美保先輩へ

永人れいこ

美保先輩へ

美保先輩へ


 久しぶりだね。世界の状況が悪化した中で、学校が終わてからもう2週間が経った。その学校の最後の日から先輩は一度も会っていない。けれど、もう我慢できない。どうしても自分の気持ちを先輩にここで伝えたい。

 直接言える機会がないからこの手紙で自分の気持ちを入れて書くつもりだけど、自分の考えがまだ整理出来ていない。読みづらかったらごめんなさい。

 今、先輩と初めて出会った時のことを思い出している。憧れだった学校の入学試験を合格し、入学式の当日に僕は学校までの道を迷ってしまった。偶然にはしゃいでいた3~4人の先輩たちを見つけた。僕はその人たちに声をかけたら1人が振り返った。それが美保先輩だった。あの一瞬で僕の人生が変わった。

 まるで天使のようだった。こんな人、初めて出会った。大げさじゃないよ。先輩には純白の翼、その後ろには後光がさしているようにぼんやりと見られた。こんな美人がいるわけがない、と思った。目の前に立っていたけど、現実だと信じられなかった。

 先輩は僕に優しく丁寧に道を教えてくれたよね、ありがとう。

 その日からたった2ヶ月後に流星が飛び降り、学校が停止されてお礼を言うきっかけがなかなかなかった。

 いや、それも嘘かも知れない。本当は学校の最後の日に言えるきっかけがあった。けれど、怖かった。

 もちろん、その時は地震と津波が何度も繰り返し起こって皆が怖かったけど、それよりも先輩にお礼を言えば告白になる気がしてた。そして、地震とか津波とかなんとかよりも告白して断れることが怖かった。考えだけで全身が震えだす。

 今でもこの手紙を書きながら手が震えて、綺麗な一文字を書くのに一分ぐらいかかりそうだ。

 パソコンとか携帯とかあればもっと綺麗に書ける気がする。何か思い出すとちょうどいいところに記入できるし、ダメな文章があったら一つのボタンで全部を削除できるし、きっと役に立つはずだ。けれど、もうこの世には電気というものは存在しないからパソコンとか携帯とかなんとか全部ゴミになってしまった。

 学校が停止され、4日間が経っとところ、道で高橋先輩に出くわした。高橋先輩から東京に住むことがつらくなって美保先輩の家族が長野のお父さんの実家に避難したということを聞いた。それはよかった。長野は自然多くて地震でビルが崩れたり火災が起こったりする可能性が低い、と思う。静かに本が読めるよね。

 その次の日、ちゃんと先輩に僕の気持ちを伝えようと決めて新幹線で長野に行こうと思った。

 覚えている?1週間前にあの大きいな地震が起きて日本を二つに割れてしまった。あの朝、僕が新幹線に乗り込もうとしたところで起こった。その前の新幹線に乗ってたらと思うと、僕はその先は考えたくない。

 けれど、高橋先輩と出会ってすぐ後に新幹線を乗ったら今は先輩と一緒にいられるかも知らない。そのこともあまり考えたくない。

 先日、近所のおばさんたちから妙な噂が聞いた。アメリカにはまだ青空あるそうだ。あの流星以降、真っ赤な空に慣れてたかも知れないけど、この世界にはまだ青空が見れるなんて信じられない。美保先輩もアメリカに留学したかったよね。それも高橋先輩に聞いた。

 たまに思う、先輩と一緒にアメリカに逃げたかったと。2人っきり家族として世界の終わりを平和に向かう。もし僕がアメリカに行っていたら先輩も一緒に来てくれる?

 東京は落ち着けられない。毎日どんどん暗くなってくる。今ではもういつ夜が明けて、いつ日が昇っているかわからなくなってきた。ずっとろうそく使っている。もう最後の一本の火が小さくなっている。今が書いている字はもうほとんど見えないようになっていた。このろうそくがなった時、僕の目は暗さに慣れるだろうか。

 睡眠時間もかなり減った。毎晩、悪夢をみる。夢の中、空から魔王が手を伸ばして僕を掴んで押しつぶす。毎回、冷や汗で起きてそのまま日を始める。また寝ればあの地獄のような悪夢の続きが見られる気がする。

 とうとう今ろうそくが消えたが、周りを見ると少し明るく見える気がする。やっぱり目がこの暗さでも慣れる。人間とはすごい生き物だね。

 昨日は、最後に見た先輩の顔を思い出した。泣いていたよね。どうして泣いていたのですか?確かに流星が落ちてからこの世界は怖いところになったけど、先輩の涙には違う理由があったのではないかと思う。

 今、窓の外を見て確かに外が明るくなった。まだ赤いけど、前の息苦しい真っ赤というよりも優しいピンク色になってきている。先輩も長野でこの景色が見えているか?これが世界の終わりじゃなかったらこの景色が綺麗だと言える、と思う。

 今思い出したら、あの時泣いている美保先輩は他の先輩と話していた。かっこよさそうな男だったと覚えている。彼は先輩に何かを説明しているようだった。けれど、結局先輩が嫌がって逃げてしまった。どんな話だったのか?すぐ追いかけようと思ったけれど、怖さで自分の足が動かなかった。最低だね。今でもそれを後悔している。

 美保先輩、これを見ていますか。空に月のような大きな隕石が僕の真上に見える。だから、まだ時間はあるけどこれを早く書き終えたい。先輩がこれを読むとき、この世には僕の存在もいなくなっているかも知れない。もっと早く自分の気持ちを伝えられなくてごめんなさい。早く伝えたら、結果は違っていたかも知れない。

 覚えているか?あの学校の最後の日、一人の女の子が学校の屋上から飛び降りて亡くなった。彼氏に振られてもう生きたくなくなって自殺したそうだった。かわいそうだね。今の僕は彼女のことを考える。この流星を見ると何となく彼女の気持ちがわかる気がする。どんなに人を愛しても相手に手が届かないとつらい。本当に世界が終わっている気持ちだね。



 美保先輩、ずっと言いたかった。愛――――

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