雀と蟷螂
@556556
第1話 湧く
「・・・殺してみたい。」
深夜二時、寝付けず頭の中でいろいろなことを考えていた到達点。つぶやいたこの言葉、ふと自分の心に芽生えた感情。誰にも相談できるような代物ではない異常な感情がふと湧いてきた。動機はない、理由もない、初めてオナニーをすると決意したときのように、好奇心と快楽を求めて芽生えた感情である。あぁ・・・見てみたいなぁ、人が人からモノになる瞬間を。毛布とベットの隙間に隠れるように横になっていた僕はパソコンを開き殺人について調べることにした。幸い明日は土曜日なので夜更かししても影響はない、何かを準備するときはなんでも明日が休みの土曜日がいいに決まってる。しかし殺人について検索しようとして困った、僕は何をどう調べればいいんだ?殺人という言葉の意味なんて誰でもわかる。・・・数秒考えてはじき出した答えは「少年法」だった。なるほど僕の年齢では刑罰を受けないのか、一四歳の誕生日までおよそ四か月か・・・それまでにやらないと少年院に入れられてしまう。早く誰かを殺さないと。
そのあとは殺人鬼の心理や最期の言葉などを調べてみたが十三歳の僕にはよくわからなかった、なんか顔が怖い人ばっかで気持ち悪かった。パソコンをいじり始めて二時間がたち眠気がピークに達した僕はまた毛布とベッドの隙間に隠れこんだ。
その夜、僕は夢を見た。赤いテーブルクロスをまとった学校机の上にハエが一匹閉じ込められた虫かごがあってその隣にもうひとつ机がありその上には文字の書いてある箱が三つ置いてあった。
「溺死」「毒殺」「圧死」
僕は印象で「溺死」の箱を開けた。毒は自分に害があるかもしれないしそもそも虫は水に弱いからという安直な考えだ。箱の中には水の入ったバケツがあるだけだった。僕は虫かごをバケツの中に沈めた。
少ししてから虫かごを上げるともちろんハエは死んでいた。つまんない夢だなと思っているとそのハエが突如動き出し虫かごをすり抜けると人間の姿に変身したのである。
「ヤァ、コンニチワ。。。」
ハエは英国紳士のようなかっこうをしており無機質な声で僕に挨拶をしてきた。
「え・・・あ、え、んとどうも・・・」
「ボクヲコロシタキブンハドウダイ?」
「虫を殺したくらいじゃなんとも・・・そもそもあなたは誰?」
「ワタシハハエノオウサマサ。マアソンナコトハドウデモイイ。ナゼデキシヲエランダノダ?」
「だって虫は水に弱いじゃん。ただそれだけ。」
「ハハハハハハイイカイ、ナニカヲコロストキハ・・・苦しませないとだめじゃないか。」
「ッ・・・」
急に声のトーンを変えたハエの王の言葉に僕は恐怖し、そてと同時に納得してしまった。
「いいかい?何かを殺すときってのはどうせ死ぬという結果は変わらないんだ、どうせなら楽にじゃなく苦しめてあげないと。」
「・・・」
「ドウシタ、ダマリコクッテ、」
「僕はどうすればいいんですか・・・」
なにをいっていいかわからなかった、怖い、恐い、こわい、悪夢だ早く覚めてくれ・・・
「ワタシノイウコトヲキケバイイノサ。」
「なんで」
「ナンデッテソリャァ・・・殺したいんだろ?人を。」
「・・・あれはなんていうかその・・・えっと・・・」
「キミノアノ「感情」ヲカンジテボクハキミノオテツダイヲスルタメニキタンダヨ」
わからないわからないわからない、なんだこの状況はなんだこいつはそもそも、どうすればいいんだ、わからない。
「あの・・・手伝いってどういうことですか?」
「カンタンニイエバキミノスキナヨウニサセテアゲルッテコト」
「はい?」
「殺してみたいんだろ、一回ぐらいヒトヲネ」
そうだ、僕は目覚めたんだ、あの感情と好奇心を覚えた瞬間なんというか生きる意味みたいなのを感じたような気がする。
「あの・・・」
「ン?」
「こういうのって契約とかあるもんなんじゃ・・・」
「ダイジョブダヨ、ナイナイ、ソレヨリ殺すんだな?」
「・・・はい」
返事とともに目が覚めた、この返事で僕は人間をやめたような気がした。
雀と蟷螂 @556556
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