最終話 新たな世界に
「もう、このぐらいでいいでしょう、いまから、あなたを私のものにします」
抵抗すらできない私はこくりと頷くしかなかった。
これから、彼とするんだ。
ドーン、ドーンドーン!
初めては、すっごく痛いんだよね。
ドーン、ドーンドーン!
優しくしてほしいなぁ。
ドーン、ドーンドーン!
あの、さっきから何かを叩く音が聞こえてくるのですが、うるさくて、雰囲気ぶち壊しじゃないですか?
「おらぁーー!!」
幼女の掛け声とともに目が眩むほどの閃光がほとばしり、パリーンと何かが砕け散る音がした。そう勇者の結界が破られたのだ。
「あなた、ナニやってるんですか!!」
閃光が消えた瞬間、ランドセルをしょった黒髪幼女さんが目の前に降臨したのだった。あの時、ゲームセンターですれ違った幼女だ。なぜか右手にバールのようなものを握りしめている。可愛らしい容姿に全くもって似合わない。
黒髪幼女さんの顔が……あら、不思議、鬼の形相になっていく。
ドドドドドドドド!!
彼女のバックに何やら恐ろしい擬態語が、
「この野郎ーー! 勇者のくせに、ナニしてやがりますかぁ!! しねぇーー!!」
「ぐはっ!!」
幼女はエルネストの顔面めがけて、バールのようなものを叩きつけた。
「オラオラオラオラオラオラ!!」
目にも止まらぬ速さで滅多打ち。
ベッドのシーツが赤く染まっていく。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
ただ、この凄惨な光景を見守るしかなかった。というか、エルネスト死んでませんか?
「しねしねしねしねしねしねしねしね!!」
さらに、追い打ちをかけて血まみれの顔面に蹴りを入れだした。
この幼女様、すっごく怖い。
エルネストは、沈黙し動かなくなった。
だが、容赦せんとばかりに黒髪幼女さんは説教をはじめた。
「ふぅ~、呆れました。私の愛する世界にR18の行為はすべて禁止なんです。あなた、わかってるんですか? というか、聞いてますか? わたしはね、世界の標準設定を全年齢対象に設定しているんです。もし運営様に報告されたら、この世界は削除されるんですよ? デリートですよ。あなたわかってます?」
説教をし続ける幼女さん、おそるおそる私は幼女さんに話しかけた。
「あ、あの、助けてくれたんですよね。ありがとうございます。ところであなたはだれですか?」
「ごほん、私は精霊神コレットと申します。コレットちゃんと呼んでくださってもいいですよ。この世界はきったないです、バッチイです。もう汚染されています。全然だめです。だから汚いモノと一緒にこの世界を封印することにしました。あなたはこの世界の人間ではありませんし。それに、アレらと違ってまだ汚れてはおりませんから、私の力で元の世界に戻してさしあげます」
「はぁ」
「でも、あなたはこの世界の主役、柱です。いなくなってしまうとこの世界に歪みが生じる可能性があります。きったない世界でも、ただ壊してしまうのはさすがに忍びないです。それで……」
裸のまま、縄でぐるぐる巻きされた貴族の男がコレットちゃんのランドセルから飛び出ててきた。
あのランドセルはまさか、4次元。
「よいしょっと、この人は、この世界を混沌のR18におとしめた犯罪者です。だから、コレを軸にして、あなたのかわりにこれからは、柱として頑張っていただきます」
「俺にナニをしやがる、せっかく彼女とイイところだったのに、この世界で俺はハーレム王になるんだ!! わお、エルフたんだ、まじ、好みじゃん、俺、エルフ大好き人間なんだ。俺のハーレムになってよ。俺、この世界ではイケメン王子なんだ」
「うっさい、死ねです!!」
「げぶっ!!」
コレットちゃんの凄まじい蹴りが男の顔面にクリティカルヒットした。
男は吹っ飛び、エルネストと裸で重なり合うかたち、いや、抱き合うかたちで気絶した。
なんだろう、見ていると熱いなにかを感じてしまう。
ケーキ以外でこんなの初めてだ。
そういえば、この人の顔、どこかで見たことあるような……
「さぁ、この世界を封印します。早くこの門から脱出してください」
そういって、彼女のランドセルから桃色の扉のようなものが……
まって、これってどうみても
「どこでもド……」
「だ、だめですよ。これは違うんです。これは、どこでも門なんです!! それをいってしまうとおしまいなんです。さぁ、はやく行ってください」
コレットちゃんにせかされながら、わたしは門をくぐりぬけた。
★★★
「明日香、明日香!!」
「うん?」
懐かしい声に反応し、私は閉じていた目蓋をゆっくり開く。
な、なに、これ、まぶしい、目が痛い。
とてもじゃないけど、開けられない。
それでも、ゆっくり、目を慣れさせて開けていく。
だんだん痛みも少なくなってきた。
ぼやけた視界がゆっくりだけど、戻っていく。
すると、白い天井が見えた。
視線をずらすと、胸のあたりまで、白いシーツがかぶされていた。腕になにかが刺さっている。
これは針、私は点滴をつけられているようだ。
ここは、病院?
「明日香、目を覚ましたのね」
声のする方に目を向けると、お母さん、母がいた。
「お、お母さん、わたし、今まで、つぅ、頭が痛い」
わたしは、たしか、エルフになって……
「良かった、あなただけでも無事で、ここは病院よ」
「……どうして、わたしは、ここに?」
涙ぐむ母は私を優しく抱きしめてくれた。
温かい、
どうしてだろう、涙があふれて、止まらない。
そうだった、あの世界では、わたし、何年も、ひとりぼっちだった。
わたし、わたし、本当は、こわかったんだ。
「あなたが小さな頃、遊んでいた空き地があったでしょう、あそこで原因不明の大爆発が起きたのよ。あなた達はそれに巻き込まれて……」
話を聞くと、学校の帰り道。
空き地に置かれていた三本の土管が突然、ドカーンと爆発したらしい。
それに巻き込まれてしまった私は3日間昏睡状態になっていたそうだ。
身体に外傷はなく、原因不明のウィルスが発生してのではないかと囁かれた。
「あなた達って、母さん、まさか私以外にも?」
母は隣のベッドで眠る少年に目を向けた。
「まさか、うそ、みつるなの?」
それは、弟の満だった。
顔は真っ青になって、すっかり痩せこけているように見える。何かに酷く怯えている、そんな感じがする。
「満もね、巻き込まれたの」
話を聞くと、爆発でぶっ飛んだ土管がミツルを下敷きにしてしまったらしい。ミツルは、意識不明の重体になった。
「みつる……」
「や、やめろ、や、やめでぐれ、えるねずとおおお、俺の尻に近づくな! 本気か、ヤメロ、いれないでくれ、オレがワルかったから、アッーーーーー!!」
弟の満は絶叫し、暴れ出した。
よく見ると手足に拘束具のようなものがつけられていた。
「最初は気持ち悪いぐらい、ニヤニヤしていたんだけど、つい最近になって、ときおり、ああして、ミツルは暴れ出すようになったの」
「みつる」
★★★
退院したわたしは一人、空き地へと向かった。
「ここにあった、ゲームセンターは?」
何もなかった。
立ち入り禁止の柵だけが空き地を囲うように置かれていた。
「夢だったのかな。でもすごく気になる」
わたしは柵の隙間をくぐって、空き地の中へと入った。
あのゲームセンターの痕跡がすこしでもあればいいのに、やはり、なにもない。すべて夢だったのかな。
「なにもないね」
『や・ら・な・い・か』
うん? イイ男の声が聞こえたような。
声のした方向に向かうと、焼け焦げたナニかが落ちていた。
「えっ、これって!!」
ゲームソフトだった。
もしかしてこれって、満が私の誕生日にくれた乙女ゲー(18禁版)なの?
わたしはソフトを拾い上げ、パッケージを覗いた、そこには……
「こ、これって……」
勇者エルネストが隣国の王子を四つん這いにし、✖✖✖✖しているゲームソフトだった。
タイトルは、エルフな私の部分に二重線が引かれて、『王子な俺と勇者様』になっていた。
私は驚愕した。
乙女ゲー(18禁版)がBL(18禁版)になっていた。
私はパッケージを開けて、中身を確認した。
どうやら、中身は無事なようだ。
わたしは、ちょうどいいところにあったゴミ箱にこれを……だけど、手が止まってしまう。
どうしてだろう。あの光景が頭によぎってしまう。裸で彼らが抱き合った光景を、コレットちゃんが私に見せてくれた素晴らしい世界を。
これをここに捨てちゃだめな気がする。それにケーキ以外でこんなの初めてだ。この湧き上がる感情はなに?
そうか、これは、きっと、神様からのプレゼントなんだ。
わたし、びーえるに、すっごく興味があったんだ。
興味があったけど、買うのが恥ずかしくて、だから、神様、ありがとうございます。
私も新たな世界に目覚めようかとおもいます。
『アッーーーー!!』
病院に入院しているはずの、ミツルの声が聞こえたような、きっと気のせいだよね。
エルフな私と勇者様 眠れる森の猫 @nekoronda1256hiki
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