第28話 だれが?
「お前以外に誰がいるんだよ、ちょっとこっち来い」
肩を掴まれたまま声を低くし、強面のお兄さんが言ってくるが、おかしい、おかしすぎるだろ。
俺以外に誰がいるって、ここはゲームセンターなんだから、いくらでもいるだろ。
怖くて間違って口が裂けても、言ったり出来ないけど。そんな事より、そんな風に怖く言うのをやめろよ。萎縮して逆に何も言えなくなるだろ。もう縮こまっているかどうかは別として。
な、何とか解放される方法無いのか、俺の残りの財布の中身は、4千円と少ない小銭達だったはず……これで何とかならないかと考えたいが、話にすらならなそうだな……結局解放される方法が無いな。はあ……
「え、えっと、お、俺が何かしたりしてました……?」
「あぁ!? 坊主、飛びっきりな悪い事をして置いて自覚がねぇのか!? それともふざけてんのか!? 取り敢えずこっち来い」
「っ……え、えと悪い事をした記憶は無いので分かりませんが、取り敢えず分かりましたから、ついて行きますから……」
「坊主、まだすっとぼけんのかぁ!? あぁ!? まあいい、すっとぼけられるのも今のうちだけだ、取り敢えず行くぞ」
本当に怖すぎるだろ、そんな風に態々、怖く言わなくても別にいいだろ。俺の秘めた水魔法が下半身から解放されたらどうしてくれる気なんだよ、店が困るし、お兄さん達も困るだろ、もちろん俺が1番困るし、下半身がびしょ濡れで帰りたくなんかないからな。
それに、だいたいなんなんだよ飛びっきりの悪い事をしたって、意味が分からない。
お兄さん達がアイツの友達と話していたから、その友達の事かなとは思うが、全くと言っていいほど話した事がないのに、何をその女子に悪い事をするんだよ。
そうだよ、アイツの友達と話した事が、全くと言っていいほど、無いぐらいに無いし、あの女子の事じゃないんじゃないか……? もしかしてアイツの事か? ストーカーかとか大嫌いだとか、色々言ったのを根に持って、友達にアイツが言ってそれを聞いた友達が怒って……は、ないなと言うか無いと思いたいまである。
聞いたとしても態々、こんな事にはならないだろうしな、ならないよな? た、たまたまここで偶然だしな、ここの近くの駅でアイツに色々言ったからってここら辺を探すわけないしな、うん無い……無いと誰かに言って欲しいな。
色々考えても分からず、俺は考えるのを放棄し、黙ってお兄さんの後をついて行き、アイツの友達の前に着き立ち止まる。
「よし坊主、この嬢ちゃんに酷いことをしたよな? 嬢ちゃんに言うことがあるよな? 俺は嘘は嫌いだから正直に言えよ? 適当な事も言ったりするなよ? こっちはわかってんだからな? だよな嬢ちゃん?」
「……う、うん」
立ち止まった後、お兄さんは聞いてくるが、何も分かっていないだろ。何をわかってんだよ! と、俺がどれだけ、声を大にして叫びたいかも、わかって欲しい。
アイツの友達も友達で、何でうんとか返事をするんだよ、本当に何もしなさすぎるぐらいに、何もしていないだろ。取り敢えず酷いことをしたみたいな事になってるから謝っとけば終わるか……?終わって欲しいな、俺の人生がとかじゃなくて。
「え、えっと……ごめんなさい」
これで終わって欲しいと願い、謝りながら俺は90度に頭を下げる。こういう訳の分からない時も、謝れば早く済むはずだしな。
「で? 何がごめんなさい何だ、理由を言えよ。だよな嬢ちゃん? 本当に反省をしているか分からないもんな?」
「え、えと、うん……し、知りたいな……」
「だよなあ嬢ちゃん、ちゃんと知りたいよな! ほら早く言えよ坊主! 何がごめんなさいなんだ?」
分かるわけがないだろ、何が、知りたいなだよ。意味が分からなさすぎるだろ。俺の方が色々と知りたいぐらいだからな。
お兄さんもお兄さんで、どこからそんな声を出しているのか分からないが、低かったり優しくなったりと、俺と声音が違いすぎるだろ。周りのお兄さん達もうんうんと頷いてしかいないし、正直謝ったんだからこれで終わりでいいだろ。
「えっと、それは、その、なんでしょうか?」
「坊主、謝れば済むと思って、謝っとけばいいやで謝ってたのか!? あぁ!? 嬢ちゃんも、なんか言いたいことがあるなら、言っていいからな?」
「も、勿論違いますよ! あ、あれですよ、心当たりは勿論あるんですが、どっちなのかなと!」
アイツの友達に、言いたいことがあるなら言っていいと言葉を聞き、実際何もしていないが、変な事を言われたらどんどん長くなりそうな、雰囲気があるから慌てるように俺は、先に言葉に出した。
「どっちも言えばいいじゃねーか、てか坊主お前、嬢ちゃんに酷い事ばっかしてんのか? それによ、人と話す時は、目を見て話すって習わなかったのか? なに前髪垂らしたまんまで、謝ったり話したりしてんだよ、謝る時も相手を見て、しっかり頭を下げるって習わなかったのか?」
「ま、前髪は、色々とその……」
「色々なんだよ? 謝る気あんのか? ふざけてんのか!? ほら前髪分けてしっかり喋れよ。だよな嬢ちゃん?嬢ちゃんも嫌だよな?」
「…………えと、う、うん……い、嫌です。わ、私も……ま、前髪を垂らしたままで、謝ったり喋るのはどうかと思います……」
「だよな嬢ちゃん! ほら坊主は早くしろよ」
な、何でこんな事になったんだ、訳も分からず謝ったりしたのが大間違いだったのか。
前髪にまで飛び火するとかありえないだろ! お兄さんの言葉はまともすぎて何も言えないが、アイツの友達はおかしすぎるだろ! 俺だって人を巻き込むのはどうかと思ってるからな。
今から正直に言ったら終わるかな……終わって欲しい。よし、言おう。
「え、えっとすみません、訳も分からず謝りました。その子と俺に一体どんな関係があるんですか? 今日はここに俺1人で来ているので分からないんです」
「……は?」
「……っ!?」
言おうと決めてから、しっかりと言いたいことを言い終わると、周りの時間が止まったかのように、動きを止めるお兄さん達と、アイツの友達の姿が目に映った。
「いやいやいやいや坊主、嘘ついてんじゃねーぞ!? この可愛い嬢ちゃんが嘘を言ってるとでも言いてえのか!? あぁ!?」
「はい!」
お兄さんの言葉を聞き、俺はハッキリと返事をする。
「嬢ちゃん? 嬢ちゃんが嘘をついたのか? どうなんだ? 怖くないから、大丈夫だから教えてくれ」
「……え、えと、ち、違います……わ、わた、私……」
「うんうん、そうだそうだよな! 嬢ちゃんが嘘をつくわけがないよな! 嬢ちゃんと坊主のどっちを信じるかって、考えるまでもなく信じるのは、嬢ちゃんだから安心しな。坊主、こんな可愛い嬢ちゃんのせいにして良心が痛まないのか? 妹だろ? こんなに可愛い妹が、嘘をついてるとか言って妹を傷付けるとか、性根でも腐ってんのか? いや、わりぃ、人と目を見て話す常識すらも、分からねぇ様な奴に、そこまで分かれってのが、無理な話だったか? いつになったら目を見て話す常識を実行するんだ」
「……へ?」
いやいや、まだ何かを言おうとしてただろ!? 何で遮るんだよ、どっち信じるとかお兄さんの、独断とただの偏見じゃねーか!
それに妹ってなんの事だ、今そこが1番訳が分からないからな。誰が誰の妹なんだよ!
え、待って本当に軽く待って欲しい、俺の頭がプチパニックだよ!
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