだよ! ごめんなってなんだごめんなって! ちげーだろ、悪い事をしたらごめんなさいだろうが! それにどこ見て謝ってんだよ、お前嬢ちゃんに謝るんだろ! 何で俺のダチを見て謝ってんだよ! なあ嬢ちゃん?」



 友達が最近までいなかった本物のボッチが、いきなり同級生の女の子と、面と向かって話しかけられる訳が無いだろ、なんの為の前髪だと思ってるんだよ。

 今、許されそうだったのに遮ってまで言う事なのかよ、お兄さんの言ってる事が、正しすぎて何も言えないだろ、言えなくなるだろ!



 「…………う、うん、ちゃ、ちゃんと、わた、わた私を見て言って欲しいかな……?」


 「だよなだよなそうだよな嬢ちゃん? 嬢ちゃんの方がちゃんとわかってて偉いな! そうだ! あ、飴ちゃ……は要らないんだったな……え、えっとジュースでも飲むかい?」


 「要らないです……」


 「そ、そうか……そうだよな……し、しっかりしてて偉いな嬢ちゃん」



 お兄さんと、アイツの友達がこのまま2人で、話していてくれないかな。

 面倒くさすぎる、かなり面倒くさすぎる、本当に面倒くさすぎる、お兄さんの血涙流していそうな雰囲気の茶番を、何回見ないといけないんだよ。



 アイツの友達も本当におかしすぎるだろ! 人を巻き込んどいて、ちゃんと見て言って欲しいかなって、なんで注文してくるんだよ、そこは許して終わらせてくれる所だろ。



 「……何見てんだよ坊主! 早くこの出来た嬢ちゃんに謝るんだよ!」


 「……え、あ、はい。えっと、怖い思いをさせたりしてごめんなさい、ゆ、許してくれないかな?」



 今のでもう大丈夫だろ、か、完璧に近かったんじゃないか? 目が泳ぐのは……踊るのは許して欲しい、恥ずかしすぎる。

 本当に俺はアイツの友達に一体何をしているんだ……


 「い、いい……」


 「ダメだダメだな! なって無さすぎる! なんだなんなんだよ、その謝り方は! 足りねーだろ? 足りねーよな? 分かるだろ!? なあ嬢ちゃん?」


 「……い、いや今しっかりと……」


 「坊主はバカヤローかよ! おい! 寂しい思いや怖い思いをさせたんだろ!? ハグして頭ポンポンをしてそのまま撫でてやるまでが一連の流れってもんだろうが! だよなあ嬢ちゃん?」


 「…………え、い、い、そ、そこまで……」


 「だよなだよな! そうだよな? そこまでして欲しいよな? 大丈夫だぞ? 俺はちゃんとわかっているから、お兄ちゃんにちゃんとしてもらおうな嬢ちゃん。顔を赤くするぐらい照れて言えないんだよな? 本当はお兄ちゃんにわかって欲しいよなあ? なあ嬢ちゃん?」



 本当に、何もわかっていなさすぎるだろ! アイツの友達だぞ、同級生の女子に、何をさせようとしてんだよ!

 本当にさせたりしないよな、しなくても大丈夫だよな俺……本当にしっかりと謝ってんだから、もう許してくれ!

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幼なじみによる幼なじみの為のお話 @yuuridesu0315

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