異世界勇者になって自己破産した僕の話

月輪話子

異世界勇者になって自己破産した僕の話

「文明発展レベルが近世並みで、虫が主食の地域以外であれば」

振り返ればこの条件の付け方もよくなかった。


交通事故であっけなく23年の生涯を閉じた僕は、希望条件が多少考慮された異世界に転生し、運命を背負った勇者として第2の人生を歩む、そういった神様と称する男の目論見に、協力することを決めた。


そうして文化的成熟度もそこそこな法治国家に転生し、伝説の「濡羽の魔眼」と先代勇者と同じ「搖花の杖」「メモティアの信託書」を持つ僕はアークナイア魔法連合国ジェトル領の領主お抱えの勇者(レイトの子)として厚遇を受け、美しい女性の従者たちと共に魔物討伐の旅路についた。



そしてその3か月後…、僕は債務超過で破産した。



理由は至極単純で、この世界が僕より現実的で、僕が思ったより夢見がちだったことだ。



破産した時、自分が置かれている状況を弁護士から説明を受け、初めて失敗を理解した。


要点はいくつかある。


1つ目は「勇者」の給料が高かったこと。

統括理事階級定めの、1任務辺りの単価額だけを見て(恐らくかつての自分の所得と比較して)満足し、この世界の経済・制度で、実際の「手取り」はいくらになるのか、算出を怠った。



2つ目は戦士業にかけられる税が高いことで、近世文明国家だけあって前世と同じく国の歳入の2/3は民から徴収する税金で賄われているのだが、とりわけ、魔法使いを含む、戦いを生業とする職業への課税率が多い。


消費税:5%

住民税:(拠点とする地域では)課税所得の5%

所得税:(階級「勇者」の場合は)課税所得の40%


この時点でも額面と手取りにかなり差がある。

が…


魔物討伐税:1任務あたり20%


正直これだけは徴収に納得がいかない。

なぜ人々を守るために命がけで凶悪なモンスターとの戦いに身を投じる僕たちが、

国境を越え仕事に励むのに、国に税を納めなくてはならないのか。


全戦士の軽視も甚だしく、冒涜にも近いと感じる。


閑話休題。


確かに宝物などの拾得物は(一定以下のレートでは)課税対象から控除されるため、他の職業よりは稼げるらしいが、保険や前述の税金を引かれ、手取りは半分以下になる。



3つ目で、最も大きな失敗としては、単純に収入以上にお金を使っていたことが挙げられる。

消耗品、衣食住にかかる日常的な出費のほか、僕のパーティーのシスターのサナ女史が、勇者様の旅が楽になるように、と今買わずともよい高価なアイテムや余分な蓄えをパーティー名義(支払いは僕に請求)で無断で買っていたこと。

戦士のカレン女史の浪費が激しく、金欠で僕を借金の保証人にしたこと。

特別な踊り子の才を持ちながら奴隷身分のアーデリンデ女史と恋に落ち、見受けにまとまった一括の資金を必要としたこと。


があげられる。


間抜けな話だが、勇者の給料に安心しきっていたこの時の僕は、麗人には金がかかるのが当然で、女三人の気随などとるに足らないと考えていたのだ。


4つめは、1か月が15日周期であること。

高価な品はローン返済することとなるが、この世界の1か月は30日ではなく15日周期のため、次の支払いまでの間隔が非常に短い。


畢竟、のんびり、割りの仕事だけを選んでいれば、首は回らない。



そのような経緯で早々に文無しとなった僕は、財産整理で法具「搖花の杖」(前世でオンラインショップで買ったハーバリウムの万年筆)と「メモティアの信託書」(革装のメモ帳)、他装備品・魔道具一式を手放し、また無形財産として、「魔力」もアッカナ魔荷収払保護規定(?)で、差し押さえ禁止ラインとされる1/4まで抜き取られた。


現在僕は破産手続きを終え、いち魔法使いとして魔物討伐と自己研鑚に励んでいる。


「勇者」から4階級の下の「高等魔術師」に降格処分を受けたり、たくさんの人の信頼を失い、以前程の収入は得ていないが、節約を意識し始めたことにより、出費を抑えられ、以前よりも生活は楽になったと思う。

特に食事に村周辺に出没する、巨大蟻とグリーンワームを取り入れたことが大きい。

背に腹は代えられず、苦渋の選択だったが存外見た目より味は悪くなく、貴重なタンパク源として重宝している。


前世で大きな苦労もなくほどほどに幸せな生活を享受してきた自分にとって、危険と隣り合わせだが、実力と意志力だけで身を立てる今の暮らしはなんだかんだで充実している。

※推奨は、全く、しない


最後に、自分と同じ世界から転生した中高生を何人か目にしたので、僕のこの失敗がせめて彼らの反面教師となれれば幸いと思う。


どの世界で生を受け、どのような才能に恵まれたとしても、どんな人間と出会ったとしても、そこにある「現実」と向き合って生き、考えることをどうか忘れないでほしい。

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